シンデレラシンドローム
あらすじにも書いた通り、主人公目線の話です。
「シンデレラコンプレックス」を読んでくれた方のために書いたので、まだ読んでないという方には分かりにくい内容となっています。
シンデレラコンプレックス↓
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むかしむかし、あるところにそれはそれは美しい貴族の娘がいました。娘は心優しく、誰もが彼女を愛していました。娘はとても幸せでした。大好きだった母親が亡くなり、継母とその継母にそっくりな二人の娘達が来るまではーー。
*
「お義母様、床みがきが終わりました。」
毎日毎日働かされて、イヤになっちゃう。何時間膝をついて床をみがけばいいというの?まだ汚れているだとか先にほうきで掃除しろだとか注文が多すぎるのよ。
「ふんっ、そうかい。なら次は皿を洗って、その後は燭台をみがいておくれ。ピカピカにしないと承知しないからね。」
継母は、うつむいてボソボソと文句を言う娘に気がつきません。
「でも、お義母様。私まだお昼も食べていないんです。」
お腹が減ってしんでしまいそう。でもいくらお義母様でも食事抜きとは言わないと思うわ。
「勝手にすればいいさ。働いてくれさえすれば文句はないよ。」
やっぱり。
継母の「あんたのことなんてどうでもいい」といった様子を見て、娘は少し悲しくなりましたが、下を向いて見ないふりをしました。
あぁ、お腹が減っているせいでお義母様の様子が気にならないわ。だから、悲しいだなんてあるはずがないわ。
ーーはい。とだけつぶやいて、娘はその場をあとにします。
あぁ、嬉しいわ!やっとご飯が食べられる!
娘はもうご飯のことしか頭にありません。
その切り替えはたいへん見事で、実は無理をしているだなんて、誰にもわからないでしょう。きっと、自分でも気がついていません。
ご飯を目指して早足で歩き去る娘には聞き取ることができませんでした。「あんたが幸せになるにはそれが一番なんだからね」と小さくこぼした継母の言葉を。
*
「コックさん、コックさん!私の今日の昼食はなんですか?」
娘は厨房へ行くとコックにそう言いました。
娘の食事はすでにできていて、コックはいすに座ってくつろいでいました。
「あぁ、お嬢様。今日は豪華ですよ。たっぷり食べてくださいね。」
コックが優しくそう言うと、すでに娘は席についていて「いただきます!」と元気の良いあいさつをしました。
美味しそうに食べる娘を見て、コックはさきほどのことを思いだします。あの継母の娘は、何がしたかったんだろうか。
「まぁ、なんてみすぼらしい食事。貴族の娘の食べるものではなくてよ。」
そういった彼女を諌めた自分に「これからも義妹ちゃんをよろしくね。」と微笑んだのだ。意味がわからない。
……まさか彼女は義妹思いの優しい義姉だったというのか。まさかそんなはずは……。気になることはありますが、まぁとりあえず、彼女のおかげでお嬢様に美味しい食事を作ることができましたし、よしとしましょう。
*
私には秘密の文通相手がいます。彼女は魔法使いと名乗っていて、私が困っていることを相談すると、なんでも解決してくれます。
魔法使いの正体?それは本当に謎なのです。丁寧な字や文面から女性だと想像していますが、分かりません。
うちで雇っている下働きのメイドさんの誰かかもしれませんね。メイドさんたちとはほとんど話したことがありませんけど。
彼女が知られたくないのなら詮索せずにいましょう。
私はさっそく手紙に今日あったことを書くことにしました。
『今日はご飯がいつもより美味しかったです。みがくはずの燭台がきれいになっていたり、他にも色々といいことがありました。魔法使いさんのおかげでしょうか。ありがとうございます。でも一番嬉しかったのは、コックさんといつもより話す時間があったことです。』
継母には冷たくあたられ、義姉たちには無視される毎日ですが、私を助けてくれる魔法使いさんや優しいコックさんがいるので、なんとかやれそうです。心配しないでね、お父様。お母様も空から見守っていてね。
*
