すべては、今夜決まる。
いつも通りボーイズラブです。失禁とかあるので苦手な人は戻ってください。いつもよりグロくはないはず!大丈夫!と言う方は頭を空っぽにして見ていただいた方が……いいな。
「きょ・う・は・ア・ル・ト・と・ダ・ン・ス♪………だぁぁぁぁぁ!」
歌いながら階段を下りる少年はあと数段になるとジャンプし着地を決めた。
「うるせぇぇぇ!!」
すかさず下で少年を待っていた者が頭を叩く。
「バルルゥひでぇ!痛ぇ!」
「やかましぃ!お前が悪いんだろうが!つーか俺の名前はバルカだ!バルルゥって呼ぶな!」
「いいじゃん可愛くて」
「男が可愛いとか気色悪いわ!」
「えぇ~でも可愛いじゃん」
「っやめろ!」
殴られた少年の名をカムイ。殴った少年の名はバルカといった。カムイはバルカのお尻から生えている尻尾をするりと撫でる。
バルカはぶるりと身体を震わせるとカムイから慌てて尻尾を取り戻した。
バルカは悪魔だ。ちなみに背中からは羽が生えている。
「洋服は俺の手作りだからな!当然穴を開けてあげてるぜ!」
「お前誰に言ってんの?ついに頭が……」
「酷い!」
この世界には霊界、鬼界、獣界、人界がある。霊界では天使、悪魔等が生まれ怪界では鬼、天狗等が。獣界では犬人や猫人等の獣人、人界で人間が生まれる。人間は魔力を持ちそれを用いて人界以外にいる者を召喚することが出来る。
人間以外のヒトのご飯はその召喚に使われた人間の魔力であり、その変わり人間は非力な為彼らに助けてもらって生活していた。ちなみに貰った魔力で人界にいる時間は決まっており、その時間が過ぎると彼らは自動的に自分の界に戻る。
お互いに気に入れば契約が結べ魔力を常時渡すことが出来、それによって人間以外のヒトは人界に居続けることが出来る。
カムイとバルカは契約しており、バルカはカムイの護衛士としてここにいた。
「お前本当に今日卒業したんだよな……?」
「何その顔!?したよ!しましたよ!俺頑張ったよ!!ストレートで卒業だよ!!」
「解せぬ」
「お前俺の護衛士だよな!?」
人間は誰しもが魔力を持っているがその量はそれぞれ違う。しかもそれぞれの界との相性もある為人間は13才になると必ず魔法学校に入り召喚について学ぶのだ。
学校に入り1年の最後に召喚を行う。それに成功すれば2年になれるのだが、バルカはその際にカムイに召喚された。そこから契約をし今に至る。
「お前が18才とか嘘だろ。しかも今日で卒業。夢だ」
「一番側で見てきたお前が言っちゃうの!?」
そう、カムイは5年間の勉強を終え今日卒業した。これから卒業生のパーティーがありそこで婚約者のアルトとのダンスがある。それをカムイはとても楽しみにしていた。卒業パーティーでダンスを一緒にすることによりアルトがカムイのもので、カムイがアルトのものであることを周りに示すのだ。結婚式のようなものである。
人間は他種族との結婚も可能だが基本は同種族と結婚することが多い。世界樹の実から子供を授かるので性別、種族は関係ない。ただし子の種族はすべて人間になる。人間以外の他種族同士は結婚出来ない。そもそもお互いの界にいることが出来ないからだ。同種族同士なら結婚は出来るが子供が出来ない。人界以外は自然発生だ。世界樹の実が使えない理由は分かっていないが、そもそも世界樹は人界にしかなく、魔力はどの種族も持っているのに召喚を使えるのは人族のみなのでそれが要因の一つではないかと考えられている。
人族はお互いの魔力で子が決まるので魔力が高い者同士が結婚しその魔力を守ろうとする血筋もある。カムイとアルトは騎士の家系であり両親の付き合いもあった為婚約を結んでいた。
