表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/8

本質

 一つ気づいたことがある。

 僕の『嘘』は僕のためにしか働かない。結果僕が苦しむことになろうと、それは変わらない。例え僕が望もうとそれは叶わない。

『嘘』はいつだって僕の味方ではないのだから。

 シラ姉は言った。

「あなたにはゆうきしか無いのね」と。

 そのとおりだ。僕には『嘘』しかない。嘘の勇気。偽りの勇気。

 そのくせ『嘘』が無ければ僕は何も出来ない。仲間の一人も助けることが出来ない。恐怖に竦んで動けない足が情けない。

 僕の『嘘』は見栄を張り体裁ばかりを気にするくせに、本当に必要な時は何もしてくれない。僕が本心から恐怖する今、『嘘』は動かない。

 役立たずめ。

 目の前ではリヲンが倒れ、少女が恐怖に顔を歪めている姿が映る。そんな姿を見ても僕は何もしない。

 僕は悪態をつく。何もしない『嘘』に。肝心なときに動かないどうしようもないクズに。厄災を招く疫病神に。

 どうして嘘でもいいから少女を助けないんだ。

 開いた口からは言葉が出ることはなく、僕は『嘘』を憎む。

 本当にどうしようもないクズだ。

 

 違う。

『嘘』は僕の本心だ。

 ここまで来て自分に嘘をつく僕は心底仕方がない。

 全てを『嘘』に押し付ける僕こそがどうしようもないクズだ。

 見栄を張りたいのは僕だ。格好つけたいのも僕だ。いつだって僕が望んでいたんだ。

 そして今恐怖にすくんでいるのも僕だ。

『嘘』は僕の本心を代弁してくれているに過ぎない。何も出来ない僕の代わりに動いてくれているんだ。だから動くはずがない、僕自身が本心から動くことを望んでいないのだから。

 恐怖に駆られ今すぐにでも逃げ出したい。これが僕の本心だ。

 だからこそ僕は僕が嫌いだ。

 自分にできないことを『嘘』に望む、僕が。そしてそれに応えない『嘘』に失望する、僕が。

『嘘』は僕で、僕は嘘つきだ。

 

 だから僕は僕を騙す。

『嘘』を嘘で騙す。



  * * * * *



 少女と別れた僕達は盗賊たちの後を追う。足音を忍ばせ、気配を出来る限り消し近づく。それでも止まること無く加速していく鼓動。

 僕は胸を抑えながら先を行くリヲンを追う。

「今の様子からしてあいつらも一つ一つ部屋を開けていくようだな」

 次から次へと部屋に入っては出る盗賊を見てリヲンがそう口にする。

 リヲンは描き上げた見取り図を広げる。

「恐らくあいつらは、この順で回るだろう」

 盗賊たちの移動経路を予測し思考するリヲン。

「そうなると……」

 見取り図の貴賓室を数か所回り、その後に辿り着くであろう場所を指差すリヲン。

「ここであいつらを捕縛だ」

 リヲンの指差すは奥まった長廊下。光は届かず、明かりが無ければ闇が一面を占める廊下だ。奇襲を仕掛けるにはもってこいと判断したのだろう。

「僕は何をすればいいの」

 僕はリヲンに指示を仰ぐ。

「そうだな、戦い慣れてないライアは今回は支援に動いてくれ」

 明らかに僕のことを気遣うリヲン。それでもその言葉を聞いて安心している僕は頷いた。

「隙があれば行動してくれればいい、無ければ安心して俺に任せておけ」

「ありがとう」

 そして僕とリヲンは動き出す。盗賊達が来るであろう場所に先回りするために。物色しているとはいえ、かなりの速度で回る盗賊たちを相手にあまり時間はない。

 目的地まで到着すると、リヲンは手順の確認をする。

「まず俺が後ろから襲いかかる、それで仕留められればいいが、恐らく無理だ。一人は確実に残るだろう。だから残り一人は正面から戦うことになるはずだ。立ち振舞からして相当な手練だ」

