事起こりて
それでは、どうじょ(/・ω・)/
「見つけた!!」
「つかまえろ~」
「まてぇ~」
久方振りの獲物を見つけた肉食獣の様な素早さで子どもたちは目標を追い掛ける。
その哀れな獲物はと言うと両手を上げ降参のポーズをとる。
「だー、今日はやるから勢いをおとs、うわぁぁぁ!」
一斉に飛び掛かる飢えた獣たち。
獲物に抗う術はなく、その数に押し潰される事となる。
それから、ねだるにねだられ結局、青年は劇を4作もやる羽目になった。
満足した子どもたちが去って行くと、青年は椅子に座り込み一息つく。
「あ~子どもってのは怖いもんだ」
まるで中年の親父が如く気の抜けた姿がそこにはあった。
空に浮かぶ白い雲をぼんやりと眺めながら自分のこれからについて考える。
この街自体はとても気に入っている。
街の人は友好的で子どもたちは元気一杯でとても好ましい。
昨日話してみて領主のダハクも悪い人物ではない事も分かっている。
ただ、このままずっとここに居たいかと考えるとジンは答えに困った。
「どーすっかね、ん?」
うんうん悩んでいた青年は何かに気付くとすぐさまバッグを背負い広場を出る。
そしてすぐさま人気のなさそうな脇道に入ると走り始めた。
彼が軽く手を振ると何故か道の端に置かれていた籠やごみが小さな壁を作り始める。
そこに丁度誰かが走って来たようで見事に引っ掛かり体勢を崩す。
ゴミに突っ込んだせいかその者の体中に糸や野菜のカスなどがくっついていた。
ジンを追い掛けて来た人物はそんな事には目も暮れず立ち上がって脇道の先まで出るも周囲に彼の姿はなかった。
「クソッ!」
上手く撒かれた人物は無性に腹が立ったが何とか周りの物に当たり散らす事は堪えた。
偶々近くにいた者たちは訝しげに汚れたその男を見ていた。
「チッ」
悪目立ちするのは本望ではないので男はその場を立ち去る。
体中を手で払って汚れを落とす。
しかし、彼の足元から一本の糸が延々と続いていた。
だが、男は気付かない。周囲の人々も気付かない。
何故か、誰もその糸には気付かなかったのである。
「ん、ちゃんと引っ掛かった様で何よりだ」
そんな事を呟きながら青年は黒鍋亭へ帰っていくのであった。
□■□■
「畜生が!」
男は虫の居所が悪かった。
酒の注がれた杯を一息で飲み干すと荒々しく机に叩き付ける。
酒場の主が男の振る舞いに眉を顰め、周囲の者達の顔も自然と険しくなる。
居た堪れなくなった男は金を払うとそそくさとその酒場を後にした。
それから街中をふらつくが今日一日の不遇っ振りに嫌気が差していた。
半日前、ふと、胸元を触れた時、男は持ち金の入った小袋を掏られている事に気が付いた。
まさかの出来事に男は頭を抱えたくなった。
男は定職には就かず、稼いだらその分使い、金が無くなったら日払いの仕事で稼ぐと言った生活をしていた。そして現在は仕事をしない時期。自分はなんて不幸なんだと嘆きたくなっていた。
そんな折に見ず知らずの男が話し掛けて来た。
とある人物に接触し、橋渡しをしてもらいたい、もし、それが出来れば銀貨3枚、出来なくとも手間賃で銀貨1枚を出すと言われた。
何処となく怪しさを感じはしたが、困っていた男はその手に1枚の銀貨を握りしめ、二つ返事で頼みを引き受けた。
そして、その目的の人物とは男の知っている人物であった。
本人との面識は一度もない。だが、その人物はこの街でそこそこ名の知れた人であった。
数日前に街に現れ、街の子に人形を使った劇を見せている黒髪の若い男。
男もここ数日のうちに何度か耳にしていた人物だった。
広場に行ってみると目的の人物はいた。
その最初に受けた印象は男ではなく青年ではないかという軽い衝撃であった。
青年が語り人形を動かせば、子どもたちは一喜一憂しやいのやいのと思い思いの声を上げている。
青年も悪い人物ではなさそうだったので、これなら話が出来そうだと思い、この憩いが終わるまで待つことにした。
劇も終わり、子どもたちが帰って行くと、青年は一息ついている様だった。
そして男は話し掛けようと近づき始めると、急に青年が立ち上がってその場から離れて行くではないか。
急いで後を追うが、青年は脇道に入ってしまう。
追い付かねばと思い、走って脇道に入ると、道の真ん中には何故か物がまとめて置かれていた。
突然の障害物を避けることが出来ず、男は地に転がった。
漸く起き上がってから脇道から出るともう青年の姿は何処にもなかった。
男は酒代のお釣りをジャラジャラと手の中で遊ばせながら歩いていた。
夜とは言っても酒場から漏れ出る明かりもあってそこまで暗闇への恐怖はない。掏りにあった事から来る自棄と酒に酔っていた事もそれを薄めさせていた。
気付くと男は囲まれていた。
その者達の雰囲気は決してお遊びではないと感じさせる冷たさの様なものがあった。
男の酔いは一瞬で覚めた。
「な、なんだよ!」
「お前運が悪かったな。おい、やるぞ」
集団のまとめ役らしき者の声が行き渡ると同時に男に向かって一斉に刃が向けられた。
男は自分が殺されようとしているのを今度こそしっかりと理解した。
「な、俺がなにやったんだよ!人違いだろ!?なぁ!!」
するとキヒヒと下卑た笑いが聞こえて来た。
そして男の足元に何かが投げられた。
「あんたのしょっぱい金で少しは楽しませてもらったから礼を言っとかないとなぁ。ありがとよ、おまぬけさん」
集団の中から幾つか笑い声が上がる。
男に向かって投げられたものそれは掏られた筈の小袋だった。
自分から掏ったのはこの集団であること男はなんとか理解した。
しかし、そいつ等が何故自分を殺そうとするのか。
全く以て頭が機能しない。
「おい、余計な事してんな。さっさとやるぞ」
「かてぇな~、ちっとばかし楽しんでも罰は当たらんだろうによぉ~」
そして男に向けられた刃が彼の命を奪わんとし襲い掛からんとする。
男は動けなかった。
(俺はここで死ぬのか)
この様な理不尽、当然納得出来る筈もなかった。
それでも迫り来る死を跳ね返す力は男にはなかった。
ガキン!!
