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 特性というものは大きく三つに分類される。

 精神型。肉体型。行動型。この三つだ。明確で分かりやすい境界線はないため、型は一見しただけでは判断を見誤ることもある。

 しかし変わらない事実がある。

 精神型は狂常。精神構造を歪ませ、性格、あるいはその人の在り方まで変えてしまう最も厄介で最も酷いとされる型。

 肉体型は超常。いわゆる天才と呼ばれる人がこれに当たる。理論なしに結論にたどり着いてしまう、理解の及ぶ範囲にいない型。

 行動型は奇常。突飛な行動が目立ち、それを無自覚に行ってしまう人。考えるよりも先に動いてしまう。思考よりも行動が勝る型。


 そしてそれぞれの型にはフェイズと呼ばれる1から5までの段階が存在する。それは進行することはあっても、決して後退することはない。

 はまれば抜けることの出来ない奈落は堕ちることしか許されない。

 フェイズの進行は特性の過度な発現。特性への強い渇望。が主とされている。繰り返し使われればそれだけフェイズは進行し、自ら望めば更に進む。

 

 僕もマシロもリヲンも精神型の特性だ。

 僕はフェイズ4。マシロはフェイズ5。リヲンはフェイズ2。

 しかし意外にもシラ姉、本名シラサギは特性を持っていないそうだ。


 あとチギリは肉体型の特性でフェイズ4。


 血液でフェイズの具合が判明するようため僕もチギリも血を抜かれた。最も僕は既に切れている左腕からの採血で済んだが。検査の方法を聞くと教えてもらえない辺りまともな方法ではないのかもしれない。

 

 特性の説明からシラ姉の本名に至るまで、町に帰るなり叩き込まれるように教えられた。他にも色々聞かされた気がするが、僕は全てをその場で覚えられるほど賢くない。

「はぇえ……」

 成り行きで聞かされることになったチギリは僕以上に頭をパンクさせていた。隣ではうわ言のように何かを呟き、自分の世界に入っているようだったので僕はそっとしておく。

 そういえばもう一つ驚きがあった、森でリヲンの言葉に出た組織。シラサギが作った特性を持つ者を集めた集団に僕も加入させられていた。

 承諾した覚えなく、異議を唱えると。

『抜けたいなら抜ければいいわ、だけどその場合マシロの家には住まわせないわよ。せっかく手に入れた仕事と家を失ってもいいのならいつでも抜けるといいわ』

 その寛容な御言葉に僕は二つ返事で承諾した。

 その割にはチギリに対して事後承諾という手段を使っていなかった事には追求しないでおこう。きっと男女差別ではない、僕はそう思うことにした。

 

 リヲンに聞いた所、今回の仕事にし対して支払われた給金は盗賊の始末分が加算され、当初の額よりも目に見えて増えたそうだ。最も初の給金を貰った僕にはあまり違いが分からないが、リヲンのほころぶ顔を見て察した。

 その額30000ルカ。この仕事に関しての違いはわからないといったが、これまでの仕事と比べると雲泥の差だ。むしろ多すぎる事に不安を覚えるぐらいの額だった。

 お金を手にした時、僕はこの怪しい集団に加担してしまった事を後悔しかけたが、マシロがいるならいいか、と軽い気持ち、いいや十分重い気持ちで納得した。

 これほどまでにマシロを気にする僕は、きっと恋をしているのだろう。高鳴る胸だけを証拠に僕は一目惚れと判断する。

 マシロが人形だとリヲンは言ったが僕にはそうは思えない。初めて会った時と変わらない態度で僕に接するのだから。

 帰ってきた時、リヲンの言葉に惑わされていた僕は満面の笑みを浮かべるマシロの目をまともに見ることが出来なかった。

「どうしたの? 私で良ければ相談にのるよ」

「出来ることなら何でもしてあげるから、悩んでるなら聞くよ」

「私じゃ、ダメなの……ねぇ」

「…………話して、くれるよね」

 マシロはそんな僕を心配してくれた。しかしリヲンは変わらずマシロの事を人形だと言い、気持ち悪いと言い、おぞましい者でも見るような目をマシロに向ける。

  


 そんなこんなで充実というよりも圧迫した日々を僕は過ごした。そして今、町に帰ってから丁度一週間が過ぎた今日。

「アタシは良いと思うぞ」

「そうかぁ」

 僕の服装が変だということで、服を買いにチギリとリヲンの三人で街を歩きまわり、一つの小洒落た外装をした店に入っていた。

 そこで僕は着せ替え人形さながらに、二人の趣味で選ばれた服に次々と着替えている。リヲンが選ぶ服は落ち着いたものが多く、チギリの選ぶ服は派手なものが多い。

「俺はやっぱりこれが良いと思うぞ」

「いいや、これだ」

「わからないやつだな」

 言い争いに夢中になっている二人の合間を縫って僕はぬけ出す。奇異な視線を集める二人の言い争いを後ろに聞きながら店の中を歩きまわる。

「やっぱ前の町とは全然違うな」

 田舎ばかりを転々としていた僕にはあまり向かない店かもしれない。揃えてある服装はどれも僕の好みと合致しないものばかりだ。

「僕の好みがおかしいのかな」

 いよいよ自分を疑いだしたその時、見知らぬ少女に服を渡される。半ば押し付けるように渡された服を状況が理解できないまま手に持つ。

「この服がいいです」

「え?」 

「似合うのでこれにすると良いです」

 言われて姿見で自分に服を上から合わせてみる。今までチギリとリヲンに散々着させられた服よりもしっくりと感じる。藍色を基調とした服は全体的に落ち着いた、それでいて他の色がうまい具合に組み合わされたまさに僕好みの服だった。

