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魔術師若しくは傀儡師  作者: うまひ餃子
5/10

言った者勝ち

 そいでは、どうじょ(/・ω・)/




 「外から見ても立派でしたけど、中も綺麗ですね」


 領主館の一室をきょきょろと見回しながら青年は部屋の印象を口にする。

 決して煌びやかではないが目に優しい家具や絨毯はそれとない気品と落ち着きを感じさせる。

 

 「領主様は浪費を好まないお方だ。かと言って趣に欠ける方でもない」


 「そうなんですか」

 (なるほど、そこら辺の浪費家と一緒にすんなってことなのかね?)


 ハンズの返事を勝手に解釈するジンだが、この受け取り方は間違いではない。

 かなり強引な形での呼び出しで気分を害しているかもしれない青年へ自分の主の良い所を知ってもらいたかったのだろう。


 (まぁ、この部屋見る限り悪趣味ではなさそうだけど)


 しかし、天邪鬼な15歳の青年はその言葉を真正面から受け止めようとはしない。

 当の領主に会ったことがないから何とも言えないのである。当然と言えば当然であった。



 こんなおとぎ話がある。

 ある所に心優しい王がいた。彼の者は争いを嫌い、慈しむことに重きを置いた。

 王は貧しい者たちに食うものを配った。貧しい者たちは喜んだ。そして人々はそんな王を「優しき王」と呼んだ。

 しかし、その食べ物は国の税からなる物。食料の無償配布を繰り返し国庫は次第に枯渇していった。

 臣は王に言った「もう金がありません」と。

 すると王はこう言い返した「ならば軍に使う金を回せば良いではないか」

 誰も抗えず、その国は軍縮を行った。その結果、職を失った元兵士までもが無償配布の列に並ぶ様になる。貰う人が増えるのだからすぐに用意した食料も底をつく。最初は王を称賛していた者たちもこの状況を見て「愚王」と非難し始める。それからすぐに国内で反乱が起きた。

 そしてそれを見ていた隣国に攻め込まれ、結局その国は亡びた。


 「浅慮穿孔」


 浅き考えが国をも亡ぼす孔となる。この物語から生まれたとされる言葉である。 

 領主の側近が何を言おうとこの場で領主像を組み立て始めるのはまだ早い。

 領主が昨日の女と同類、又は手を組んでいる可能性もない訳ではないのだ。


 (ま、なるようになるか)


 そう考えながらも、結局思考を放り出す辺り、青年の奔放さが窺える。

 その青年を時折、観察するハンズであったが、青年の海上の様な心内の変化を読むことは出来なかった。



 それから少しして彼らが待つ部屋の扉が叩かれた。


 「ハンズ補佐官、ご領主様からのご返事です。『全て受け入れる』との事です」


 「そうか、では行くぞ、ジン殿」


 領主の返答を聞くとハンズは青年を促した。

 その速さ正に一瞬であった。


 「分かりました。それで、ハンズさん、そのジン殿ってのは止めてもらえないですか?やっぱりハンズさんにそう呼ばれるのはちょっと」


 自分より年上で地位もある人物に敬称付け呼ばれることに青年は居心地の悪さを覚えていた。


 「領主様のお客様だ。呼び捨てには出来ん、我慢するんだな」


 呼び出されてるんだからお客様って言うより、この場合参考人とか容疑者の方がしっくり来るよなぁ~などと密かに思いながら青年はその呼び方を受け入れることにする。




 ◇◇◇




 「ジン殿、よく来てくれた」


 そう言って領主は手を差し出して来る。

 ジンはハンズに視線を向けるが、領主の右腕は頷くだけだったので、とりあえずその手を握り返す。

 

