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閉じた世界の機甲兵  作者: ライザ
第一章 壊れた世界
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集団戦


 高度2000mのコックピットの中で、俺は両のグリップを強く握った。

 意識を集中。全長100メートルの巨大なロボット――ウェアと、感覚を同化させていく。


 ウェアとは――外宇宙生命体との決戦のため製造された人型兵器の総称だ。かつては人類に平和もたらした救世主。しかし今は、人同士の争いの道具でしかない。


 ――最後は集団戦か。


 俺の感覚が次第にウェアそのものになっていく。


 巨大な鋼鉄のボディは俺自身の肉体となり。

 その堅牢な四肢は俺の手足であり。

 全身のスラスターは俺の想いのままだ。


 俺の目の前には五機のウェア。敵軍の一般的なシリーズが立ちふさがっていた。

 

 ウェアには全身の至る所に巨大なスラスターが取り付けられている。腕部、肩部、背部に脚部。どのような姿勢からでも全方位に加速ができるように作られている。

 これは、敵機も俺も同様だ。思考によって反射的に操作ができ、そして自在に動くことができる――これはどのウェアにも共通している。


 その装甲はエネルギー兵器をほぼ無効化する多層高位無化装甲によって作られ、まともな兵器では傷一つつけることはできない。


 これを突破できるのはノヴァ粒子亜光速加速機を内蔵した、通称「ニードル」と呼ばれる機構だけだ。

 針形状の弾丸を撃ち込み、着弾と同時にその針を展開させる。その後、敵装甲上に亜光速まで加速したノヴァ粒子射出し、反応を引き起こす。

 そして、超エネルギーとノヴァ粒子の収束により着弾した存在を消滅させる――エネルギー兵器を無効化してしまう多層高位無化装甲を突破できる、ほぼ唯一と言っていい機構。それが、ニードルだ。


 このニードルはウェアのあらゆる装備の基本となっている。ウェアの射撃部も近接武器も、ほぼ全てにニードルが使用されていた。そうでなければ多層高位無化装甲を持つウェアにはダメージを与えることはできない。


 敵機の武装はスタンダードなもの。遠距離、近距離のバランスが整ったものとなっている。

 肩部には遠距離のライフルが取り付けられ、背部にはホーミング式のミサイルがラックされ、巨大なスラスターも装備されていた。胸部には近接に有効な、拡散弾が取り付けられている。その手にはニードルガンが握られていた。中には剣のような武器、放射式ブレイドを持つ機体もある。ボディの装甲は分厚く、恐らく100層ほどの多層高位無化装甲が存在している。


 その各武装、機動力、多層高位無化装甲のレベル、そして注意すべきは何か――経験を一気に呼び起こし、対応パターンを想起させる。


 ――いくか。

 

 俺は機体の――自身の全身のスラスターを使って、一気に加速した。

 

 一気に目標との距離を詰める。

 その間、敵機はニードルライフルとホーミングミサイルを発射した。

 俺は左肘に取り付けられたスラスターを吹かして右へとライフルを避けた。

 遅れて、ホーミングミサイルが迫ってくる。こいつは単純に避けても意味はない。

 今度は足裏と腰部のスラスターを全力で吹かし、機体を上昇させる。

 ミサイルを避けると共に、機体の脚部に装備されたニードルバルカンでホーミングミサイルを迎撃した。


 ニードルバルカンが着弾したその瞬間、ミサイルが一瞬輝き――そして、弾頭がえぐり取られ、消えた。


 ノヴァ粒子亜光速加速機による対消滅。一瞬で産まれた膨大なエネルギーと、反エネルギーによる収束。そこにあったはずのものは消え去り、跡形もなく消滅した。


 敵機の上空を取った。

 それに反応して、敵機は俺を取り囲むように分散していく。

 比較的、セオリーの動き。


 ならば。


 俺はその内の一機――もっとも動きだしが遅かった機体――に狙いを定め、機体を接近させた。

 敵ウェアは俺から距離を取るように移動し、その間にニードルガンとミサイルを乱射していた。

 パニックになっているのだろう。集団戦の内の一体は、大概ビギナーが混じっている。


 敵ウェアよりも俺の方が速い。

 相手が逃げようとしても簡単に間隔は詰められる。


 と、それを防ぐように、敵の内一機が俺へと急接近してきた。

 放射式ブレイド――接触物体にニードルを連続で射出する剣――を構え、近接戦闘を挑んでくる。


 判断が速い。

 独断先行か、それとも連携の一種か。

 他の機体の動きはない。

 とすれば、これは独断。


 俺は右腕に取り付けられたスラスターを上空へと吹かし、敵機の下へ。

 放射式ブレイドを回避。

 直後に背部と足裏のスラスターを時間差で操作して、敵機の後ろへ回り込む。


 そして、敵の背部スラスターに右腕に取り付けられた短いパイルバンカー状の装備――多連ニードル射出機構を突き刺した。

 

 一瞬。

 無数のきらめきと。

 粒子の収束。


 ニードルが連続で敵ウェアに打ち込まれ。

 多層高位無化装甲を消し飛ばしていく。


 数秒の後、俺は敵ウェアを蹴り飛ばし、離脱。

 敵ウェアには巨大な貫通穴が開いていた。

 パイロットは絶命しただろう。

 そのまま、ウェアは力を失い、地表へ落ちていく。


 その後、俺は狙いを定めていたビギナーへと向かった。

 狼狽えているのが分かる。味方が撃墜され、怯えているのか。その膠着が命とりなのに。


 敵ウェアが俺に照準を定めようとするが――それよりも早く、俺は横を取った。

 そして腹部のコックピット付近へ多連ニードル射出機構を突き刺す。

 

