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魔術師若しくは傀儡師  作者: うまひ餃子
8/10

唐突な語り

 soredeha,doujo(/・ω・)/

 何となくそれっぽい。




 まず始めに読者に言っておかねばならないことがある。

 それは、歴史とは人が作るものであるということだ。

 これは不変のもので、そしてとても不確かなものだ。


 例を挙げてみよう。 

 一つは過去に栄えた国の王が多くの人手を割いて編纂した史書。

 もう一つは滅びた国の者が記した手記。

 この二つの書物に書かれたとある人物の記述に異なる点があったとする。

 この場合どちらの記述が正しいのであろうか。

 分からなければ勘で構わないので少し考えてみて欲しい。




 もしも、碌に考えもせず、この行を読んだ者がいたのならば、その者にはこの本を読むことはお勧めしない。

 私は考えることを放棄する者は好きではないし、そもそもそのような輩はこの様な本を読まないであろうから無駄な忠告だったかもしれないが。


 



 話を戻そう。

 答えは「どちらも等しい」である。

 そもそもその時代にいない我々が過去の事物を安易に判断できるものではない。

 屁理屈だと思っただろうか。選択肢を出しておいて卑怯な、と思っただろうか。

 友人曰く、私は性根が捻じ曲がっているらしいのでそこは読者の諸君らが寛大な心を持って受け入れて欲しい。


 またしても話が逸れてしまった。

 つまり答えのないもの、それが歴史なのだ。


 もし、前者の史書を作らせた王が自分本位なものを作らせたとしたら。

 もし、後者の手記を書いたのが真面目な人物で更に亡国の高官であったとしたら。

 史書も手記も人の手で生み出されたものだ。それはこの世に存在する書物すべてに言えることである。

 では、人によって書かれたそれらのものは全て正しいと言えるであろうか。


 答えは当然否である。

 書き残されたものは全て等しい存在だ。例えそれが真実であろうが、偽りであろうが、だ。

 等しいと言ったり、全てが正しい訳ではないと言ったり私の発言にズレを感じる者がいるかもしれない。

 しかし、これが私の考えなのだ。諦めてくれ。

 


 結局のところ私が君たち読者に言いたいのは「疑い、そして考えろ」だ。

 回りくどいだろうか。そうだな、「歴史を安易に受け入れるな」と言った方が伝わるだろうか。

 生憎これ以上の言い回しを私はできないから死ぬ気で理解し給え。


 偉大な英雄は本当に清廉潔白な人格者たり得たのか。

 愚王と呼ばれる亡国の王は本当に愚かな人物だったのか。

 我々は自らの考えを以て過去の出来事や先人たちを扱わねばならない。

 あまりくどいようだとこの本を放り出されそうなのでここまでにしておこう。

 


 だが、最後に言わせてほしい。

 歴史は人が作るものだ。それは何時の時代も変わることは無いものだ。

 今という時に名を残した人物たち、そしてこれまでに起きた多くの出来事、これらを完璧に知り尽くす者など存在しない。あるとすれば、それこそ神くらいのものだろう。

 だからこそ言わせてほしい。

 歴史に絶対などないのだ。

 


 前置きばかり長くなってしまった。

 これは悪い癖だと分かってはいるのだが、どうしても止めることができない。

 読者の諸君にはどうかご勘弁いただきたい。


 この本をこれから読むであろう者たちへ。

 この本が諸君らの為になることを祈る。


 

 □■□■ 



 「相変わらず勿体ぶった前書きだな~」


 ジンは宿の部屋で本を読んでいた。

 いつもなら街の子どもに連れられて公園に向かっているのだが、外は生憎の雨。

 このところ続いていた晴れが嘘のような大雨であった。

 そのため青年は部屋に籠って読書三昧しているのである。


 今読んでいたのは彼のお気に入りの歴史研究家グラーズ・マティッシュが一冊『歴史の疑問』というシリーズの冒頭の前書きである。


 ちなみにこのグラーズという人物、とても癖が強く、それが文体にも表れている。恐らくかなりの奇人として周囲から見られていたのではないかというのがジンの推測である。

 また、文体に現れる人柄だけでなく、彼の書くものも人を選ぶものばかりで、事実、前述のシリーズでは国の正史を疑問視する箇所も見られ、それ以外にも彼の著書には発禁処分になってもおかしくないようなものがいくつも存在する。

