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魔術師若しくは傀儡師  作者: うまひ餃子
10/10

出会いと遭遇

 前話『動く』のプルートの台詞を一部付け足しました。

 と言っても本当に一部なのでさして気にすることもないと思います。

 それでは、どうじょ(/・ω・)/




 青年魔術師ジンは絡まれている。


 「なぁ、オメーが魔術師さんか?」


 昼食を取っていたところにドカリと座り込んで来た男は唐突に尋ねて来た。


 「今メシ食ってるから」


 全く気に掛けることなくジンは目の前の料理に集中する。

 しかし、相手も然る者。


 「お、確かにうまそうだな。ちょっとくれよ」


 そう言って青年の料理に出そうとした手が、止まった(・・・・)


 「人のモンに何やってんだテメェ・・・・一遍その汚ねぇ手切り落としてやろうか?」


 その殺気は本物だった。

 しかし、男は面白そうにケラケラと笑う。

 そして、尚も笑いを堪えながらジンに話し掛ける。


 「そうだよな、自分のメシに手ぇ出されたら切れるよな。クックック」


 酷く不快感を覚えたジンは黙って料理を口に運んでいく。

 無視である。


 「悪かった、悪かったから、俺と話してくれよ、な?」


 だが、青年は無言。


 「分かった、その飯代は俺が持つ」


 ほんの少しその言葉に青年が反応を示す。

 しかし、それでも無言のままであった。


 「くっ、じゃあ、もう一皿俺の奢り、これでどうだ?」


 「何の用です?」


 即答であった。しかも敬語。

 途轍もない変わり身の早さである。

 男は苦笑しながら、料理の追加を頼むと青年に話始めた。


 「んじゃ、自己紹介からだな、俺はダリスっつうもんだ」


 「俺はジンです」


 「そこはもうちょっとなんかあるだろ。どんな職に就いてるとかよ」


 「さっき、自分で聞いてたじゃねぇか、白々しい」


 早くも敬語は消えてしまった。

 やはり青年には鬼門だったらしい。

 しかし、ダリスという男は全く気にしていなかった。


 「いや、こういうのは本人の口から聞かねぇとな。噂なんて大抵尾ひれがついてるしな」


 「そういうもんか?」


 「ああ、そういうもんだ。で、どうなんだ?」


 少しずつ会話にもリズムが生まれて来たところでダリスは本題に入る。

 

 「はぁ、確かに俺は魔術師だ。で、用は?」


 「いやなに、色々話をしてえと思ってな」


 「別にいいけど、飯優先だからな」


 「ああ、構わねえよ。そんじゃ、俺もなんか頼むか。おーい、こっちにもエールと肉の料理一皿くれ!」


 胡散臭さはあるが決して悪い人物ではないのかもしれない。

 言葉を交わしたジンのダリスへの印象だった。


 「で、訊くが、お前は何処にも所属してねえんだな?」


 「また、それか。ああ、恐らく俺はその所属してない魔術師だ」


 「えらくあっさり言っちまうんだな」


 ダリスは変なものを見つけた様な目をしている。


 「別に隠すもんじゃないだろ。けど、一々尋ねられるのも鬱陶しいな次からはテキトーに濁すことにするわ」


 「へっ、もうおせえっつの。お前、おかしな奴らに襲われたんだろ?領主に聞いたぜ?」


 目の前の男から領主という言葉が出て来たので青年はピクリと反応する。

 しかし、食べることを止めない。一番大事なのは食べることでダリスという男の出自への興味は二の次どころか千になっても出て来ないであろう。それがジンという青年である。

 無言の青年に尚もダリスは話し続ける。


 「んで、襲った奴がグレリュゴリコっつったんだろ?お前はもう立派なお尋ね者さ」


 「何か知ってるのか?」


 「お前が俺の言う事を聞いてくれるんなら、喜んで教えてやるぞ?」


 意地の悪い笑みだった。

 しかし、そんな見え透いた網に掛かるほど青年も愚かではない。


 「ごちそうさまでした。んじゃ、奢りどーも」


 そう言って席を立とうとする。


 「待て待て待て、悪かった、話すから、是非に及ばず話させていただきますから」


 「そこまで言うなら聞いてやろう」


 決して会話の主導権を握らせない青年、性悪である。


 「はぁ、ったく、じゃあ、教えっから耳かっぽじってよく聞いとけ。お前を襲ったのはな魔術組織【骸の贄】(スカル・ロード)ってとこの気狂い共だ」


 「・・・・・魔術組織ってなに?」


 「そっからかよ、プルートの奴連れて来ときゃ良かったぜ。ええっと、魔術組織っつうのはな、大雑把にまとめると魔術が使える奴らが集まって徒党を組む時に出来る集まりの事を言うんだ。分かるか?」