 連射。

 ニードルが多層高位無化装甲を削り取っていく。


 最中、二方からミサイルが。

 俺は多連ニードル射出機構を引き抜き、そのまま敵ウェアをミサイルへと投げつける。


 ミサイルが敵ウェアに着弾し、一瞬の閃光が走った。

 俺は敵ウェアに接近。

 更にウェアを蹴り飛ばし、もう一方のミサイルも着弾させる。

 そして、多層高位無化装甲の半壊したウェアにニードルバルカンを打ち込み――撃墜した。


 その後、残った敵ウェアを視認。三機とも俺と距離を取ろうとしていた。

 俺の機体は近距離高速戦闘を得意としている。遠距離からの砲撃で囲まれたら面倒だ。


 ――恐らく、相手の二機は連携が取れている。残りの一機は反応が鈍い、だったら。


 連携の取れているうちの一機に狙いを定め、俺は機体を加速させた。

 先にコンビネーションを潰す。その方が楽になる。

 

 同時に敵機に急接近。

 左腕の中距離ガトリングで攻撃する。

 しかしそれよりも一瞬早く、相手がホーミングミサイルを発射。

 ガトリングがミサイルに着弾し、消滅する。


 更に砲撃が来る。俺は立ち止まらないよう、スラスターを吹かして円回転。

 敵機の砲撃をかいくぐり――俺はボディを目がけ、多連ニードル射出機構を突き刺す。


 しかし、それは敵機の左腕に突き刺さった。左腕を盾にされたのだ。

 思い切りがいい。左腕を犠牲にするつもりか。

 ニードルが左腕を消滅させていく――が、その間に敵機はもう一方の手でこちらの右腕を掴んだ。


 こうなれば次は胸部の拡散弾が来る――

   

 だったら。


 俺は自らの右腕を分離し。

 スラスターを吹かし、敵ウェアを蹴りつける。

 胸部拡散弾を回避した。


 その間にも切り離した右腕は、ニードルを連射し続ける。

 敵左腕が消滅した。

 がら空きになった敵ボディに、俺は左腕に装備された中距離式ガトリングを連射。

 敵は瞬く間に装甲を失っていく。


 ウェアには一部、特化型と呼ばれる特殊な機体がある。

 俺の機体はその内の一つ。

 ボディの分離と遠隔操作を使用し、多数のユニットと攻撃パターンで敵をかく乱する――

 奇襲戦特化型機体だ。

 ボディから切り離したユニットでは自分の身体のような精密な動作まではできないが、武装のオンオフと加減速ができれば問題はない。

 

 敵ウェアが爆発。

 同時に、敵の砲撃。

 今度は腕、足、本体――全身を四散させ、回避した。

 

 分離した左脚にてニードルバルカンを連射しながら敵機へと向かわせる。

 敵機はそれを向かい撃つように砲撃を行った。


 好都合。こいつには死角に送り込んだ俺の右腕が見えていない。

 右腕の多連ニードル射出機構を展開。

 狙いを定めて一気に加速。


 敵機は下方からの多連ニードル射出機構の直撃を受けた。

 同時に左腕の中距離式ガトリングも叩き込む。


 最後は多連ニードル射出機構に機体を貫通され、撃墜。

 左腕はガトリングを放ちながら、そのまま残りの敵機、最後の一体を狙う。


 敵機は左腕の軌道をかわしながら、俺のボディ――コックピットの存在するブロックへと砲撃を行った。

 同時に放射式ブレイドを展開させ、接近してくる。

 俺は左右の脚のニードルバルカンで敵のミサイルボッドを狙う。


 しかし、相手は回避することなくミサイルポッドを切り離した。

 ミサイルポッドにビームが命中して、消滅。

 敵機は俺との間合いを詰め終えた。


 直後、放射式ブレイドが俺を、コックピットを狙う。


 俺はスラスターを吹かして、その斬撃を回避――しかし、逃げたその先に、敵はライフルの射線を向けていた。


 ライフルの直撃を喰らう。

 多層高位無化装甲が5層、連続して消し飛ばされた。


 放射式ブレイドが直撃する――


 だが、それよりも一瞬早く、右腕の多連ニードル射出機構が敵機に突き刺さった。

 敵の体勢がそれ、放射式ブレイドが逸れる。


 その隙に俺は両足をボディに再接続。その足で敵機を蹴りつけた。


 敵は姿勢を崩しながらも俺の機体へニードルガンの銃口を向けた。

 発砲。足に直撃を受ける。


 ならば、と俺は機体のスラスターを吹かし、敵機との間合いを詰めていく。

 ケリを付ける、これで終わらせてやる――


 その時。


 頭の中にアラームが鳴り響いた。

 同時に、俺の身体は――ウェアの自由が利かなくなる。

 俺は意識を自分の肉体へと引き戻されていった。


 スラスターは停止し、銃撃が止む。

 俺の機体も、敵ウェアも完全に脱力して宙に浮いていた。


《規定時刻です。即時戦闘行為を中断し、各自帰投してください》


 俺の住む「タワー」を管轄する超量子コンピューター、「リブラ」の声がコックピット内に響き渡る。


 ――時間切れ、か。


 俺はウェアを自動操縦モードへと切り替え、ふう、とため息をついた。

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