 「私はルデール・ダハク、お雇いの領主だ。よろしく頼む」


 「お雇い?」


 領主──ダハクの言葉に首を傾げる青年。

 とりあえず、ハンズの視線がおっかないので挨拶を返す。


 「初めまして、ご領主様。自分はジンと言います」


 ハンズの視線に気付いていたのかダハクは小さく笑みを作った。


 「ああ、私の場合は名誉爵位でね、一代限りの貴族と言えば通じるかな?」


 青年の疑問にスッと答えるダハクは楽し気であった。

 

 「えーっと、なんとなくは」


 今一つ理解していないのだが、自分に気を遣ってくれたであろう目の前の人物に「全く分かりませんでした」とは言い難い。

 この時点で青年はダハクに好意的になっていた。

 本人は理解していないが。


 「まぁ、無理に理解することもないさ」


 ハハハと領主は笑う。

 和やかにこのまま話が進むかと思われたが、そんな雰囲気を打ち壊す声が上がる。


 「それで私への挨拶はまだかしら?」


 まるでこの場の王であるかの物言い。

 ある人物は後ろに組んだ拳を強く握り、ある人物は心の中で呪詛を吐いていた。

 しかし、動じない人物はいるもので、


 「あ、どうも、昨日ぶりですね」


 まるで知り合いに会ったかのように気軽な口振り。

 礼には礼を非礼には非礼を、である。

 案の定、女魔術師が怒り掛けるが、ダハクが間に入って執り成す。

 この場で最も身分ある者の執り成しに不満はあるものの素直に従うアズリラ。

 しかし、彼女はこの領主が心の中でジンに拍手喝采していたことを知らない。


 「アズリラ殿、ジン殿、どうぞ楽に。ハンズ、茶を」

 

 ダハクの言葉に二人が椅子に腰を下ろす。

 ハンズは侍女を呼びお茶の用意を申し付け、お茶と菓子が運ばれて来る。

 ダハクは茶で喉を潤すと、青年と女魔術師を交互に見ながら話し始める。


 「さて、では本題に入る前に、だ。今回はジン殿にどうしても確かめたい事があったので来てもらった。その確認が済めばこちらはもうジン殿をこの様に呼ぶことはしない。そして今回ジン殿に質問するのは私のみとする。ご両人よろしいね?」


 この言葉にジンはこの領主が自分の側に着いている事を確信する。

 重要なのは二点。

 今回を以て領主は理由無しに青年を呼びつけない事。

 そして、今回の尋問を執り行うのは領主のみという事。

 これにより、アズリラは今回の尋問に実質関わることは出来ず、更に今後領主を利用することも不可能になったのだ。

  

 

 「なっ!?」


 アズリラとしては驚きしかない。

 青年の術を探る為に態々このような場を開かせたのに、これでは目的が果たせない。

 

 「アズリラ殿如何されましたか?」


 少し前まで笑顔で協力的な事を言っていた男は先程までと変わらぬ笑顔をしている。

 しかし、彼女はその人物が同じ人物とは思えなかった。


 「これはどういう事!」


 「どういう事とは?」


 「なんで私が尋問できないのっ!」


 「逆に問いますね、何故貴女が尋問する必要があるのですか?」


 憤然と問い正そうとするアズリラだが、領主は平然としている。


 「貴女は街内に所属不明の魔術師が居るから調べてはどうかと私に訴えました。これは確かにその通りですので私はジン殿を呼び出してこれから尋問を行います。これで良いではありませんか?」


 そう、この場合ダハクの言い分に間違いはない。

 このマゼルの街での事はマゼル領主が事に当たる。ただそれだけの事なのだ。

 しかし、これではアズリラは困るのだ。

 この機会を逃せば、恐らくジンの持つ見た事のない術について詮索する機会を彼女は失う。


 「で、でも、私が提案したのだから参加する権利はある筈よ!」


 「ですから聴くだけであれば構いません」

 