 やれやれと肩を竦めてダリスは説明する。


 「なんとなくは」


 「で、魔術組織っつうのはピンキリでな、比較的真面なのからマジヤベェのまで色んなのがいる訳よ。で、お前を襲った【骸の贄】っつうのは質の悪い魔術組織。これも大丈夫だな?」


 ちゃんと最後に確認する辺り、案外この男は面倒見が良いのかもしれない。


 「なんとなくは」


 「ホントに分かってんのか?」


 「なんとなくは」


 残念ながら、その厚意を見事にふいにする者がジンであった。


 「オイ、いくら温厚な俺でも限度ってもんがあるぞ?」


 「ごめんなさい」


 流石に謝る青年。

 だったらちゃんと返事をすれば良いのだが、これがジンクオリティーである。


 「ったく。で、組織っていうもんは基本人手不足だ。常に新しい人材を求めてる訳。で、お前は質の悪い組織に存在を知られた。これがどういう意味か分かるだろ?」


 「どうでもいいな」


 これが青年の本音だ。

 今の所、何処かの何かに縛られるつもりは毛先のほどもない。

 青年は自由だった。


 「お前マジで話聞いてねえだろ。頭の箍が外れたヤベェ奴らが常にテメェを折って来るってことだぞ?」


 「なら、そいつら全員ぶっ潰せば良いだけの話だろ?」


 何がおかしいのか分からないと言った顔のジン。

 

 「あのな、例えオメェが【骸の贄】をぶっ潰せたとしてもだ、そんなのすぐに広まるし、そうなりゃ、次々と別の組織がテメェを追い掛けて来るぞ?」


 ダリスの声が今までにないくらい真剣みを増す。


 「別に、そいつらも潰すまでだ。その最中に死んだとしても俺は構わない」


 だが、当人と言えば何も感じていない。

 いや、感じられないのかもしれない。


 「お前、イカれてんだろ」


 「うっせえ。俺は色んなものを見て回りたいんだ。自由にな。それを邪魔する奴らはぶっ飛ばす。これは決まってることだ。誰にも何も言わせねえよ」


 青年の目に少しだけ憂いの色が混じる。

 ダリスは目敏くそれを感知したが、何も言わなかった。


 「オメェ幾つだ?」


 「今年で15。いきなりなんだよ」


 「いや、オメェみてぇなバカが幾つなのか気になっただけだ」


 「ぶっ飛ばすぞ、オッサン」


 「俺はオッサンじゃねぇ!まだ、28だ!」


 「へん、立派なおっさんじゃねぇか、オッサン」


 「テメェ、人が優しくしてやりゃあ調子乗りやがって」


 「あん、誰がそんな事頼んだ。つか、オッサンが勝手に話し掛けて来たんだろうが」


 一触即発の様相を呈しかけた時


 「ちょっと、ダリスさん!何やってるんですか!」


 仲裁者が現れた。



 ◇



 「全く、貴方という人は」


 「俺は悪くねぇ、このガキが悪の根源だ!」


 「オイ、俺が全部悪いみたくいってんじゃねえよ。俺はオッサンの話に付き合わされた被害者だ」


 「あああ?テメェ人に奢らせといてなんだその態度は?」


 「オッサンが勝手に奢るっつったんだろうがよ、もう忘れたのか。流石オッサンだな」


 「やんのか?」


 「おお、上等だ」


 「だ・め・で・す!ほらお二方とも離れて!」


 グルルルと睨み合う二人の間に入るプルート。哀れである。


 「はい、どうどう。落ち着いてくださいねー」


 「俺は馬じゃねえぞ、ヘナチョコ魔術師!」


 「あっ、ひどい。人が折角場を収めようとしてるのに」


 常識人という存在はいつも割を食うのがこの世の厳しい現実である。


 「アンタ、このオッサンの連れ?」


 「えっ、う、うん。そうです」


 突然、明らかに年下と思われる青年にタメ口で訊かれ、プルートは驚くとともに自分の威厳の無い顔について再確認し、悲しみに暮れたことは想像に難くない。


 「んじゃ、頼んだ。俺はもう用ないし」


 そんなプルートの心情などいざ知らず、そう言って去って行く黒髪の青年。


 「ちょっ、待てや!話は終わってねえぞ!!」


 そして、プルートの悩みの種であるダリスは大声をあげている。

 吐息に酒精が感じられることから、すでに飲んでいるらしいことが彼には窺えた。

 そしてダリスがワザと(・・・)大袈裟に振る舞っていることも。

 青年の姿が見えなくなると、プルートの顔から戸惑っていた表情が消える。


 「ダリスさん、今の彼が?」


 「ああ」


 ダリスの顔からは酒精によると思われた赤みが何時の間にか消えていた。

 