アルトも今日卒業し明日から二人は一緒に住むのだ。
「きょ、今日は初夜なわけですが」
「キモい」
「それ今から決戦に行く人に言っちゃダメなやつ!」
「キモい」
「それを聞いたうえでもう一度言う、だと……!?」
「俺は、お前の、護衛、なんだよ。ドアの、外で、聞かなきゃ、なんねぇんだよ、あぁ!?」
「すんませんでした。……なぁ、このパンツどう?」
「見せんなこの馬鹿!!」
そんなやりとりをしながら二人は目的地へと向かった。
ーーーーー
「カムイ。俺はお前との婚約を破棄する。そしてルキアと婚約、いや結婚する」
「……………え」
入り口でアルトを待っていると待ち人は隣に可愛い女の子を連れて現れた。
そしてその一言。
アルト達の後ろにいるのは護衛士だろう。慌てているがそれだけだ。
カムイは頭が真っ白になったが武器を引き抜こうとするバルカを見て制し、零れそうになる涙をこらえながらアルトを見る。
「……アルト?どういうこと?……だって俺達上手くいってたよな……?」
「そう思ってんのお前だけだろ。ルキアのが可愛いし優秀だし俺に相応しい。父上達もルキアのが良いに決まってる」
そう言ってアルトは隣にいるルキアの腰を引き寄せる。ルキアは嬉しそうに微笑みアルトの頬へ口づけた。
その、瞬間だった。
「っ!カムイ!魔力閉じろ!」
カムイの足元が七色に光る。そこから三人の男が現れた。
「俺のカムイを傷つけるなんて許さない!」
「駄犬、貴様のカムイじゃないだろう。しかし我も同じ気持ちだ」
「……殺ス」
獣の耳と尻尾。頭襟と羽。額に角が一本。三人はアルトを睨むと一瞬にして距離を詰めそれぞれの凶器を振り下ろす……。
直前。
「誰が殺せって言った?」
冷たい声が三人の動きを止めた。
「か、かむい……」
「キィちゃん、お座り」
「は、い……」
獣人の男は顔を青くして正座した。
「そうじゃないよね?キルヴァイス」
「はいっ!」
獣人は途端大きな狼になった。そして犬のお座り姿勢になる。
「良い子だね、キィちゃん」
また人型に戻るも姿勢はそのままだ。人が犬のように座る姿は異様だがそこにいる誰も何も言えない。
カムイはそんな周りに気付いているのかいないのか……キルヴァイスに微笑むと喉元を撫でてやる。きゅーんと切ない鳴き声が響いた。
「ロニ」
「かむ……」
「ロカニルト」
「は、い」
「おいで」
「はい……」
ちょいちょい手招きする仕草は可愛いのにその声は冷たい。まるで犬を呼ぶかのようなそれに瞳の色が黒と白とが逆転し耳を尖らせた天狗はカムイの前で跪いてこたえた。
「ロカニルトは悪い子だねぇ」
「……ぐっ」
カムイはその前にしゃがむと頭襟を投げ捨て頭を掴み持ち上げる。天狗は頭を引っ張られた痛みに顔を歪めた。
それに構わずカムイは笑って色が逆転した瞳を舐める。
「俺は君に頼んだっけ?」
「此奴は、カムイをっ!」
「頼んだっけ?」
「……ごめ、なさい」
「ん、ロニは良い子」
天狗も元に戻り頭を撫でられると法悦とした顔でカムイを見上げた。
「オルくん」
「……コイツ、カムイヲ……俺……」
「オルガディス」
一本角の男の体が大きく赤くなる。鬼人となった男はビクリと身体を震わせるとカムイに縋ろうとその手をのばした。しかしカムイはその手を叩き落とす。
「カムイ!オ願イ!捨テナイデ!」
「やだなぁ。オルガディスを捨てるなんてしないよ俺は。だってオルガディスは良い子だもん。でも可笑しいな。俺のオルガディスは良い子だからこんなことしないはずなのに……ここにいるのは俺のオルガディスじゃないのかな?」
