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対極

今回は割りと早く書き終わることができました。僕は一度筆が乗ると思いの外進むので、いつもこの調子で書けたらどんなにいいかと思いました。

 もう20を超えた。僕の年齢の話だ。引っ越した町の数では決して無い。

 いい加減大人になろうと、僕自身も努力はしているつもりだ。しかしながら努力は必ずしも身になるわけではない。努力では埋められない、どうしようもない部分はあるのだ。

 僕にとって埋められない部分は嘘だった。

 どうしても言いたくなるのだ。虚言だとしても僕は言いたい。嘘をつく時、僕は僕を制御出来ない。事前にいくら対策をしようと、僕自身がそれを台無しにしてしまう。

 やがて起こるであろう事は想像に難くない。ため息を付きながら僕はやがて来る未来まで食いつなぐために仕事を探すことにした。

 今度の町はノルトアという大きな都市だった。僕にしては思い切ったことをしたもんだ。今まで越してきた町はどれも小さな町だ。これほどの大きな都会に越したのは初めてだった。

 町には白を基調とした家が多く、形や大きさは不規則なモノが見られた。迷路のような構造は計画性が無く次々と建造していった弊害だろう。複雑に入り乱れたその構造に迷う者が後を絶たないというその噂はどうやら本当のようだった。今の僕がそれを証明していた。

「どこに行けばいいんだ……」

 思わず零す弱音は誰の耳にも入ることなく消えていく。立ち尽くす僕の横を次々と人が過ぎ去っていく。その足は迷いなく進んでいるように見えて、今の僕には羨ましい限りだった。

「あの、すいません!」

 僕は誰に言うでもなく辺りに聞こえる声量で声を上げる。しかし止まってくれる人はおらず、諦めていたその時、後から肩を叩かれた。

 振り返るとそこには風になびく長く艶のあるブロンドの髪の少女が笑みを浮かべて僕を見ていた。その透き通るような肌と優しげな瞳の少女に僕は思わず見惚れてしまった。

「困ってるみたいだね、どうしたの?」

 少女の言葉に僕は我に返る。

「見ない服装だけど、新しく越してきた人かな? だったら迷子になっちゃったとかかな?」

 異国の服装を身につける僕を見て彼女は僕の事情をおおよそ把握したようだった。 

「迷子だって? そんなわけないじゃないか」

 僕は彼女の言葉を否定してしまう。迷子という不名誉を隠すために僕の病気は働いてしまった。

「嘘だね。私は君みたいな人をごまんと見てきた」

「ぅ……」

 あっさりと見破られた僕は恥ずかしくて今すぐ逃げ出したい衝動に駆られたが、どうにかそれを抑えこむ。せっかく助かるチャンスを逃す訳にはいかない。

「ああ、僕は迷子だ」

「ほらね」

 少女は嬉しそうに笑みを浮かべて言う。その笑顔は太陽の眩しさにも負けないぐらい僕には眩しく見えた。

「私は生まれた頃からこの町に住んでるからどこにだって連れて行ってあげるよ」

 それでどこに行きたいの? と、少女はどうやら道を教えるだけではなく、同行してくれるようだった。道を教えてくれるだけだと思っていた僕には嬉しい誤算だった。

「実は通りの名前もまだよく知らなくて……」

 何せこれから住むはずの借家の元にまで辿り着けていない。この街は通りの名前が全て同じアルト通りで一貫しており、通り名の後ろに付く数字で区別していた。故にアルト通りの白い家と言えばこの町の殆どが当てはまる。唯一の特徴は大家が若い娘さんということだけだった。家を借りる際に仲介してくれたおじさんがデレデレとした様子で鼻の下を伸ばしていた事は今も忘れない。

