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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ホラー系

屠畜場の吸血鬼

作者: 芍薬甘草

人間と吸血鬼とが、共存する世界で――

  街から馬車で一時間ほどかかる林の中に、小さな小屋が建っていた。


 その小屋の壁には窓がなく、床は木ではなくセメントで固められて作られている。セメントの床には僅かな傾斜がついていて、一番低くなっている隅には排水口となる小さな穴が開いている。


 小屋の中には大きな机と小さな椅子があり、そして椅子には痩せ細った少女が腰掛けていた。

 少女は赤毛で肌が白く、目は赤く光っている。汚れたぼろぼろの服を身に纏い、その上から紫色に汚れたエプロンを身に付けている。


 机の上には鉈や鋸などの刃物や砥石などが綺麗に並べれられ、床には桶やロープ、麻袋などが置かれている。小屋には湯を沸かす為のかまどが設置され、壁から何かをぶら下げるためのフックが無数に生えているが、今は何もぶら下げられてはいない。


 少女はその仄暗い小屋の中で何をするでもなく椅子に腰かけ、虚空をじっと見つめている。

 小屋には獣臭さと鉄臭さが充満しているが、少女は眉ひとつ動かさず、置物のように座っていた。



 その小屋の前に一台の荷馬車が止まり、中から恰幅の良い婦人が姿を見せた。

 婦人が小屋の扉を叩く。それを痩せ細った少女が椅子から立ち上がって出迎えるが、扉を開けはしたものの、小屋の外には出ようとしない。

 少女は婦人より背が少し低く、扉を開いた後はにこりともせずに夫人の顔をやや上目遣いに見つめている。夫人はそんな少女に優しく微笑み、そして口を開いた。


「おはようモココ。今回は二十羽になっちゃったけど、全部お願いして大丈夫かい?」


 少女、モココが小さく頷くとその婦人は笑みを返し、すぐに乗って来た荷馬車へ戻る。


 荷馬車に近づくと、「ココッコッ」という鶏の鳴き声が聞こえてくる。

 荷車の中には鶏の入っていると思われる竹製の籠が、合計で十個積まれていた。籠は隙間のないタイプで中身が見えないが、先程の婦人言葉から、一つの籠に二羽ずつ入っているのだとモココにもすぐにわかった。

 婦人は「よいしょっ」という掛け声で、見た目とは裏腹な軽やかな動きで荷車に飛び乗り、籠を持ち上げては小屋の入り口で待機しているモココに渡す。

 モココはそれを受け取ると、特に重そうな様子を見せる事もなく小屋の中へと運びこんでいく。


 そうして十個の籠全てを降ろし終わった婦人は「それじゃあ午後にまた取りに来るからね」と言い残し、馬車を走らせて去っていった。


 モココは婦人を無言で見送り扉を閉める。


 モココが一つの籠の蓋を開けると、中には卵を産めなくなった老いた雌鶏が二羽入ってた。


 モココはそのうち一羽を取り出して、胸と右腕で抱きしめるように拘束する。

 雌鶏の命の暖かさ、生き物の柔らかさがモココの骨にまで伝わっていく。


 モココは左手で雌鶏の視界を覆い隠すようにして頭を掴み、固定する。


「ごめんね」


 最後に一言呟いて、その首筋を小さく噛んだ。


 遠目に見れば雌鶏にキスしているように見えるが、彼女の犬歯は確かに雌鶏の首に刺さっている。雌鶏はしばらくバタバタと暴れていたが、やがて動きが鈍くなり、最後には僅かに痙攣するのみになった。

 痙攣という僅かな生活反応をみせてはいるが、それは生体電流の刺激によるもので、雌鶏に既に命はない。


 モココは雌鶏を机の上に乗せると鉈を掴み、骨のない場所を狙って一気に頭を切り落とす。

 雌鶏の胴体が一瞬バサリと翼を広げ、そして徐々に閉じていく。


 首を失った雌鶏の足を紐で縛り、壁に取り付けられたフックに首が下になるようにして吊るしておく。

 吸いつくせなかった僅かな血がしたたり落ち、ピチョン、ピチョンと音を立てる。


 モココは籠の中のもう一羽を同じように取り出すと、再び「ごめんね」とつぶやいて、その首筋に噛みついた。



 モココは二十羽にその儀式的な食事を終え、いよいよ仕事である鶏の解体を始める。



 ――彼女の唇は、紅い。


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「賢者フィロフィーと気苦労の絶えない悪魔之書」

ひっそりと連載しています。ジャンルはハイファンタジーです

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