 だから、と続ける瞬間、僕の顔を見たリヲンは言葉を変えた。

「心配すんな、出来る限り俺一人で終わらせる。どうしてもの時はライアに頼るかもしれないが」

「ああ」

 情けない。僕が嘘で一緒に戦おうと言ってもリヲンは軽くいなし、僕のこと思い一人でやろうとするだろう。

 それがわかってしまうぐらいには僕はリヲンを理解していた。それが本心ではなくても、リヲンはそうするだろうとわかってしまう。

「時間はまだある、少しゆっくりしようぜ」

 僕は微笑を浮かべ、その場に腰掛けようとする寸前。聞き覚えのある声が耳に入る。

「出て行け」

 厨房で会った少女の声だ。その声は盗賊たちが来るはずの方向から聞こえてくる。リヲンは飛び出すように駈け出し、僕もそれに続く。


 声の現場にたどり着き、物陰に隠れて様子を見る。

「ここはアタシの物だ」

「何言ってんだ嬢ちゃん」

 少女の言葉を本気と受け取らない長髪の鋭い目つきの男は呆れた様子だ。

「迷子かな?」

 もう一人の巨躯で肉付きのいい男が少女に近づこうとする。

「近づくなッ」

 少女は手に持った食器を太めの男に投げつける。しかし投げられた銀食器のナイフはそれてもう一人の長髪の男の足元に落ちた。

「これは……」

 長髪の男は足元に落ちたナイフを拾い上げ目を見開く。

「お宝というほどではないが、十分に高価な代物を持ってるじゃねぇか」

 口元を歪め、不気味な笑みを浮かべる長髪の男は鋭い目つきと相まって一段と恐ろしく映る。

「全部置いていってもらおうか」

 長髪の男はゆっくりと少女の元へ歩み寄る。少女は後ろに後退しながら手に持った食器を次々に投げるけるが長髪の男には当たらない。

 少女の手から食器がなくなり、それを好機と見た男は肉薄する。腰につけられたナイフを手に持ち、少女に接近する男を目にして、様子見していたリヲンが物陰から飛び出した。

 リヲンは音もなく疾駆し、いまだ気づかない太めの男を後ろから蹴りつける。太めの男は小さく何か言葉を吐き出し倒れこむ。その音に気づいた男は振り向き、リヲンの存在に気づく。

