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「壮太!!!!!!!」
(うわぁぁっ!ど、どうする・・どうしたらいいーーーー)
朝日向は不安におそわれた。
(「色男ーーーーーーーー!!!!!」と怒るはずだよね。)
壮太の怒る姿が目に浮かぶ。考えるだけでも身の毛がよだった。
外から杉原の声がした。
「朝日向ー壮太来たよー」
「え??こんなに早く・・」
朝日向はおずおずと歩いてきた。
(何するんだあいつ・・あの色男やっぱ怪しいんだよな!)
「おはよう、壮太ー」
(やはりー約束忘れてないんだ。案外とまじめなこだね。いい子いい子!
あ、それより、えと・・ 事情があって今日は引っ越しできないー
それに元々僕の荷物はキャリーバック一つ。他人の手を借りるほどではない。
うむ・・そうだよ・・ね。)
「早く行こう!お前に付き合う暇はないんだよ。さっさとやっちまうからな。」
「あ、うん。」
「で、運ぶ荷物はなんだよ。何か知らないけど
行く途中に荷物落とすかも知れないよーー
俺、弱い子供だからねーークククク」
壮太はちゃめっ気たっぷりの顔をしていた。
(わざとだろうーー)
「に、荷物ね・・」
朝日向はその場に立てて悩んでいた。
「はあ?もしもーーし。今、話途中だけどー」
「え?あ・・」
朝日向は壮太の事をじっと見つめた。
(そうそう。僕、思い過ごしだよね。ここまで慌てなくていいかもね。
壮太だって子供だろう?壮太に事情をちゃんと説明すれば理解してくれるかもね。
子供は純粋でエンゼルだから・・)
「あん?何だよ。今、けんか売ってるのか????」
すさまじい勢いでにらみつけている。朝日向は
(やはりだめだーー大人に対するあの覇気。壮太はただの子供じゃない。やはり怖い。)
「いやいや、違うよ。えと・・」
「何か言えよ。」
(あーもう分からない。僕も一か八かだ。)
「が・額縁!!壁に写真をいくつか飾りたいよ。
でも額縁がなくてね。僕、急ぎにここに来て一つも持って来なかったんだ。」
「だからーーどうするつもりだよ。買い物?そんなの絶対いやだからな。」
「いやいや。そうじゃなくて・・
せっかくに桜が咲いたし・・だから桜の写真を撮ると絵になれると思うよ。」
(急造した話、壮太に通じるかな・・)
「桜の花??」
「う、うん。」
「・・・桜ってありふれた花だろ!!」
「違うよ。人によってその価値は違うんだから・・
僕、こんなに美しく咲いた桜の花はこの町で初めて見たんだ。大好きだよ。
だからまず、これから手伝ってもらいたいね。アハハ」
壮太はちょっと考えているようだ。
「やはりだめ・・かな・・」
「桜なら沢山咲いてる所、知ってる。」
(利いてるーー子供だから単純なのかもー)
「そうなの?どこ?教えてくれない?」
「話すの面倒くさい!」
「あ・・そうか・・」
素直に話す壮太に今回は仲良くできるかも知らないと思われて
少し期待してたが壮太のあっさりした拒絶に急、落ち込んでしまった。
「そうだよね。僕が」
「ついて来い。」
「え?」
「連れてく!」
「えええ??本当??本当なのそうた?やったーーーありがとう。壮太ーーー!!!」
これは予想外の成果だ。
朝日向は嬉しすぎて自分も知らずに壮太をぎゅっと抱きしめてしまった。
「壮太ーーーー」
壮太は何も言わずに動かずにその場でかたまっていたた。
「あ・・」
瞬間、正気になった朝日向は抱きしめたまま壮太と同じく体がかたまってしまった。
(はっ、しまった!!!!)
スススーーーーっ
朝日向は壮太の顔色を窺きながら急ぎに後ろに下がった。
(僕も知らずについ勝手なことを・・
また怒らせたかなーー!!
壮太に嫌われてるのに・・せっかく仲良くなれるかも知れない機会をー)
壮太は無口で頭を下げている。両手は握りしめたままでその場に立っていた。
(黒いオーラが出ているような・・や、やはり怒ってるんだ。怖いよ‥)
「あ、ご・ごめんね。とても嬉しくてつい・・」
でも壮太はまだ何も言わずに黙っていた。
よくみると顔の色が真っ赤になっていた。
(はあぁぁ???もしかして怒り過ぎて爆発直前??)
「そ、壮太??」
「行こう!」
「え?」
壮太は予想とは違って大人しい。その案外な言葉で朝日向はびっくりした。
(聞き間違いではない・・よね・・
ひゅー、よかったー!怒ってないんだ。
赤い顔は・・もしかして照れてるの?あの壮太が?)
「うん、ちょっと待っててくれる?早く準備してくるから・・」
「早くしろ!!」
「ひっ、はい!!!」
朝日向はあたふたと中へ入り色々取り揃え始めた。
壮太は慌ててる朝日向の後ろの姿を見つめた。
(何だよあいつ。色男のくせに!!、、でも何故か温かかった・・)
「お待たせーー!」
「遅いっ!!!」
「ごめんなさいーー!!」
ここは青森の後ろ側にある小さな山だ。
「はあ、はあ・・」
朝日向は山を重い足取りで歩いた。喘ぎ声を上ながら登っていた。
その反面壮太は町の山になれている。
「壮太ぁーはあ・・どこまで・・っ行くの・・はあ・・」
「あ、もうすぐだから我慢しろよ。っていうかお前体力最低だなー」
「あは・・そうだね、、ねえ、ちょっと休んでいかない?」
壮太は朝日向を見つめた。
やはりあの調子じゃすぐにでも倒れそうだった。
「はあーー分かった。」
朝日向は横の岩に腰を掛けた。
「ふゅーーーーー」
そして下に見渡せる町の景色を眺めた。
低い山の中腹でながめる風景はとても美しかった。
「いいねーー!!ほら見て壮太ーー町の景色きれいだよねー」
(町の景色・・・)
壮太は町の景色なんか眺めたことはなかった。
どのような感興もない。
こんなの日常でいつもの同じ景色だからあまり感じたことはなかった。
壮太の目がキラット輝いていた。
「きれい・・っていうかさっさと行こうよ。」
「あーーこんなに早くーーー」
「早く起きないと置いてくからな。」
「あ、それは困るよ!」
朝日向はズボンについてる埃をばたばたとはたいて立ち上がった。
「壮太、、ずるい・・」
朝日向は小さくつぶやいた。
「あん?何?」
「いやいや、な、何でもないよ・・ハハハ・・」
そしてまた山を登り始めた。
朝日向はのろい足取りでこのペースじゃ鍛錬された壮太からはぐれるはずだが
つっけんどんだ壮太だが朝日向のペースに合わせて歩いた。
はあ・・はあ・・
「着いたよ。ここだ!」
「・・・そうなの・・」
パタン
朝日向はぐったりとうつ伏せに倒れた。
「はあ・・はあ・はあ・・・死ぬかと思ったーー」
朝日向は荒い息づかいをした。
「お前、本当に体力最低!これで疲れたのかよ。大人のくせに!!」
「ごめんね!山に登るのは・・初めてだから・・こんなに大変だと思わなかったんだ。」
額にぶつぶつとにじんだ汗しずくを拭きながら
頭を上げた朝日向は瞬間、動きが止まった。