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不思議なカフェ~十六夜~

星の髪飾りをつけた彼女は黒髪を揺らし玉座の前の階段を一段一段降りた。

それに連れ金色の刺繍が施された桃色の羽衣がふわりと舞う。

「ひ、姫!成人おめでとう」

今日は彼女の16歳の誕生日。成人の儀が行われている。

階段の下には多くの臣下がいる。その中の一人、水色と金色の羽衣を右肩から斜めにかけた正装の彼は恥ずかしそうに告げた。

「ありがとう。ポルシィ。」

彼女は照れながら嬉しそうに微笑んだ。

“彼からの祝福が一番嬉しいわ。“

彼女は幸せな気持ちに満たされていた。


また彼女の夢...

彼女は誰なんだろう。

乙羽が双葉家に来て次の日の朝。



優しい朝日に包まれて乙羽は目が覚めた。

葉月さんが用意してくれた部屋はテディベアやうさぎのぬいぐるみ等とてもファンシーなグッズに溢れている。壁紙も花柄薄ピンクだ。

相当念入りに準備したらしい。

「念願の女の子が来てくれたんだもの!嬉しくって!」

昨夜葉月は乙羽を部屋に案内した際はしゃぎながら力説した。

乙羽の奥は聖夜、明夜の部屋と並ぶ。

乙羽の部屋前を遠り過ぎる時、

「...うわぁ。母さん趣味全開。」

聖夜は呆れた声を漏らした。

明夜からは、母さんの夢だったんだ、許してやってくれ、と半ば呆れ気味に言われた。


私には幼す、...可愛いすぎると思いながらも寝心地の良いベッドを気に入ってしまった。


薄手のセーター、桃色のスカートに着替えリビングに降りると食卓には明夜と父.裕人が朝食を食べていた。

聖夜は朝早くからサッカーの練習に行ったらしい。

「おはようございます!」

「おはよう。昨日はよく眠れたかい?

本当にリンリン、いや鈴音さんにそっくりだな。うちを我が家と思って過ごしてくれ。」

乙羽の挨拶に裕人は答えた。

父.裕人はメガネをかけた爽やかリーマンと言う言葉がよく似合う。ピシッと締まったネクタイをよく見ると小さいうさちゃんが無数にいる。裕人はお医者様だ。

ここにも葉月の趣味が溢れていた。

(裕人さん似合ってる)

乙羽は密かにそう思った。

「おっと!葉月そろそろ行くよ、今日も遅くなるよ。」

裕人は見送る葉月とキスを交わし薄手のロングコートを羽織り出かけた。

「あの歳で毎朝こうなんだ。気にしないでくれ。」

熱々の光景を見てしまい赤らむ乙羽に明夜が顔をおさえて助言した。



始業式の4月8日まであと6日ある。

6日間で入学の準備を兼ね美里町のことを知ろうと乙羽は考えていた。

今日双葉家の人は皆外出の予定だ。葉月は敏腕デザイナーで夕方まで仕事、明夜は一日塾、聖夜はフルで部活らしい。

買い物に付き合ってくれる友達もまだおらず、今日は駅周辺から入学する高校“小望月学園(こもちづきがくえん)“まで巡ってみようと思った。

「乙羽ちゃん一緒に行ってあげられなくてごめんね。明ちゃんは塾漬けだし、聖ちゃんはサッカー漬けだし。家の男子はエスコートがなってないわ!外出するときは変な人に気をつけてね。」

あぁもうこんなじかん!じゃぁねーと葉月も心配しながら慌ただしく出かけて行った。

「私もそろそろ出かけよう。」

乙羽は預かった鍵で戸締まりし、コートを羽織った。そしてお気に入りのストールを首に巻いた。今日は曇りで少し肌寒い。夜には雨が降りそうだ。早めに帰ってこよう。

双葉家から小望月学園までは電車で一駅だ。最寄り駅の美里駅までは商店街を抜けていく。閉まっている店は何件かあるが活気がある商店街だ。

精肉店、八百屋、団子屋...美味しそうな香りが漂っている。

「あれは、何?」

ふと団子屋と着物屋の間にある小さな路地が目に入った。

路地の入り口には猫と月のモニュメントが立っている。

「カフェ 十六夜(いざよい)?」

モニュメントの下に小さくそう書かれていた。

路地を覗きこむと薄暗い先にランタンに灯る灯りが見えた。

吸い込まれるように路地を進み、気がつくと乙羽は店の前に立った。

すると、

「ニャー」

「?!」

いつからいたのか三毛猫が足下にすり寄ってきた。

全然気配感じなかったわ。

猫は桃色のリボンをしている。どうやら飼い猫のようだ。

乙羽が顎を撫でてあげると猫は気持ち良さそうにゴロゴロ鳴いた。


暫く猫と戯れたあと乙羽はドアを開けた。

カランカラン。

テレビで聞いた昭和の喫茶店のような音が鳴り響いた。

「いらっしゃい。おや、よくここがわかったね。若い子が来るなんて久しぶりだよ。」

帽子をかぶった白髭のマスターが出迎えてくれた。

ランタンの灯りに照らされた少し暗い店内。西洋のアンティークが並ぶレトロな感じだ。店内には一際目立つ、大きな望遠鏡があった。路地に差し込んだ僅かな外光が望遠鏡を照らす。

「特製のコーヒーで良いかな?」

マスターは優しく微笑んで、淹れたてのコーヒーを乙羽の席に置いた。

「あの望遠鏡、月を見るの好きなのですか?」

乙羽は不思議と気になりマスターに尋ねた。

「いいや、あれは星を見る為のものだよ。...今では見ていた、か。」

マスターは懐かしげにそして寂しげに言った。

「星...ですか。私も見てみたかったです。」


乙羽が生まれた15年前。丁度そのころまで夜空には星が広がっていた。季節によって見える星座が変わり、月と共に世界中の夜を明るく照らしていた。古代より人は星に名を付け、15年前までは宇宙開発など研究が進んでいた。

しかしある日突然、地球と太陽、月以外の星が消えた。

大きなビッグバンが起こったと言われているが未だに原因は不明だ。現在、夜は月の明かりだけが街を照らしている。


「コーヒーとても美味しかったどす。素敵なお店!また来ますね。」

マスターと星について語ったあと、乙羽は店をあとにした。

今や星について語る人も、知る人も少なくなってきていた。

昔から天文学に興味のあった乙羽は共に語ることができる人がいて嬉しかった。


カランカラン。

乙羽が帰ってから暫くして猫が店に入ってきた。猫は慣れたようにカウンターの席に座った。

「マスター、あの子...もしかして!」

猫が喋った。

「あぁ。この店が見えるということは星の、あちらの世界の関係者だな。あのストール。まさか...な」

マスターはマグカップを拭きながら答えた。


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