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魔術師若しくは傀儡師  作者: うまひ餃子
2/10

街へ行く

 ダラダラとした新年の幕開けとなりました。

 満喫でございました。


 それではどうじょ(/・ω・)/


 「う~ん、飽きたな」


 ジンが山小屋から旅立ち早3日が経っていた。

 青年は、まず山の麓にある村で旅に必要な物を買い漁った。

 大抵の物は小屋にあったもので十分なのだが、あり過ぎて困ることは無いだろうと青年は踏み切った訳である。

 そんな彼はかなり大きなバッグを背負っている。

 そこまで違和感はないが、村ですれ違う人の2人に1人は彼の背負う物に視線を向けていた。

 村唯一の店の店主には「そんな荷物抱えて旅するなんて大丈夫かい?」と実際に尋ねられもしたのだ。

 しかし、ジンは「やっぱり大きいですよね~ははは」とまるで気にする様子はなかった。

 実際、彼は今まで3時間程荷物を背負って歩いているが、全く疲労の色は見えない。


 「もうそろそろ見えて来ても良いと思うんだけど。あ~、風呂に入りたい~」


 青年はそうボヤキながら、道を進んで行く。

 周りの景色は緑一色。緑の向こうには幾つもの山が連なっている。

 変わらない景色に一向に見えてこない街。青年は少し後悔していた。


 山の麓の村では月に一度訪れる行商人の馬車を待って一緒に街へ向かう事を勧められていた。けれど青年はそれをやんわりと固辞した。理由は単純で、自由に旅をしたかったから。それに馬車に乗せてもらうには対価も必要とされる。正直お金がない訳ではなかったが、行商人を待つ時間が無駄に思えたので押し切った訳である。実は手っ取り早く街に行く手段がなくもないのだが、青年はあえてそれを使わなかった。


 そんな青年だが更に1時間歩き続けると漸く、街が見えて来た。

 

 「ふい~、やっとだ」


 青年は遂に風呂無しと言う精神的苦痛から解放されると思った。

 早速、街に入って宿を探そうと気持ち早めに足を動かす。その足取りにはやはり疲労している様子は見られない。

 街の入口には兵士が立っていた。腰に剣を差し、鈍く光る銀色の胸当て、手甲に足甲を身に纏い片手には槍を持っている。


 「止まってくれ」


 兵士の言葉にピシッという音が聞えそうなくらい背筋を伸ばし気を付けの構えを取るジン。

 兵士はジッと目の前の青年を観察する。身の丈まではいかずともかなり大きいバッグを背負い、腕がすっぽり隠れるようなだぼだぼの上着という独特の出で立ち。

 正直怪しいか怪しくないかで言えば前者の部類に入るだろう。

 けれど、にこやかに笑う顔を見るに悪意や警戒の色はないと兵士は判断する。


 「一人か?」


 「はい、一人でここまで来ました」


 青年の体つきは上着のせいで判断に悩むが、足の筋肉や大きなバッグを背負いながら疲れの様子が見えない所などを見るに鍛えてはいる筈、と推察し嘘ではないと判断する。


 「はい!それで、ここは何と言う街でしょうか?」


 「ん?ここはマゼルの街に決まってるじゃないか。お前知らないのか?」


 何を言ってるんだと兵士は少し呆れるがそれを顔には出さない。

 しかし、口調にはそれが表れてしまっているのだが。


 「はい。自分は今まで山奥で暮らしていたので、この様な大きな街に来るのは初めてです!」


 なるほど、と兵士は納得する。

 この時代山暮らし自体はそれほど珍しいものでもなかった。

 そして山に暮らす人は山の下の常識に疎いとも言われていた。


 「山暮らしか。因みに山から下りて来た理由を聞いても?」


 兵士は山に住んでいたのなら目の前の青年の狩人辺りの出ではないかと推測する。

 そして、職務として青年に山下りの理由を問い掛ける。


 「えっとですね、元々4人家族だったんですけど3年前にじーちゃんが亡くなって遂に独りになりまして。で、今年成人する歳になったし折角だから旅でもしたいなと思って。それでここまでやって来たんです」


 「そうだったのか。いや、すまんな。悪い事を聞いた」


 つまりこのあどけなさが残る青年は天涯孤独の身だったのか、と兵士はバツが悪そうに謝罪する。


 「大丈夫ですよ?兵士さんだって仕事ですもんね。それにじーちゃんたちは確かに死んじゃったけどずっと俺と繋がってるって言ってくれましたからね。もう寂しさもないですし」


 嬉しそうに語る青年に兵士は自然と心が温まる。

 そしてこの青年はそのじーちゃんたちにとても愛され、彼自身も亡くなった家族の事を今でも大切に思っているのが表情や声色から簡単に察せられた。


 「そう言ってもらえるとこちらとしても助かる。それと俺はカーンだ。見ての通りこの街の治安を守る兵士ってやつだ」


 「あっ、自分はジンと言います。旅人ですけど、一応物作りが得意です」


 「物作りか、いや、すまん。ジンだな。よし、ジン、何か困った事や聞きたいことがあったら俺を訪ねて来な。大抵ここか詰所にいるから気軽に来い。まぁ、警邏に出てたらどうしようもないがな」


 「ありがとうございます、カーンさん」


 カーンの心遣いに素直に感謝する青年。

 それから簡単な荷物検査をして、カーンからお勧めの宿を教えてもらい青年はマゼルへと足を踏み入る。


 「凄いな、建物がいっぱい、それに人も」


 出立の際、立ち寄った村とは全く異なる活気に青年は目を奪われる。

 とは言っても各国の首都や著名な都市に比べると「赤子とドラゴン」なのだが。

 因みに「赤子とドラゴン」とは比べるのが愚かしい程に比較対象同士の差がはっきりとしている際に用いられる言葉だ。


 気を取り直し、青年は一先ず宿に行く事にする。


 「えっとこの先の角を右で・・・」


 カーンに教えられた道順を進んで行く。

 そして、一つの宿に行き着いた。入口の真上には《黒鍋亭》と書かれた看板が掛けられている。

 