「確かに良いかも」

「です」

 口を僅かに和らげ心なしか得意気に薄笑いを浮かべる少女。

 今一度姿見で見てもやはりしっくり感じた。なぜ初対面の少女が的確に相手の好みの服を厳選出来たか不思議に思いながらも、選んでくれたお礼を言うつもりで振り返ると、まるで幻であったかのように少女の姿は消えていた。

「あれ?」

 辺りを見回すが先ほどの少女らしき人影は見かけない。

「また会えたらでいいかな」

 僕は少女に渡された服を購入し、リヲン達の元まで戻る。何勝手に買ってるんだ、と文句を言われながらも服を見せると二人も納得した様子を見せる。

「まぁ、いいと思うぜ」

「アタシも悪くないと思うぞ」

 それでも自分の選んだ服が一番だと揺るがない事は言葉の節々から感じられた。

 

 

 歩き疲れた僕たちは休憩しようと近くの広場に向かう。広場に近づくにつれ騒がしくなり、気になった僕たちは目的地へ急ぐ。

 広場には人垣と喧騒が出来上がっていた。何かを観戦でもしているのか、中央を囲むようにしてかたまる人々。

「俺に挑む勇敢な者はいないのか!」

 人垣の中心から聞こえてくる叫び声。僕たちは人垣を掻き分け声の主が見える位置まで移動する。

「全く、腰抜けどもばかりだな」

 声の主の回りにはすでに何人もの人が山のように積まれていた。その山の横に立つ男は筋骨隆々のたくましい肉体を隠すことなく、上半身を丸出しの格好で仁王立ちしている。

 その巨体からは見下ろすように鋭い眼光が辺りを威圧していた。

「僕が挑もう」

 声を張り上げ男の前に進み出る僕。何をしているんだ。そう思った頃にはもう遅かった。僕の口からは言葉が、僕の体からは足が前に出ていた。

 巨体の男は僕を値踏みするような目で見る。

「戦う前から勝敗のわかりきった戦いは俺は好きではない、残念だが――」

「何を言ってるんだ。僕が弱いだって? 随分な自信家だね。それともその目は節穴なのかな。相手を見た目だけで判断するなんて愚の骨頂。挑んだ僕をがっかりさせないでくれよ」

 僕の内心は青ざめる、程度では済まなかった。それでも僕の口は止まらない。

「僕は必ずお前に勝つ」

 その言葉に巨体の男は目を閉じ何かを思案する様子を見せる。そしてしばらくしてゆっくりと目を開け頭を下げた。

「すまない、お前の言うとおりだ。俺はお前が弱いと決めつけていた」

 巨体の男は顔を上げ、鋭い眼光で僕を見据える。

「勝負はしよう。しかし勝つのは俺だ」

 空気を通して巨体の男の威圧感を肌で感じる。それ恐怖を通り越し、死すら感じさせるものだった。

「では」

 そう言って男は地に横たわる巨大な剣を軽々と持ち上げ距離を取る。僕も構える。リヲンは頭を抱え、チギリは大声で声援を送ってくれていた。

 無理だ。勝てるわけない。圧倒的な体格差、そんな相手から繰り出される攻撃は僕の命すら危うい。そして僕は相手の戦いを一度も見ていない。対処しようにも相手の全てを知らない。