「オルダヨ!カムイノオルハ俺ダヨ!」
本当かなぁ?と首を傾げるカムイに鬼人は焦る。縋ろうにも身体に触れさせてはくれないしオロオロとする姿にカムイは笑ってからダンッと足を鳴らした。
そこにいる全員がひっと声をもらすがカムイは笑顔のままだ。鬼人に到ってはその大きな身体を横にし腹を見せ服従のポーズを見せた。
「本当だ。俺のオルガディスだ」
カムイが鬼人のお腹を撫でると男は涙をこぼした。カムイはその涙を舐め取り瞼にキスするとそのまま上へと移動して角の生え際を舐める。
「ふぁぁ」
「オル君ヨダレ汚い。あとでお仕置きな」
鬼人から人型に戻った男は嬉しそうに頷くとカムイの靴を舐める。カムイはその靴を上げて顎を上げさせると後ろに促した。男は頷き移動する。三人仲良く犬のお座りをしている姿はシュールだ。
「……お仕置きって喜ばれたら意味ないんだけどなぁ」
頭をかきカムイはさて……とアルト達に意識を戻して、首を傾げて、バルカを見た。
「何の話しをしてたんだっけ?」
「婚約破棄の話しだよこの馬鹿!」
カムイは大きく目を見開きアルトへ手を伸ばして……止めた。
「……アルト漏らしたの?」
「……っ」
三人の男から命を狙われたのだ。当然と言えば当然だろう。腰が抜けたアルトの股は濡れていた。ついでに隣にいたルキアも。
地面が濡れておりカムイも顔を顰める。
「これから騎士になる人間がそれで漏らすってどうなの?」
「俺はあの三人に狙われてちびらないお前のがすごいと思う」
「えぇ!?でもだって魔物じゃないんだから!」
「あの三人は魔物以上だ」
魔物は言葉通じないじゃんと口を尖らせながらカムイはルキアとアルトを立たせた。濡れた服ではもう中には入れないがフラれた腹いせだ。それくらいいいだろうとカムイは思う。
「まぁ悪いの俺か。……ごめんね、アルト。俺カッとしちゃって魔力放出しちゃったからあの三人来ちゃったんだ」
魔力を放出すると繋がってる相手に感情と魔力が流れ込む。つまり全員とカムイは契約しているということで周りはざわついた。
「全員違う界なのに……?」
呆然と呟くアルトにバルカはため息をつく。
「お前婚約者なのにカムイの何も見てなかったんだな」
「え?」
「そりゃあその女は筆記と実技の合計ではカムイより上だろうよ。コイツ実技満点でも筆記壊滅的だからな」
「やめてバルルゥ!恥ずかしい!」
なら勉強しろ!というバルカにカムイは呻くしかない。
確かに両方の点数が良くないと名前は張り出されない。総合点だからだ。なので今までカムイの名前は張り出されたことはなく、上位にいたアルトは見下していたのだ。
どうしてこんな奴が自分の婚約者なのかとずっと思っていたくらいだった。
幼い頃からの付き合いもあったし両親の手前もある。だから休日はたまにデートをしたが話しは適当に返し聞くこともしなかった。
そのうちよく名前を張り出されるルキアと知り合い付き合うようになり彼女と結婚しようと思ったのだ。
今まで時間を割いてやったのだからと今日カムイを嗤って、踏み台にして、ルキアと、と……なのに……。
「ま、さか……」
「あぁ、コイツ賢者候補だぞ。全部の界と相性が良い魔力なんて貴重に決まってんだろうが」
「嘘だ!」
「えぇ!?俺話してたよアルト!!」
「聞いてなかったんだろ、お前の話しなんて」
「何それ辛い」
これは何だ。
アルトはこれから先の自分を思い震えた。
隣にいた彼女を突き飛ばしカムイへと手をのばす。
「きゃあ!!」
