初登校
あっという間に日は過ぎ入学式の日になった。窓を開けると気持ち良い春風が舞い込む。
乙羽はクローゼットを開け、しまってあった制服を取り出した。
制服を受け取ったあの日は大変だった。颯爽と仕事を終わらせ乙羽の帰りを待ち構えていた葉月に、早速着て見せてと懇願され、その後数時間にも及ぶ撮影会となってしまった。
そんな母の姿に息子らが呆れ返っていたのは言うまでもない。
数枚の写真をスマホに送ってもらい両親へ制服を無事受け取ったこと、双葉家によくしてもらっていることを報告した。
入学式の今日は南極に行っている両親に代わって葉月さんと裕人さんが式に来てくれる予定だ。
その後双葉一家と一緒に写真撮影をすることになっている。
受け取った日以来制服に袖を通すのは2回目。
一年の証である白のリボン帯を胸元に付けると髪を整え、ストールを巻いた。
高校生活への緊張と高揚感が込み上げてきた。
いよいよ高校生!天文の世界を学べるんだ!
「桜さん準備はいいかい?そろそろ学校に行くよ」
明夜が迎えに来てくれた。
「学校のことはある程度この前話した通りだけどわからないことがあれば遠慮なく俺でも聖夜にでも聞いてくれ」
双葉家に着てから明夜は学園のこと等いろいろ教えてくれた。
聖夜はシャイなところがあるのか、明夜と話す方が多くなっていた。
外にでると既に聖夜が車内で待っていた。
「桜!学園で場所とかわからなかったら教えてやるから遠慮なく言えよ!」
聖夜はどや顔で言った。
「聖夜、それ俺もさっき桜さんに言ったよ」
聖夜はなんでぃと赤面していた。
「二人共ありがとう」
流石双子。思考がよく似ているなぁ、と乙羽は思った。
今日は学校まで双葉一家と車で共に登校した。
窓を覗くと知らない通りや店がまたまだあるのだと改めて気づかされる。
この街にも早く慣れたいな。
そんなことを思っているとあっという間に学校に着いた。
「嬉しいわ!息子達と娘の晴れ姿が見られるなんて。素敵な高校生活になるといいわね!」
葉月はその颯爽とした白いスーツに似つかず、子供のように嬉しそうにはしゃぎなから車を降りた。
乙羽のことは娘同然、いやそれ以上に可愛がってくれている。
駐車場で葉月達と分かれ、新入生組の3人はクラス分けの掲示板へと向かった。
新一年生のクラスは6クラス。
中等部より3クラス多くなる。
これは乙羽のような高等部からの外部生が入るためだ。
なんと奇跡だろうか、3人とも同じクラスだった。1年2組。
「同じクラスだってよ、よろしくな!
明夜とはまたおんなじかよ。わかってたけどなー。」
聖夜と明夜は小学部からずっとクラスが同じらしい。
2組の担任は海野先生という女性だそうだ。明夜によると古典の先生とのこと。
掲示板の前で話していると、一人の眼鏡の男子生徒が話しかけてきた。
「また双葉兄と同じクラスですか。
今回の中間試験、つぎこそ学年主席はこの僕ですからね、負けませんよ!
...おや、君は見ない顔。外部生ですか」
眼鏡君が明夜の脇にいた乙羽に気づいた。
「はじめまして。桜 乙羽です。」
「桜さん、こちら学年次席の増園君。
小学部からのライバルだよ。
負けたことはないけどね。」
明夜はさらりと言った。学年主席は明夜がキープしているらしい。
「双葉兄!次こそ負かしてやりますからね!」
増園は戦線布告して去っていった。
「明夜と増園はいつもあぁだからきにするなよ、どうせ明夜がまた勝つんだろうけどな」
聖夜は呆れながら言った。