 実際、幾つかの国では彼の著書を禁書まではいかないもののそれに近い扱いをしている国も存在している。当然、密かにではあるが。

 正否は兎も角、彼の考えが自国の都合に悪いと考える国が存在するのは確かなようである。


 「この人ってどこの人なんだろう、会えるなら会ってみたいなぁ」


 ジンはこの様なことを考えてはいるが、本に著者の出身地など書かれている筈もなくどうしようもないのが現状である。

 とは言ってもジン自身本気で会いたい訳ではなく、できることなら程度の淡い期待なので、すぐに読書に戻って行く。

 

 この『歴史の疑問』では亡国から既存の国家まで、それこそ手足の指の数を超える国が扱われている。


 現在ジンのいるアミュール王国についても書かれており、彼はその箇所を読み直していた。

 アミュール王国が建てられたのはこの本が書かれるおよそ二百年前とされている。元々は隣国のリフターン王国の領土であったのだが、当時リフターンの爵位持ちであったアミュール王家の初代が反乱を起こし独立したことに端を発している。

 建国初期はやはりリフターンとの諍いが絶えなかったが、これまた当時のリフターン領土であったところで反乱が起き、そこにダスタニア王国の建国が宣言されると、流石に不味いと思ったリフターンがその二国に講和を訴え、表面的に争いはなくなったとされている。

 

 このことについてグラーズはアミュールとダスタニアが裏で示し合わせていたか、ダスタニアがアミュールの後に続いたのではないかとの考えを述べている。

 リフターンからすれば国の恥を掘り返され業腹であろうし、アミュールやダスタニアからすれば国家の和を乱しかねない煩わしい考えであることは間違いない。


 「それで、えーっと、マゼル、マゼル・・・・・ないな。そりゃそうだよな」


 この本には各国の地図が載っている。

 とは言っても確かな測量技術などないため、かなり大まかなものではあるが。

 因みに地図と言っても、各国の首都や著名な土地の名は書かれているがマゼルの様なただの街の名は載っていない。流石の堅物な研究者もそこまで正確さを究める訳にはいかなかったようである。


 そして、何故青年が地図を見ていたかと言うと、街を出る決心をしたからである。

 そう思った時に次に向かう街について調べようと思ったのだが、徒労に終わったのである。

 