 「接触してみてどうでした?」


 「ありゃ、危うい」


 即答でただ一言。それがダリスのジンへの印象だった。


 「危うい?」


 プルートはダリスの言っていることがよく分からないのか首を傾げる。


 「なんつーかな、アイツは恐ろしいほどに単純だ。人として、それに魔術師として最低限必要な知識も欠けてる。それで、かなりやる(・・)と来てる。あー、ヤなもん見たわ」


 グルグルと肩を回しながら男はぼやく。


 「それかなり危険な人物なんじゃ・・・」


 プルートの口角がヒクヒクと上がり、何とも言えない顔になる。


 「ただ、ちゃんと知識を教え込めればある程度は問題ない。あれはそういう輩だ」


 「けど、断られたんですよね?」


 「いや、その話に持って行く前にオメーが来たから台無しになった」


 まさかの暴論である。プルートが来ようが来るまいが結果は変わらなかったであろう。

 とんだとばっちりであると言えよう。


 「ちょっと言い掛かりは止めて下さいよ。僕が居なきゃあのままやり合ってたでしょ?」


 「ふん、それで伸して言う事聞かせる予定だったんだよ」


 当然真っ赤な嘘である。


 「へー、国軍の兵士が真っ昼間から酒を飲んで、無辜の人を伸すと」


 「アレは無辜な民なんかじゃねえ。獣だ、だから問題ねえ!」


 「あのねぇ、ダリスさん」


 相方の無法っぷりに呆れしかないプルート隊員。

 彼は常識人でやはり苦労人であった。



 □■□■



 「竜騎士は邪神と剣を打ち合います。一合、二合、それは永遠と思えるほど長く、刹那と思えるほど短く思えるほどの激しさでした」


 青年は酔っ払いから逃げ去った後、見事に子どもたちに捕まり、毎度のように人形劇をする羽目になった。

 今やっている劇は「竜騎士セーヤ」という古くから語られるお伽噺をリメイクしたものであった。竜騎士という題材のおかげか男の子の食いつきの良さは尋常ではなく、立ち上がって竜騎士を応援する者まで現れる始末であった。


 青年も気分が乗って来て物語は佳境に入ろうとしていた。


 「おい、貴様が魔術師だな!」


 しかし、それは無粋な侵入者によって遮られる。

 子どもたちは邪魔をするなと口々に言った。


 「黙れ、平民の餓鬼がこの私に盾突くな!」


 その大声と形相に遂には泣いてしまう子が現れた。

 ピッツはそんなこと構いもせずに魔術師と思われる青年に詰め寄ろうとする。

 その後ろにはアズリラもいた。その顔は上手くいったとばかりに笑みで綻んでいる。


 「おい、貴様だ。返事をしっ!?」


 何故かピッツの動きが止まった。

 あまりに不自然なその体勢はそれが故意によるものでないことを示していた。

 余裕の表情だった連れの女性も異変には気付いたが、その衝撃に動けないでいる。

 

 「おい、お前ら、今日はもう帰れ。また今度聞かせてやる」


 青年の声に子どもたちは戸惑いながらも言う通りに帰って行く。

 それを笑顔で青年は見送ると動けなくなってもがいているピッツの方へと顔を向けた。


 「ヒィィイ!!」


 その眼からは感情が消えていた。

 何処を見ているのかも分からない伽藍洞な瞳は無性に見る者に言い知れない恐怖を刻み付けた。


 「おい、お前」


 その声は底冷えするほどの冷気を放っていた。


 「用があるなら別に構わねえ」


 ザッ


 「態度がデカかろうと、言葉遣いが偉そうでも別にどうでも良い」


 ザッ


 「でもなぁ」


 ザッ


 「ガキの顔歪ませて」


 ザッ


 「恐怖植え付けて」


 ザッ


 「俺がテメェの思う通りに動くと思ってんのか?」


 ザッ


 「チョットは頭働かせろや、このダボがあああああああ!」


 風切り音のあとバンッ!と破裂音とも衝突音ともとれるどでかい音が響き渡った。

 何かが吹っ飛びながら、地面に幾度とぶつかりその動きを止める。

 音の先には体を引くつかせながら虫の息の男が一匹横たえていた。

 それを呆然と見つめる女性が一人。

 

 

 そして、ふん!と鼻息を吐いて、パンチングポーズの黒髪の青年が立っていた。

 その眼にはしっかりと感情の火が灯っていた。




 子どもを虐める馬鹿者には容赦なき鉄槌を!(`・ω・´)

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