 「それじゃあ困るのよっ!」


 「何がです?」


 女は目を背け、黙り込む。

 馬鹿正直に「その青年の魔術について知りたいから」とは言えない。

 彼女は考え無しだが、それぐらいは分かっていた。


 「・・・」


 しかし、この場合の沈黙は意味を成さない。

 ダハクはここぞとばかりに言葉の剣で畳み掛ける。


 「では、もう一度伺います。私の言った事、守って頂けますね?」


 女魔術師は何も言わない、いや、言えない。

 その様子を見たダハクは軽く頭を振ると兵士を呼んだ。


 「アズリラ殿は退出されるそうだ。別室まで案内して差し上げろ」


 有無を言わせない強い口調で2人の兵士達に申し付ける。

 返事がない事を否定と取った様だ。


 流石に不味いと思ったのかアズリラは何かを言おうとするが、ダハクはそれを許さない。


 「安心して下さい、アズリラ殿。自分には心強い護衛もいるので大丈夫です。別室にて今しばらくお寛ぎ下さい」


 この言葉はダハクの身を案じたアズリラが渋った様に見せる為のものだ。

 これは屋敷の外に話が漏れた際に、ダハク、アズリラ共に噂で傷を負わない為の布石であった。

 咄嗟の事に何も言い返せなかったアズリラは兵士に連れられそのまま部屋を後にした。

 彼女が出て行った扉が閉まるとダハクは盛大に溜息をつく。


 「はぁ~、疲れた。ジン殿も大変だったな。あんなのに目を付けられて」


 あまりにも身も蓋もない言い方に苦笑いしかできないジン。

 ハンズがゴホンと咳払いをするとダハクが恨めし気に「ちょっとぐらい良いだろうに」と呟く。

 そのほんの少しのやり取りにジンは彼等の絆を見た気がした。

 ダハクはやれやれといった感じで青年に向き直る。

 その瞳は金色で綺麗だったが、ジンはその瞳が見ているものに違和感を感じた。

 自分を見ている筈なのに、見ていない気がしてならない。

 しかし、その違和感の正体は掴めなかった。

 

 「それじゃあ、怖い鬼もいるしさっさと本題に入るとするか。ジン殿、君は魔術師なのか?」


 「あっ、はい。一応は」


 「そうか。で、君は何処かの国や組織に所属しているか?」


 「その所属って言うのがどの様なものを指すのか分かりませんが、多分自分はどこにも所属なんかしていないんじゃないかと」


 「なるほど、よし、大丈夫そうだな。はい、尋問終わり!」


 呆気なく尋問は終わった様である。

 その時間僅か10秒と少し。

 青年は困った顔でハンズを見るが処置無しと言った目をしている。

 どうやら本当にこれで終わりの様だと青年は悟ると共に肩を透かされたかの様な気持ちに陥る。

 その本人と言えば目を瞑って茶を啜りながらその香りを楽しんでいる。


 「ハンズさん、大変ですね」


 「まぁな」


 「本人を前に結構なことを言うな、君たち」


 そうは言うが、声色は楽し気で浮かべている笑みも悪戯っぽくニヤついている。

 

 「でも、本当にこんな感じで良いんですか?」


 黙っていれば良いのにも拘らず、正直に口にする青年はまだまだ青い。

 だからこそ青年なのだ。


 「根掘り葉掘り聞かれたいか?」


 意地悪っぽく尋ねるダハク。

 