「他にも人がいるとはな」 

 リヲンの方を向き意識が少女から逸れた事で、少女は後ろに隠していた最後のナイフで長髪の男の腹を突き刺す。

 長髪の男は条件反射で少女を殴り飛ばす。そして浅く刺さるナイフを引き抜いた。

「テメェ」

 言葉と同時に殺意をむき出しにしながら長髪の男は少女を斬りつけるべく手にしたナイフを振りかぶる。

そのナイフは僅かな光しか届かないこの暗がりの中で怪しい光沢を放っていた。

 しかしリヲンは迷うこと無く少女と男の間に庇うようにして入り込んだ。

「ぐぁ」

 背中を斬りつけられたリヲンは痛みのあまりか声が漏れる。そして力なく地面に倒れこむ。

「かっこいいことするじゃねぇか」

 ナイフを持った男はふざけたようにからかいの言葉を飛ばす。

「だけどなッ」

 ナイフを持った男は勢い良く倒れこんだリヲンの体を踏みつける。

「ガァ」

 男は何度も何度もリヲンを蹴りつける。その度に廊下にはリヲンの苦しむ声が響く。

「お前気づいてただろ」

 長髪の男は見せつけるように手にしたナイフを動かす。リヲンの血が付着したナイフは一層怪しげな光沢を放つ。

「このナイフの毒によ。それなのに馬鹿な事をしたもんだ」

 地に伏せ荒い息を繰り返すリヲン。すぐ横に立ち尽くす少女の顔からは表情が消え去っていた。

「そうだな、あれでも一応仲間だ」

 親指を使いリヲンに倒された太めの男を指差す。少しも怒りも悲しみも感じさせない表情で淡々と長髪の男は語る。

「仇を取る、なんてかっこいいこと、俺もしてみようか、なぁッ」

 不敵な笑みを浮かべる男はナイフを倒れこんだリヲンの足に突き刺す。毒のせいで満足に動けないのか、リヲンは苦しむ声だけが口から漏れる。

「これでアイツも報われるだろう」

 長髪の男はナイフで傷口を抉るようにして引き抜く。

 助けなきゃ。

 しかし僕の体は動かない。

「あまりいたぶるのは趣味じゃないんだ」

 明らかな嘘を口にする長髪の男。そのまま長髪の男はリヲンにとどめを刺そうとする。その様子に目を瞠る僕。

「ッ」

 立ち尽くしていた少女の目に生気が戻り、僕よりも勇敢に、果敢に男に噛みつく。噛まれた手を振りほどくようにして男は手に持ったナイフを遠くへ投げ飛ばしてしまう。

「クソがぁ」

 噛まれた手を抑え長髪の男から怒号が飛ぶ。

 僕の思考が蠢く。一瞬の間に脳の中が気持ち悪いほどにおびただしい言葉で埋め尽くされる。

「やめろッ」

 途端僕は叫んでいた。

 声に気づいて男は手を止め、僕の方に振り向く。

「まだいるのかよ」

 長髪の男は苛立ちを孕んだ声音で口にする。

 その声で恐怖が心の奥底から湧き上がる。僕はそれに怖くないと偽る。

 途端、恐怖は消え去る。

 僕は先ほど少女が投げ辺り一面に散乱するナイフを一本拾い上げる。

「おいおい、とんだ素人じゃねぇか」

 ナイフを手に駆け出す僕の動きを見て長髪の男が口にする。肉薄し斬りつけようとする僕は虚しく男の拳によって返り討ちに合う。

「ハァ」

 長髪の男は苛立ちを隠そうともせず一息つく。そして倒れこんだ僕に殴りかかる。

「グァ」

 為す術なく殴られ続ける僕は胃液を吐き倒れこむ。苦痛に顔を歪め、殴られた箇所が熱く、痛みを訴える。

 痛くない。僕は偽る。すると感覚を支配していた痛みは呆気無く消え去る。

 急に声を漏らさなくなった僕を見て、長髪の男は不思議そうにする。

「気絶でもしたのかよ」

 長髪の男は僕の腹に蹴りを入れる。僕はその蹴りを受け止める。その蹴りで感じているであろう痛みは僕にはない。

 男が言葉を口にする前に斬りつける。男は言葉を切り、咄嗟にそれを回避する。

「死ねよッ」

 長髪の男はそれだけ口にすると、散乱するナイフを拾い上げ疾駆する。

 気持ち負けする。僕はそう感じた。恐怖も痛みも消えたが、僕の性根は変わらない。だから僕は更に嘘を重ねる。自分の存在に嘘をかける。

「『オレ』は負けるわけにはいかない」

 勇気がなければ作ればいい。偽りの勇気も行動を起こせば本物となる。勇気は結果に付随すればいい。

 ナイフで斬りかかる男。『オレ』はそれを避けない。満足に避けられる技能がない。出来ないことをして勝てるほど『オレ』は強くはない。

 だから、勝機はこれしかない。

 男の斬りかかるナイフが『オレ』の左腕の肉を抉る。痛みが無いため斬られる感触がまざまざと感じられる。そんな『オレ』の避けないという行動に意表を突かれた男は、斬られたまま斬りかかる『オレ』の一撃を避けることは出来なかった。

『オレ』は男の心臓が位置する辺りにナイフを突き刺した。深々と命を奪う一撃。

 男は信じられない者でも見るような目をして、そのまま絶命する。弱い『オレ』が確実に勝つ方法。それは一撃で相手を葬ることだ。

 一撃で仕留め損なえば、満足に戦えない『オレ』の勝機は薄くなる。

「ハァハァ」

 それでも、理解の上の行動だとしても、僕の息は上がる。鼓動が早まり、自身にかけた嘘も霧散する。この手には人の肉をえぐり、心臓を突き刺した時の感触が残る。

 地に膝を付け、手にはっきりと見て取れる血痕を見る。そこには誤魔化しきれない殺しという禁忌の証拠が残されていた。

 嘘が解かれ、恐怖も痛みも戻っていたが、僕には人を殺してしまったという禁忌にそれら全ては蚊帳の外であった。





 全身に感じる痛みに僕は目を覚ます。

「いッ」

 あまりの痛みにベッドの上だという事を把握するだけで精一杯だった。

「起きたか」

 声の聞こえる方向に辛うじて顔を向けるとリヲンがいた。そのとなりには少女が立っていた。僕が必死に起き上がろうとするとリヲンが慌ててそれを抑える。

「一応処置はしたが安静にしてろ、左腕なんて肉がぱっくり切れてるしな」

 リヲンに言われて僕は一段と痛む左腕を抑える。苦痛に顔を歪める姿を少女は暗い表情で見ていた。

「しっかし、すごかったな」

 表情を和らげ明るく振る舞うリヲン。

「俺が負けた相手を倒すなんてな」

 リヲンの言葉を聞いて僕はフラッシュバックする。この手で人を殺したという事実が脳裏を駆け巡る。

 僕の表情を見て、リヲンが柔らかい笑みを浮かべる。

「気にすんな、仕事上人を殺してしまう事はたまにある」

「ああ」

 空虚で中身の無い返事を僕は返す。

 リヲンに何を言われても僕の脳裏に焼き付いた光景と、この手に残る感触は消えない。

「もう一眠りしていいか」

「ゆっくりしろ」

 そう言ってリヲンは部屋から出て行く。少女もちらりとこちらを見た後、リヲンの後に続いて部屋を後にする。

 一人になった僕は痛みよりも、感情を持て余していた。痛みは感じる。しかしそれよりも禁忌が僕に襲いかかる。

 僕は逃げ出すようにベッドで丸くなり、無理やり眠りについた。

  


 


 


 

 

 

急展開な感じになった気がしてなりません。とりあえず5000文字付近で書いてるのですが、だからかと言いますか、結構あっさりと進んでいってしまいますね。長編書く時はページ数を意識して話を膨らませ無ければという課題ができました。本当はもっと後に持ってくるつもりだった場面を、盛り上がって出したいと思ったのでだいぶ前に持ってきた感じですかね。まぁ自由が許されるサイトなので別に構わないでしょう。だよね? と確認したいぐらいですが。やっぱり地の文が難しいです。過去も現在も未来も進行形で悩んでいます。どうしたらうまく書けるのか。まぁしかし、今回は投稿した後にサクサク進んでもう書き終わった次第です。自分的にはかなり早いです。問題も多々ありますが、これからも頑張っていきます。誰も見てくれないであろう現在午前2時半に投稿です。自己満足の日記のような気軽さで書くのが今の自分に一番向いている気がしました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