 「んー、こりゃあ、街の人にでも聞いてみるかね~」


 黒鍋亭の女将であるマーサに聞いても良いのであろうが、忙しなく動き回っている彼女を引き留めるのは少々気が引けた。

 どうしようかと考えているとぐぅ~と腹の虫が空腹を訴えてきた。

 今は昼過ぎ辺りだろうか。

 昼食はどうしようかとジンは考える。

 黒鍋亭は昼食が出ない。

 かと言って雨の中、外に出てまで食べに行くのも億劫だ。

 しかし、腹は減った。


 しばらく青年は目を瞑って思考する。

 考えがまとまると本を手元から消し、寝転んでいたベッドから立ち上がる。

 どこからともなく灰色のローブが現れ、青年はそれに袖を通してから部屋の外に出る。

 どうやら空腹には勝てなかったらしい。


 「濡れるのは勘弁してほしいんだけどな~」


 溜息とともに青年は雨の降る街に出る。

 メシを求めて。




 ◇◇◇




 「ガツガツ、バクバズ、ズズーッ」


 とある定食屋にて一心不乱に食べ耽る人物がいた。


 「おばちゃんおかわりぃ!」


 もちろんジン青年である。


 「ハイハイ、ほんとよく食うね」


 呆れ半分に空の器に米をよそう恰幅の良い女性。


 「食べることは大事!それにここの飯は美味い!」


 そう言って、ジンは受け取った器によそわれた米と残っていたおかずを再び貪り始める。


 「分かってるじゃねぇか、坊主!ほれ、これはおまけだ」


 そう言って揚げた鶏肉を皿に乗っける中年の男性。

 ニカッと笑うその姿はどこか子どもっぽい。


 「え、うわ、ありがと、おっちゃん!うめぇ~、揚げたてサイキョ―!」


 嬉し美味しそうに食べる青年におっちゃんの顔は更に綻ぶ。


 「ったく、アンタ、餌付けも大概にしときなよ」


 そう言いつつも、なんだかんだ許すおばちゃん。

 良い夫婦である。


 ジンはそのまま食べ続け完食すると周囲を見る。

 雨のせいかジンの他に客は二人しかいない。

 いつもなら満員御礼とまではいかなくともそれなりに賑わっているので少し物寂しさを覚えなくもない。


 「ねぇ、おっちゃん。ここから一番近い街ってどこか知ってる?」


 「ん?ここからだったら、そうだなぁ、王都方面に行くならルールだな」


 「なんだい、ジンはここ出てっちゃうのかい?」


 「うん、そろそろ次の街行こうかな~って。で、ルールってここからどれぐらい掛かる?」


 「馬車なら二日掛からんぐらいじゃないか?歩きの速い奴なら三日で着ける筈だぞ」


 なるほど~、とジンはおっちゃんからの情報を忘れないよう頭の中に刻んでおく。


 「そうか、行っちまうのか。となるとチビどもがうるさいぞ~?」


 中年のオヤジはニヤニヤしながら面白そうに言う。


 「それなんだよ。黙って行くことも出来るけど、それは流石にアイツらに悪いからな~」


 自分の劇を楽しみにしてくれている子どもたちにそんな薄情な別れができるジンではない。

 ジンにとっても子どもたちとの劇を通した触れ合いは大切なものだったからだ。


 「ま、そう思ってんならちゃんとお別れしてやっておくれ。そうすりゃあの子たちも分かってくれるさ」


 おばちゃんはやっぱり気遣いの人だな~とジンは勝手に納得する。


 「ん、そうする。んじゃ、ごちそうさん。話聞いてくれてありがとさん。お金置いとくよ」


 おかわり分も含めた料金をテーブルの上に置いて席を立つ。

 他の客二人もそろそろ食べ終わるかといった感じのようだ。


 「おうよ、雨まだ降ってるみてーだから気いつけな」


 「そうみたいだな。んじゃ」


 ジンは軽く手を上げ店を出る。

 この店から黒鍋亭は少々距離がある。

 濡れるのやだなぁ、と思いつつ青年はローブのフードを深くかぶると雨の中を軽い足取りで走って行く。

 その様は宛ら野兎のように軽やかだった。



 「ん?」


 青年は走りながら違和感を覚えた。

 何がおかしいのか、青年は足を止めることなく思考する。

 雨のせいか外に人はおらず、いつも開けっ放しになっている店の扉も今日に至っては何処も閉めている。

 あまりに人の活気がないせいで過敏になっているのかと思ったが、やはりおかしい。


 人がいないのだ(・・・・・・・)

 定食屋に行く際には多くはないが数人の街人とすれ違っている。

 それが今は誰一人いないのだ。

 なのに視線を感じるのだ。

 誰もいない筈なのに自分に向けられる視線。明らかに矛盾している。


 (こりゃあ、随分大掛かりな仕掛けだな。となると、おっちゃんたちんとこにいた客も多分仕込みだな)


 あの気の良い夫婦がこの様な真似に手を貸す筈がないと考えるとジンは即座に対応について思考し始める。 

 

 (相手は複数と仮定、魔術師の存在は確実、街内にて殲滅系の術は使用厳禁、数が不明なため一挙に制圧することも不可能、と。中々厳しくねぇか、これ?)


 実際並みの魔術師であれば既に拘束されても可笑しくない状況にある。

 それでも、ジンの心内に緊張はない。

 顔つきも至極自然体である。


 (このまま追いかけっこってのも面倒だし、そろそろ、お?)