 「まぁ、答えたくないものには答えませんし」


 あっけらかんとした青年の返事に「そうかそうか」と笑う領主。

 笑われる側としては一体何処にその要素があったのか甚だ疑問そうであった。


 「すまんすまん。そうはっきりと言われるとは思わなかった」


 尚も可笑しそうにするダハクに更に首を傾げるジン。

 少しして笑いの波が収まるとダハクは「それでは」と切り出した。


 「ジン殿、一応調査はしているがもう一度君のこの街に来るまでの事を聞かせてくれ。それと出来るだけ君の育ちについても知りたい。勿論話したくない事は言わなくて結構だ」


 「話が長くなるかもしれませんが、それで良ければ」


 「構わない」と頷くダハクを見てからジンは話し始める。


 自分が者が物心着いた時には両親は既にいなかった事。

 自分を育ててくれたのは実の祖父とその友人2人の老人たちだった事。

 その祖父たちも亡くなり、自分も成人する歳になったので山から降りて来た事。


 ジンはそれらをゆっくりとなるべく丁寧に語った。

 話し終わると今度はダハクから質問が寄せられた。


 「ジン殿はその祖父御から魔術を習ったのか?」


 「うーん、何て言えば良いのかな。魔術自体は本からだったりほぼ独学です。じーちゃんには物作りを教わりました」


 「本から独学で、か。祖父御は魔術師という訳ではなかったのだろう?何故魔術の書物を?」


 「えーっと、どうやら両親のどちらかのものらしくて。じーちゃんも両親の事は話してくれなくて。この事自体もテル爺ちゃんとバイ爺ちゃんにこっそり教えてもらったんです」


 「そうか、となるとジン殿の御両親のどちらかは魔術師だった可能性があるか」


 そう言って考え込むダハク。

 ジンとしては生んでくれた事については感謝しているが、顔を見た事ない両親にそこまでの思いはなかった。


 「あと、ジン殿は山暮らしだったのだろう?稼ぎはどうしていたのだ?」


 「えっと、じーちゃんが作った作品を売ったり、テル爺ちゃんがぶっ潰した盗賊の品を売ったり、バイ爺ちゃんが狩った獲物の毛皮や肉を売ってました。自分もじーちゃんたちの手伝いをしてました」


 「ん?1人おかしいのが居た気が」


 「ハハハ」


 ジンも否定はしない。

 テルムネという老人はかなりぶっ飛んでいた。

 盗賊の噂を耳にすると嬉々として自分から潰しに行くくらいには。

 ジンも2度程連れて行かれ、その2度とも食べたものを全てお天道様の下に曝け出したのは過去の日の思い出である。


  

 「じーちゃんには物作りを、テル爺ちゃんには戦い方を、バイ爺ちゃんには狩りの仕方や動植物の知識をそれぞれ叩き込まれましたよ」


 それでも、笑いながら育ての親たちの事を話す青年はとても楽し気であった。




 ◇◇◇




 「どうでした?」


 ジンを帰した後、ハンズは領主に話を振る。


 「まぁ、白だな。狂った奴ではない」


 そう言うダハクではあるが何処か歯切れが悪い。


 「領主様は何か気になる事でも?」


 「ん?あぁ、ちょっと素直過ぎると思ってな。お前もそう思わないか?」


 ハンズは青年と出会ってからの会話を思い出し「確かに」と納得する。


 「ああいう質の奴は何かと揉め事を起こしやすい。それに未所属の魔術師と来てる。アイツはこれから苦労するぞ」


 男の言葉には確信めいたものがあった。

 

 「それになぁ」


 更に何か憂う事がある様だ。


 「なんです?」


 「アイツ普通に戦えるぜ?かなり鍛えられてた。ったく、アイツを鍛えた爺さんたちは何者なんだよ」


 「見た(・・)のですね?」


 「ああ、最初は感じだけ見てたんだけどな?まぁ、とりあえず街にいる間は出来るだけ気に掛けてやるか。厄介事起されても面倒だし」


 「そうですね。では、その様に」


 ジンの扱いは不審者から腫物へと進化した。

 本人は決して望まないであろうが。


 「あと、何か忘れてる気がする」


 「なんでしょうか」




 その後、アズリラが戻って来るとジンが既に帰ったことを知り彼女は大いに地団駄を踏んだという。





 

 大まかな流れを考えるのは楽しい。

 しかし、それを言葉に変換しようとするとあっという間にしぼんでいって結果ほとんど進まない。

 あると思います。

 泣き言すみません。

 ぼっちぼっちやって行きますので気長にお付き合いのほどよろしくお願いします/)`;ω;´)


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