「魔法使いさんの手紙、最近おかしいわ……。」
手紙の返事はいつもどうり気がついたらある、という感じですが、なんか最近手紙の枚数が多く、すごく分厚いです。
『食事や燭台の件、喜んでいただけて嬉しいです。新しい便箋は気に入りましたか?あなたはなんでもためてしまいがちだから、心配です。もっといろいろ悩みをぶちまけてくださいな。』
『まえから思っていたのですが、そのドレスはもうダメです。寿命がきています。雑巾にしてしまってください。
それに、あなたはもう働く必要がありません。
あなたに似合うドレスを見つけました。用意しておくので、次から…というか、今からそれを着てください。』
『やっぱりそのドレス、あなたに似合っています。次はこれを着てください。靴はこれをはいてください。』
『次は、……』
魔法使いさんと仲良くなれて、嬉しいです。
*
待ちに待った舞踏会の日。王子様の結婚相手を見繕うためのダンスパーティーなのだと聞き、私はわくわくして眠れず、少し寝不足でした。
実は前から憧れていたのです。『赤い糸で結ばれた運命の人』というのに。
運命の二人は生まれる前から左の小指に巻き付いた赤い糸で繋がっていて、出会った二人は必ず恋に落ちるのだそうです。
この間もお気に入りの恋愛小説で読みましたが、やっぱりいいなと思います。
誰か私をお父様のいないこの家から救い出してはくれないでしょうか。
ーー「あんたは留守番だよ!」
私はショックをうけました。
掃除をしなくてよくなったので、朝からボーッとしていたら、突然そう言われたのです。
いままで気がつきませんでしたが、どうやら今日はお義母様は機嫌が悪いようで、私を部屋に閉じ込めて、舞踏会に行けないようにと、ドレスや靴をみんな隠してしまいました。お義姉様たちのものを借りることができないようにとお義姉様たちの部屋にも鍵をかけていたようでした。
「あぁ、閉じ込められて鍵をかけられて、ドレスもなくて…。これでは舞踏会に行けないわ。」
パタンッ。扉が閉じられるとなんだか悲しくなって、私は扉の前に座り込んでしまいました。
「行きたかったなぁ。私の運命の相手に会えたかもしれないのに。」
どうしようもなくて呆然としていると、鍵のかかっていたはずの扉が開いて……。
「魔法使いさんなの?」
そこにいたのは、魔法使いではなくコックさんでした。
「お嬢さん、私に任せてください。」
舞踏会は諦めようと思っていたところだったのだけど……。コックさんから一通の手紙をわたされました。
「魔法使いさんから…?」
私宛ての見慣れた便箋。
『あなたは舞踏会にいけるわ。目の前のは私の弟子よ。彼があなたを助けてくれるわ。』
そして、それに同封された舞踏会への招待状。
私は信じられなくて、コックさんを見ました。
「魔法使いの弟子だったの!?」
私がそうたずねると、コックさんは、「本日限りですがね。」と笑って、私に手を差し出しました。
「私が責任を持ってあなたを舞踏会につれていきましょう!!」
*
協力してほしいと言われたときは本当に驚きました。なんてったって、あの継母の娘です。それが上の娘に続いて下の娘までお嬢様思いの優しい義姉だったとは。
「義妹を舞踏会に連れていくにはそれしかないわ。あのドレスを着た義妹を見れないのは嫌だもの。」
しかも重度のシスコンとみた。
「一つは義妹の部屋の鍵。もう一つは私の部屋の鍵。これを使って義妹を部屋から救い出し、ヒーローになるのよ。私の部屋に青色のドレスとガラスの靴を用意してあるから。あ、わかってると思うけど、お母様とお姉様には内緒よ?」
お嬢様に宛てた手紙と二つの鍵を預かりました。
ーーー期待してるわよ。魔法使いの弟子さん!
読んでくださってありがとうございます!
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追伸:「シンデレラシンドローム」とは「シンデレラコンプレックス」の別名です。
コンプレックスシリーズとは別にシンドロームシリーズもこれから書いていこうと思っています。更新は不定期ですのでよろしくお願いします。
※3月8日一部修正いたしました!