 「ここだ。黒鍋亭っと」


 早速青年は店に入って行く。

 入った先にはこげ茶色の髪をした女性がいた。

 女性は青年を見るとニカッと笑って声を掛けて来た。


 「いらっしゃい!泊まりかい?」


 気持ちの良い笑顔だな~と思いつつ青年は返事する。


 「はい、カーンさんから勧められて来ました。部屋空いてますか?」


 「カーンのかい?それなら大丈夫そうだね。部屋は空いてるよ、一泊は大銅貨3枚と銅貨5枚。食事代は別で1食銅貨5枚、時間は朝と夕方さ」


 「なるほど~、風呂はどうなってます?」


 青年の質問に女性は首を傾げる。


 「風呂かい?そんなの貴族様が泊まる様なでかくて高級な宿にしかないよ?うちはお湯の貸し出しならやってるよ。一回銅貨8枚だけどね。て言うかそんな事も知らないってアンタもしかしてお上りさんかい?いや、風呂を求めてってことはどこかの坊ちゃんかね」


 青年は無慈悲な審判に崩れ落ちそうになる。勿論女性の質問は耳に届いていない。

 風呂、それだけを希望に野宿を耐えて来たというのにこれはあんまりだ、と打ちひしがれる彼の姿は見る者の同情をひくほどの哀愁を漂わせていた。


 「簡易風呂を作るか?いや、でも置く場所がないし何よりその為の材料が・・・」


 ブツブツと何やら呟く青年の目はほんのりと狂気が篭っていた。


 「ちょっと・・・ちょっと!」


 「はっ!」


 しかし女性はそんなのどうしたと青年を現実に引き戻す。

 

 「で、結局どうすんだい?」


 「えっ、あ、はい。お世話になります」


 勢いのまま青年がこの宿に泊まることが決まる。

 

 「で、どれくらい泊まってくれんだい?」


 青年が押しに弱そうと見るや女性は青年ににじり寄る。

 快活そうに見える女性ではあったがそこは商売人として多少の狡賢さを兼ね備えていた。


 「え、えーっととりあえず6日でお願いします」


 「1週間だね?食事の方はどうすんだい?」


 「朝夕どちらもお願いします」


 「あいよ。ってことは今日の朝食分は抜いて全部でえー」


 計算を始める女性。

 両手の指を使って数えている、が


 「銀貨2枚と大銅貨6枚に銅貨5枚ですね。はい」


 青年はいつの間にかその代金を手にし、それを女性に向けて差し出す。


 「え、ちょっと、アンタ数えるの速いね?ちょっと待ちな・・・」


 そう言って再び計算を再開する女性。

 青年の計算には間違いがないが、かと言って仕事を怠るのを善しとはしなかった訳だ。

 少しして女性は顔を上げる。


 「うん、間違いないね。確かにちょうどいただくよ。ちょっと待ってな」


 そう言って奥へ下がって行った女性はすぐに戻って来た。

 どうやらお金を置きに行っていた様だ。


 「待たせたね、部屋へ案内するからついてきておくれ」


 案内されたのは2階の角部屋だった。

 室内はベッドと一本脚の小さな机と箪笥がそれぞれ置かれており、部屋の奥には窓があり、空気の入れ替えが行えるようになっていた。

 

 「部屋の戸締まりはしっかりね。あと、お金とか大事な物は常に持ち歩くこと。私も盗みはさせないように気を払ってるけど完璧にとはどうしても行かないからね。これ、部屋の鍵だから、出掛ける時は鍵を閉めて、私に渡してくれりゃいいから」


 「分かりました。ご丁寧にありがとうございます。あと、自分はジンです。これからお世話になります」


 「おっと、私はマーサだよ。家族でこの《黒鍋亭》をやってんのさ。アンタみたいな良い客はこっちこそよろしくだよ。それじゃ、何か用があったら声を掛けておくれよ」


 気持ちの良い笑顔を最後にマーサは仕事に戻って行った。

 ジンは部屋の鍵を閉めると、荷物を肩から下ろしてベッドに座り込む。


 「あ、一応やっとくか」


 そう言って青年は床に手を置く。


 「タイプは探知迎撃型、ポイントは室内全てを指定、対象は害意・敵意を持つ者、手段は物理拘束」


 青年の喋りと同時に手が触れた部分から光の線が部屋全体に走る。

 言い終わるのとほぼ同時に光は収まり先程までと全く変わらない部屋に戻った。


 「あ、それと防衛術式、ポイントは同一、手段は二重障壁、対物理障壁1、対魔術障壁1っと」


 今度こそ終わったと青年はベッドにダイブする。

 

 「ふわ~あ、やっぱりテントの中よりくつろげるな」


 それからゴロゴロと寝転がるがすぐに手持ち無沙汰に陥る。

 しかし、今から外に出るのも億劫なので何かないかと寝転んだまま考える。

 ああでもない、こうでもないと考えていたがふと青年は思い付く。


 「そうだ、開錠、書物、ランダム」 

 

 すると、青年の前に一冊の本が突然現れた。

 それを掴むと青年は表紙に目をやる。


 「召喚魔術研究論か、ま、ちょっとした時間潰しにはなるか」


 そして青年は読書に耽り室内は静寂に包まれる。

 結局、このまま夕食まで彼は読書に没頭するのであった。




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