「違うんだ、カムイ!これはこの女が……ひぃっ」
しかしカムイに剣を突き付けられ尻餅をついた。また股が濡れる。
「いくら俺が馬鹿でもそれはないよ、アルト」
「……っ」
剣を鞘に戻し横を見るとバルカの驚愕した顔がカムイを迎えた。
「……お前誰だ」
「バルルゥ!?」
「いや、お前でもちゃんとするときはするんだなと……」
「お前本当俺の護衛士だよな!?つーかお前が剣抜けよ!」
「一応気をつかったんだよ!……元婚約者、だろ」
「くっ……。アルト!両親によろしく!俺も帰って父上達にしっかり説明するから!」
バルカの言葉に呻くとそれだけ言いカムイは馬車の方へと足を向ける。
「……ぁ……ま……」
しかし縋るような声にもう一度振り返った。
「二度も、言わせるの?」
「ひっ」
首を横に振るアルトに頷いて戻る。
隣ではまたルキアが漏らさしていたがそれこそカムイには関係ないだろう。
卒業パーティーは辞退だろうが……。
二人は出れないだろうがカムイは出る気がない。
これからどうしようかとカムイは空を見上げた。憎らしいほど綺麗な星空だ。
「……おい」
「何バルルゥ。俺失恋したばっかなんだから優しくして」
馬車へと足をすすめていると後ろからかかった声にカムイは不機嫌を隠さないまま答えた。
「……バルカだ」
「今はそれいいよ」
「よくねぇ!」
「バルルゥ?」
何か可笑しな方へと向かってないだろうかとカムイは後ろにいるバルカを振り返った。それに違和感を感じて。
いつも護衛士は隣にいる。前も後ろも警戒するためだ。
それを注意しようとしたが次の瞬間掴みかかられていた。
「俺だけ何で真名で呼ばねぇんだよ!」
「え、えぇ!?だってバルルゥの霊界は番に真名捧げるんだろ?俺が呼ぶわけには……」
「捧げてる時点で気付け!俺が好きなのはお前なんだよ!大体人界以外は真名は番にしか教えねぇ!」
すっと力が抜けバルカの腕が離れる。同時にカムイの周りの熱気まで離れた気がして急に冷たくなる。
「……え……つまり……」
「お前は俺等と出会う前から婚約者いたからな……それを承知で俺達も真名を捧げたわけだが……」
「……俺結婚する前から愛人いたんだぁ」
「……で?」
「いや……その……」
「……ここまで言ったんだから呼べよ……」
「ここで呼んだら何かが終わる気がする」
「終わらせろ。言っとくけどな、俺は……ずっと……」
よく見たら離れたバルカの手は震えていた。同時に地面を濡らす水に気付きカムイは無意識に手をのばしていた。
「……ごめん」
「っ……そぅ、か……」
「いや、そうじゃなくて!……あぁもぉぉ!!うあぁぁ!」
「……?」
「ぐっときた。今日は初夜だね」
ーーーバルカ。
「………っっこの馬鹿!」
「その反応も姿もやばいわ。よし、父ちゃん達に挨拶は明日。俺達の家に帰ろう。今すぐ。あれ?俺達の家って俺貰っていいよな。慰謝料、慰謝料。よし行こう」
一人でうんうん頷くカムイにバルカは真っ赤だ。今までの色々を返してもらいたくなり口を開いたがそれは叶わなかった。
「「カムイ!」」
半泣きの三人を見て忘れてた……と呟いたのをバルカは聞かなかったことにした。自分も忘れていたからだ。
そんなカムイに気付くことなく三人はカムイに泣きつく。
「うん、皆まとめて俺の………あれ?」
「何だよ。今更返品出来ねぇぞ!」
「いや、しないよ!……ただ……」
バルカの言葉に苦笑して返すが続く言葉に四人は不安そうにカムイに続く。
「「ただ?」」
「俺は嫁にいくの?嫁にもらうの?」
星空が綺麗だった。
すべては、今夜(初夜)で決まる。
(`・ω・´)