 ジンは足を止めると視線の先には二つのローブ姿が立っていた。

 ジンと同じく頭からローブを被り、顔どころか性別も分からない。

 ただただ不気味さだけが目に付く。

 ジンが止まると彼の左右、そして後方からはっきりとした気配が現れる。


 「漸く、ご登場か。随分と腰が重いんだな」


 軽い挑発で様子を見ようとするが二つのローブ姿に変化はない。

 左右、後方の気配にも特に揺れは感じない。


 「おーい、用があんならさっさと喋れや。そっちは良いかもしんねーけど、こっちは大変迷惑してるんですけど」


 それでも、ジンを取り囲む者達は何の反応も見せない。

 このまま時が過ぎ行くのかと思いきや新たな登場人物が姿を現す。

 その人物もローブを身に纏い顔は見えない。

 しかし、ジンの行く手を遮った二人がこの人物のためにわざわざ道を開けたことからどうやらこの人物がリーダー格であるのは間違いないようである。


 「お初にお目に掛かります。我々は・・・そうですね、とある組織に属する者たちです」


 明らかに胡散臭い物言い。

 あからさまな不審者たちを青年はどこか冷めた目で見ていた。

 

 「若き魔術師様、少々お話を聞いていただきたいのですがよろしいですか?」


 一見、丁寧に訪ねているようだが、大勢で囲んでいる時点で最早青年の答えは求めていない。

 当然と言って良いのか分からないが、青年は無言である。

 リーダー格の人物はジンの態度を無言の肯定ととったのか、饒舌に話し始める。


 「我々はとある崇高な理想を求め、日頃より活動しております」


 「表立って名乗れないような組織の崇高な理想?怪しすぎるっつの」


 ジンが辛辣な言葉を返すと同時に四方から彼に向けて殺気が向けられる。

 どうやら、組織に関する挑発は彼等にとって禁句のようである。

 しかし、リーダー格の人物の気に乱れは見えない。


 「あなたたち控えなさい。彼と話しているのは私です」


 逆に仲間の火消しをするほどの余裕を見せている。


 「すみません、彼らは組織のことを何より大切に思っているものでして」


 「アンタは違うのか?」


 「いえ、私も組織に忠誠を誓っていますよ?」


 「ふーん」


 リーダー格の言葉に揺れは感じられない。

 しかし、その揺れのなさがどうにも怪しい。

 

 「話が逸れましたね。それでですね、若き魔術師様、率直に申し上げましょうか。我々の同志になりませんか?」


 組織への勧誘。

 たったそれだけのためにこれだけ大掛かりなことをした。

 そのある種の過剰さにジンはこの者たちの危うさを再認識する。

 そしてこの人物から他にも情報を手に入れるべく会話の引き延ばしを試みる。


 「理由は?」


 ジンの言葉が意外なものだったのか、リーダー格の体が一瞬ピクリと反応する。

 それでも、すぐに持ち直したのは流石と言うべきか。


 「もちろん、貴方が若く、そして優秀な魔術師であるからですよ」


 字面だけで見れば大層な褒め具合だが、やはりその言葉には空々しさを感じる。

 

 「優秀って、アンタら俺のこと碌に知らねえだろ。見え透いた世辞は逆効果って知らねえのか?」


 「いえいえ、貴方は優秀でいらっしゃる」


 「何故それが分かる」


 リーダー格は何も言わない。

 これは言えないような手段を使ったことを示唆している。


 「言えない様な手段ってことは・・・ああ、あの物騒なおっさん共か」


 彼が街に来て力の一端を見せたと言えば、その場面に限られる。

 リーダー格はこれまでの饒舌っぷりが嘘のようにまた無言である。


 「つーことは、あれもアンタらの仕込みってことか」

 

 完全な沈黙。

 もう答える気は皆無のようである。

 

 「あっそ、それで返事だけど分かるよな?」


 青年を取り囲むローブ姿が一斉に構えを取る。

 バッチリとジンの気持ちは伝わっているらしい。

 正に以心伝心。嬉しくはないが。


 「一昨日来やがれってんだ!」


 ジンはローブは翻す。

 フードから出た黒髪が雨粒に晒されキラリと光る。


 降りしきる雨の中、誰知ることなく、ひっそりと戦いの鐘が鳴った。






 


 次話のバトルはスパッと終わらせる予定ですので悪しからず。

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