8
一瞬、ぎこちない空気になっていた。しばらく間、重い沈黙が流れていた。
朝日向は少し考え込んだ。そして沈黙を破れたのは朝日向だった。
「ねえ、壮太。それ分かる?」
「何が?」
「手!伸ばしてみて。」
「何で?」
「誰かさんに聞いたことだけどねー
こんなに舞い落ちる桜の花びらを手に取ったら愛が叶えるんだって。」
「はあ?そんなの信じてるのぉ??子供かよ。」
「壮太は子供ですよ。」
「バカ言うなよ。」
「ほらーそう言わないでやってみようよーー」
壮太の手を伸ばすように軽く引っ張った。
「こんなに多く舞い散るんだよ。花びら一片ぐらいは手に取れるんだろう。」
ちょうどよくそよ風が吹いてきた。
「はあ~凄くドキドキするー。どんな愛が始まるのかな。楽しみだね~!!」
横から見上げた朝日向の横顔はとても明るくて素直な笑顔がまぶしかった。
(愛の始まり?)
「いらねーよ。そんなの・・」
「え?」
朝日向は壮太を見つめた。
「何でもない・・」
・・・ ・・・・ ・・・・・
「何故だ・・・」
「ふふん~恋の始まりだとぉ??こんなに多く落ちるのにな。切望的じゃん!」
「そんなはずないよ・・」
(何故だ・・なぜ僕の手に大人しく座ってくれない・・)
「そうそう。このまま待っていられない!!
そうだよね。恋は勝ち取ること!!」
朝日向は花びらをあちこち追い回していてもなかなか取れなかった。
無駄に虚空を振り回すだけだった。
(っ、あいつ瞬発力ゼロだーーーあっ)
取り分けの一片花びらが目についた。
あの花びらはふりふり舞い落ちって壮太の手のひらの上にほろりと座った。
(あれ??)
壮太は熱心の朝日向をチラ見して
また自分の手に座った花びらよじっと見つめていた。
(はあ?なぜあいつじゃなくて俺に?)
「壮太ーどうしたのー?」
「ん?」
「壮太は取れたぁ?」
壮太は自分の手を握ってポケットの中に手を入れた。
「そんなわけないだろ!!」
「そうーー?残念だよねー」
(なぜ隠したんだ俺・・)
「っていうかお前彼女いるんだろ。」
「えっ?」
「そこまで熱心な必要ないだろ。」
「その・・」
「彼女いないのーーーもしかして童貞???」
「えっ??な、何を言うのかな・・」
「ふーーーんーー」
「彼女多かったよ。たくさん付き合ったんだ。ハハハ・・」
「たくさん??」
壮太が見た朝日向の見た目は優男でいけてる。
女たちにモテそうなルックスだった。
「もちろんだよ。今はちょっと休みたくてねー」
(たくさんの彼女達・・やっぱこいつ色男だ!!!!)
と確信した壮太だった。
「なあ、もう帰ろう。」
「こんなに早く?もう少しいたいなー」
「だめだ。もうすぐ日が暮れるんだから」
「・・」
「日が暮れると野獣が現れるんだよぉぉぉーーーー
熊とか猪とかーオオカミだって出るんだよ。」
両腕を広げてまるで野獣が襲い掛かるような真似をして朝日向をおどかしていた。
「ひっ!ほ、本当?」
(怖いーーー)
「そうだよ。」
(うわっ!きいてる!!どこまでバカなのかよ。ここってオオカミなんか全然ないよ。)
朝日向は思わぬ危険について考え込んだ。
(そ、そうだ。ここは山の中だよね。夜の山って子供に危なすぎる。
暗いと道迷っちゃうし。もう急がなきゃ・・)
「壮太。早く帰ろう。」
「いや、俺は別に構わないけどーもう少し泊っていいよ。」
「いやいや、もう大丈夫だよ。」
「ふふん~~まさかビビった?」
「ん?いやいや、ちょっと用事があるのわすれてたんだ。早く戻らないと・あは・・はは」
「まじー??」
「う、うん。」
「俺はまだ帰りたくないなー」
「え?先に壮太の方から帰ろうって言ったじゃない。」
「気が変わった。」
「ここ危ないから・・早く帰ろうよ。ね?」
「いやーだ!」
「壮太・・頼みます。」
(あ、また暗い顔をしてる。)
「面白くないな。分かった。帰ろうぜーー」
帰り道で朝日向は小さな桜の木の枝を折った。
小さな木の枝にはきれいな桜の花がついてる。
その華やかなお花にまた目を奪われた。
この花を見ながら朝日向は少し考えた。
「壮太?」
「ん?」
折れた桜の木の枝をヘアピンのように壮太の耳元にかけた。
「可愛いねーー」
カシャッ
壮太の写真を撮った。
瞬間壮太の顔が真っ赤になった。
「てめー殺す!!!!」
「えっ??なんで??・・・・あっ」
(爆発!!何か僕、また可笑しいことやっちゃったかな??ナハハ。)
スス・・ススッーー
(まずは逃げないと・・)
朝日向は逃げ走り始めた。
「あっハハハーー似合うんだからー」
「待ってこらー逃げるなーーーーっ!!」
(無神経にも程があるんだよ。)
朝日向は怖さじゃなく楽しくてたまらない。
「すごく可愛いよ壮太は~~ハハハーー」
(あっ、あれ??)