 剣を構える男は幸いと言っていいものか、剣には鞘がつけられたままだった。それでも僕の状況に何ら影響はなかった。鞘の上からでも僕を殺すことは容易い。

「ん、武器は持っていないのか」

「ああ」

「もし使うなら用意させるが」

「なら僕も剣が欲しい」

 少しでも時間を稼ぐためにも僕は剣を要求する。男はそれを承知し、観客に呼びかける。そして剣はすぐに投げてよこされ勝負の準備が整ってしまった。

「鞘から抜くのも自由だ」

「いや、僕だけ抜くわけにはいかない」

 そうか、と巨体の男は短く言い軽く笑う。

「では、このコインが地に落ちた瞬間が始まリの合図だ」

 片手で剣を支え、もう片方の手でコインを中に放る。コインは回転し一度高くまで上がると、地に向かって落下する。

 コインが地面に落ち音が響く。

 ああ、なんでこんな。言うまでもなく僕のせいだ。

 絶望と死の感覚が体にまとわりつく。それは現実として近づく死、男の接近によりどんどんときつく僕の体を締め付ける。

「ウオオォオォオ」

 雄叫びを上げ大地を踏みしめ駆ける巨体の男。

 死。死。死。

 死。死。死。死。死。死。

 死。死。死。死。死。死。死。死。死。

 男が一歩こちらに近づく度、僕の頭は死に埋め尽くされていく。恐怖は感じない、僕はもう恐怖する領域を飛び抜けていた。

 明確な死が近くに感じられる。

 そして僕の何かが剥がれた。



 幾重に塗りつぶすようにして隠された嘘が消え去り、オレの忘れさせた記憶が溢れる。

 ああ、なんて馬鹿な事したんだ。

 嘘で塗り固められた記憶。森で人を殺した記憶。そしてそれより前の記憶も全てが戻る。オレは目の前の男よりも思い出すかのように現れた記憶に意識が向く。

 どうしてダメなんだ。こんな簡単に戻ってしまうなんて。

 失敗を悔やむように自分自身に対する嫌悪を抱く。しかし長い時間はかけられなかった。巨体の男はすぐ目の前に迫っていた。

「ウォオォ」

 剣を振り上げる巨体の男。

「チッ」

 現状を招いた自分に対する苛立ちから舌を鳴らす。黒い感情が溢れだし心を満たす。そして戻ってしまった事を実感する。

 巨体の男の一撃を横にずれ、手にした剣で流す事で回避し、横薙ぎに来る次の攻撃を大きく跳ぶ事で回避し距離を取る。

 男は攻撃を避けられた事に感嘆する。

「はッ面白い」

 そして巨体の男はそう言って、抜けないように縛られた紐を解き、鞘からその刀身を取り出す。

「お前に言われても尚、俺はお前を侮っていた。しかしそれは大きな間違いだった。何度も間違いを繰り返す自分が恥ずかしい」

 天から射す陽光で刀身が光を放ちその鋭さを示す。

「この町で今まで戦った者の中でお前は間違いなく一番だ。二度も攻撃を避けた者はいなかった」

 殺気。巨体の男はオレを殺す気だった。肌を刺す威圧感がそれを教える。オレも剣を抜き鞘を投げ捨て構える。

「いくぞっ」

 言葉とともに巨体からは想像もできない速さで接近すると容赦のない斬撃が繰り出される。オレは受け切れないその斬撃を剣を使うことでいなす。

 一方的な防戦。

 巨体の男は声を上げ果敢に攻める。オレはその間、斬撃の方向、速度といったパターンと男の動き、表情を事細かに頭に叩き込む。

「どうした、攻めてこないのか」

 オレの腕力ではどうあがいでも男を正面から打倒せない。男の意識が体から剣の一点に移る瞬間を見極め、それに合わせて男の足元を狙い体勢を崩し、そしてそのまま男の体を掴み引き寄せ前に移った重心を利用するようにして男を横転させる。

 男が反撃に動くよりも早く首元に剣を添える。

「これで決着はついた」

「ッ」

 男は息を呑んだ。自分が負ける可能性を考えることすらしていなかったのか、男の顔には驚きだけが浮かんでいた。

「……俺の負けだ」

 男が負けを認めると、今まで静かに見守っていた周りの観客から称賛の声が上がる。一人また一人と声を上げ始め、瞬く間に喧騒が広がっていく。

 オレは静かに立ち上がり意識を内に集中する。

 今度こそ、次こそ、オレは……。

 そうして溢れでた記憶の数々を再び嘘で塗りつぶす。黒く黒く黒く、全てを塗りつぶし隠し消す。あったことをなかったことに。知っていることを知らないことに。自分自身に嘘をつく。きっとこれが正しいという自分の考えに基いて。

  

 オレは僕に。

 黒は白に。


 きっと今度こそ……。

 そしてオレは消え去る。



 何なんだこの状況は。

 僕は横たわる巨体の男と湧き上がる観客の声に戸惑う。

 今置かれたこの現状。記憶と全く合わない現状。僕は一人理解できない今の状況にただただ立ち尽くしていた。

 

どうも、考えた流れを突発的なアイデアでおじゃんにしてしまう僕です。バトルが好きなのでなんか連続で入れすぎ、話が進みすぎ感をひしひしを感じます、自分でも。でもそこはまだ初心者ということで大目に見てもらえると嬉しいです。実質今までの話がプロローグみたいな感じで、今からの話を頑張って一章的な長さを目指して物語を考えます。物語の構成も未熟なので少しずつ書いていきながらうまくなっていきたいと思っています。自分の考えている事をうまく相手に伝えることができているのか不安です、最近。読んでいる自分は知っているから言葉が足りなくても情報を補足出来てしまい、結果自分は読んでわかるけど、相手はわからない。そんな状態になっていないかという不安です。しかしまぁ、頑張って練習も兼ねてこれからも書いていきます。なんだこの下手くそ、なんて思う方もいると思いますが、そう思われない文章をかけるようになりたいと思っております。


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