ガンッ!!
ギンッ!!
刃物が何かを刺す音がした。
しかし、男に自身に何か刺さった痛みは全くなかった。
恐る恐る目を開けると辺りは闇だった。
それこそ、明かりのない部屋の中にいる様であった。
「こうも見事に釣れるか~。ま、楽で良いけど」
なんとも気の抜ける様な声が聞こえて来た。
□■□■
男達は訳が分からなかった。
確実に標的を串刺しにした筈だった。
だが、目の前の光景は考えていたものとは全く異なっていた。
剣は血に汚れることなく鈍く輝いている。
獲物が居た筈の場所には黒い何かがあった。
男達は何が起きたのかは分からずとも何らかの介入により目的が拒まれたことは理解した。
「こうも見事に釣れるか~。ま、楽で良いけど」
何処からか気怠げな声が響き渡る。
決して大きくはないが夜の静けさによく通っていた。
「誰だっ?!」
男達は一斉に後退る。
だが、その言葉への返答はない。
訝しんでいた男だったが、自身の体に何かが繋がったかのような妙な感覚を覚えた。
それからすぐ異変が起きた。
「んなっ!」
自身の手が勝手に剣を手放したのである。
そして、それは自分だけではない様であった。
「おいっ!」
「どうなってんだ!」
「くそぉぉ」
カランカランと剣が地に落とされる音がする。
仲間たちも自分と同様の目に遭っているとリーダー格の男は理解した。
「武器は解除出来たから次は拘束っと。暗闇、縄を打て」
その言葉が聞えると今度は体に縄らしきものが巻かれて行くのが分かった。
「ふっざけんなあああ!!」
「出て来い糞野郎ォォ!!」
男達は怨嗟の声を上げる。
しかし、それに対しての返事は一切ない。
返って来るのは沈黙のみ。
(抜けようにも、体が動かせねぇ。それにこの縄もかなりしっかりしたモンだ)
男は自分たちの打つ手がない事を今度こそ悟った。
恐らく敵は何らかの魔術を使っているのだろうと男は分析する。
だとすると、現状を打破するのは非常に困難である。
しかし、だからと言って諦める訳にはいかない。
男は必死に自分の体を動かそうと試みる。
「ああ、暴れようとしないでって。面倒なんだから」
その声には僅かながらも確かに困惑の色があった。
これに男は確信する。自分たちが体を動かそうとするのは見えない敵にとって不都合なのだと。
更に男はこれを続ければ体の不自由が解けるのではと思考を進める。
「おい、お前ら、死ぬ気で体動かせ!そうすりゃこのおかしな術は解けるぞ!」
リーダー格のその声に男達は自らの体を必死に動かそうとする。
「ふんぬぅ!」「オラァァ!」と男共の力む声が今度は其処彼処から聞こえてくる。
「際が悪いな。動くなっつってんのに」
その声には苛立ちが感じられた。
男達はその声に更に意気込むが、声の主はそれを許さなかった。
「後から面倒だけどいっか。暗闇、針を撃て」
その声とほぼ同時にシュッと何かが飛ぶ音がして男達にそれが刺さった。
ほんの僅かな痛みの後、急に瞼が重くなっていく。
(こ、これは)
気付いた男だったが時既に遅し。
ばたりばたりと男達は倒れて行き、訪れたのは夜の静寂だった。
□■□■
「よし、捕縛完了」
そう言って物陰から現れたのはジンであった。
「で、こいつ等をご領主様に押し付ければ一先ず終わりっと」
倒れた男達を一箇所に集める。
そして、釣り餌にした男に意識を向ける。
「そういや居たな」
青年が軽く腕を振ると暗闇に男が一人現れる。
集団に襲われた男だった。
「へ?あ、え?」
「ダイジョブそうだな。んじゃ、俺はこいつ等を引っ張って行くから。アンタも気を付けな」
「お、おう」
「そいじゃな~」と言って青年はその場から去って行く。
大の大人6人を引きずりながら。
男は色々思う所はあったが決してそれを口にはしなかった。
もし、余計な事を聞けば自分も次はあのような目に遭うに違いないと思っての判断だった。
◇◇◇
「ん?」
領主屋敷の門前で警備していた兵士は夜の闇から奇妙な音を耳にした。
それはズルズルと何かを引きずる音だった。
兵士はうつらうつらしていた仲間を起こし武器を構える。
音が近づいて来るにつれてその根源が姿を現す。
それは不思議な光景だった。
(人?いや、何か後ろに・・・)
兵士は目を凝らす。
すると不審人物の後ろにある物が漸く見えた。
人である、それも縄で縛られた。
「なっ、そこの者、何をしている!!」
焦った声を兵士は上げる。
「人を襲ってた輩を捕えて来ました。それで、ご領主様にジンが来たと伝えて頂けませんか?多分それならダイジョブだと思うんですけど」
兵士は悩んだが、仲間に伝令を頼み、自分はこの場に残った。
それからすぐに領主補佐がやって来て、縛られた男達を詰所に運ぶよう指示が出された。
「ジン殿、夜も遅いが今から領主様にご説明願えるか?」
「あ~、やっぱりそーゆーの必要ですよね。了解です」
「では参ろうか」
短いやり取りの後、男2人は屋敷に入って行くのであった。
□■□■
「そうか、その様な事が・・・」
ジンが事情を掻い摘んで説明するとダハクは一人心地に顎を擦っていた。
昨日の今日のうちに青年が揉め事を引き起こした事に何とも言えないといった様であった。
青年から見れば、張っていた予防線に獲物が掛かっただけなのだが。
「取り調べの方は今現在進めているのか?」
ダハクは己の腹心に尋ねる。
「いえ、ジン殿の薬がよく効いている様でぐっすりです」
ジンをチラリと見ながらの言葉には多分に棘が含まれていた。
申し訳ないとばかりにジンは頭を下げる。
「そう責めてやるな、ハンズ。血が流れる事なく、死者も出なかったのだから良いじゃないか?」
主の言葉に部下は矛を下ろす。
助かった、とホッとする青年。
だが、これはハンズが責め、ダハクがフォローするというマッチポンプになっており、ある意味この2人の伝統芸と言っても過言ではない。つまり、一種のお約束と言った所か。
当然ジンはこれを知らない。
「で、ジン殿。もしよければ、張った網の詳細を教えてはもらえないかね?」
そして踏み込むダハク。
「私としても是非知っておきたいですね」
それを掩護するハンズと連携は見事である。
「まぁ、御二人にならイイですけど。あまり言い触らさないで下さいね?」
それなりに信用できる2人なら良いかと青年は判断する。しかし、やんわりと口止めはお願いしておく。
「ああ」
「勿論です」
これで一応言質を取った。
それから青年は説明を始める。
「では、ご説明します。今回襲われた男は今日自分に接触を図ろうとしました。自分は逃げる際に男に印を付けておきました。それがこれです」
そう言ってダボダボの袖から手を出す。
だが、その手に特に変わった様子はない。
ハンズ、ダハクはじっと青年のかざす手を見つめた。
するとダハクが何かに気付いた。
「糸?いや、これは・・・魔力か?」
その言葉に青年は笑みを見せる。
「ご領主様流石ですね。その通りです。これは魔力の糸です。実体はなく、それに加えて魔力が尽きない限りいくらでも伸ばすことが可能です。因みに自分はこれを魔糸と呼んでいます」
ハンズは見ることが出来ない様なので訝し気だが、ダハクの方は「うむうむ」と頷いている。
「で、これを接触を図ろうとした男に付けて泳がせました。そして、先程その男が襲われて、と言った感じです」
「その男の方は帰したのか?」
「はい、連れて来た方が良かったですかね?」
「そうだな。だが、いいさ。覚えてる限りの人相を教えてくれ、こちらから接触し証言を聴こう」
ジンは男の人相について答えて行く。
一通り聴取が終わり3人は一息つく。
そんな時ふとダハクがこんなことを言った。
「それにしてもその魔糸、だったか?出鱈目な魔術だな?」
本人としては話の種程度の気持ちだった。
だが、
「あー、魔糸は魔術じゃないですよ?」
青年の返答にダハクの動きが止まった。
宛ら時間停止の様に。
「私自身の純粋な技術です」
青年は気負う事なく再びそう言ってのけたのであった。
中々進みませんな~(・ω・)
いや、プロットが大事ってのも分かるんですがね、細かく決めようとやってみると整合性とれねぇ、ってなるし、程々にやろうとするとガバガバの何コレ?って感じだし、結果書きながら考える羽目になり、執筆に時間が掛かるという、何と言いますか、まぁ、
中庸ってのは難しいですなぁ(他人事