 アルト通りの白い家、それが聞かされていた場所だ。それではたどり着けるはずがない。看板娘の似顔絵が一つでもあれば見つける事ができたかもしれないが。

「綺麗な女性が大家をしている借家らしいんだ」

「そうだねぇ……」

 少女は少し考えこむと、思いついたように声を上げた。

「もしかしたらシラ姉のところかもしれない!」

「シラ姉?」

 知らない名前に僕は思わず聞き返す。

「私が知ってる限りでこの街一番に綺麗な人だよ。私よりもうんと綺麗なんだから」 

 少女はシラ姉と呼ぶ女性を自らよりも綺麗だと言う。それはもはや美の化身か何かだろうか、と僕には想像がつかなかった。

「さぁ行こうか」

 突然手を引かれる形で僕は走り出す。少女の不意の行動に僕は顔が熱くなるのを感じ、返事もうまく返せず少女に引かれ町を駆けていく。


 僕の手を引いていた少女が前触れなく立ち止まる。こちらに振り返ると何かを思い出したかのように口を開いた。

「そうだ! まだ私の名前教えてなかったね」

 そういえばそうだ。手まで繋いだというのに彼女の名前をまだ聞いていない。

「私はマシロ、よろしく」

「僕はライア」

 マシロは思い出したかのように繋いだ手を離す。僕はマシロの手の温もりが離れていくことが名残惜しかった。

「ずっと繋いでてごめんね」

「繋い……いや、なんでもない」

 繋いだままでも良かった、なんて言えるはずがない。僕は出かけていた言葉を飲み込み、執り成すように薄笑いを浮かべる。

 心が浮き足立っていた僕は忘れていた。僕の悪い癖がおとなしくしているはずがないと。人通りの多い雑多の通りで一人の女声の言葉に反応し僕の悪い虫が騒ぎ出す。

「どこに行ったの……」

 あちこち見渡すように周囲を落ち着きのない様子で見回している。僕はマシロをその場に置いて女性の元に駆け寄る。

「どうしたんだいご婦人。僕で良ければ助けになるよ」

 助ける気なんて更々無かった。僕はどうしようもないやつだ。見栄を張る、格好つける、こんな経験は一度や二度じゃない。

 僕には今から先の未来が見えてしまった。

「えっと……」

 突然声をかけられた女性は困惑した様子で僕を見返す。見られた僕も内心困惑。嘘をつくときの僕は水を得た魚のごとく生き生きとしているが、その実心の中では止められない自分自身に対して葛藤する気持ちが渦巻く。

「困ってるんですよね? 何かをなくされたのですか? どんなことでも僕が解決してあげます」

 僕は胸を叩き、任せろと言わんばかりに主張する。それに女性はなら、と口をゆっくりと開く。

「実は子どもとはぐれてしまい……さっきからずっと探しているのですが見つからなくて……」

 焦る様子が見て取れる女性はこうしている今もそわそわと辺りを見渡している。次々と行き来する人混みの中に子供がいないのかと探しているようで今も落ち着かない様子だった。

「任せて下さい。僕が必ずお子さんを見つけます!」

「私も一緒に探すよ」

 置いて行かれたマシロは話を聞いていたのか、僕の横に来ると迷いなく言葉を口にした。優しいんだね、と僕の耳元で囁くマシロに僕は後ろめたい気持ちでいっぱいなった。

「ありがとうございます」

 女性は深々と頭を下げ、何度もお礼を口にする。合流場所を決めると、女性と別れて僕とマシロも子供を探すために歩を進める。

「早く探してあげよう。子供の方もきっと一人で心細いはずだよ」

「……そうだね」

 僕は引きつる笑みを僕は必死で隠し通す。

 こんな大きな町の中から子供を見つけ出すなんて、砂漠で一粒の砂を探すようなものとしか思えなかった。

「まずはあっちから探そうか」

 マシロが指差す先は20番通りだ。先ほどの女性に子供とはぐれた場所だと教えてもらった通りだった。僕の知る限りこの街の通りの数は三桁に届いていたはずだ。それを思うと僕の気は一層重くなるばかりだ。 

「いないねぇ」

 通りと通りを繋ぐ小道まで隈無く探すがそう簡単には見つからない。それから僕とマシロは21番通り、22番通り、と探して行った。 

 オレンジ色の光が町を染め上げ、昼間とは違った街の顔を見せ始める頃、僕はいよいよもって諦める方向に気持ちが完全に傾く。

「もう見つからないんじゃないかな……」

「そんなことない!」

 僕の弱音にマシロはすぐさま反論する。しかしその顔からも昼間見た自信は伺えなかった。

「こうしてる今もひとりぼっちでいるかもしれないんだ」

 だから、と言葉を続けるマシロは自分の頬を叩き、気持ちを切り替える。

「頑張ろう。絶対に見つかるよ」

 マシロの言葉も虚勢の嘘だ。しかし僕の嘘とは根本的に違うように思えた。僕と違い何より気持ちが折れていない。

 そんなマシロの言葉に感化されるように僕も返事を返す。マシロは僕の返事に満足した様子で再び歩き出した。

 それからしばらくして、子供を連れた母親が僕達の元に訪れた。どうやら無事に子供を見つけた母親がその事を知らせるために僕達を探していたようだ。

「見つかったんだ、良かったぁ」

 まるで自分のことのようにマシロは安心し、胸を撫で下ろしていた。

「おかげさまで無事に見つけられました」

 ほら、あんたも頭下げなさい、と子供の頭を押さえつける母親。目に涙の跡が見える子供はありがとう、と僕達に言った。

 ありがとう。そう言われる事を僕は成していない。結局見つけることができなかったのだから。そんなことを思う僕を他所に、マシロはしゃがみ込み子供に目線を合わせる。

「もうはぐれないようにね」

 そう言ってマシロは子供の頭を優しく撫でる。

 最後に深々と頭を下げて去っていく親子にマシロは手を振り振り続けている。僕はただ見ているだけだった。

「結局見つけられなかったね」

 親子が見えなくなるとマシロはそう呟く。

「僕は結局嘘をついてしまった。必ず見つけるって言ったのに……」

「う~ん、そうかな?」

 僕の言葉にマシロは少し考え混んでから僕の目を見て言う。

「嘘ではないと思うよ。だって、例え見つけることができなかったとしても最後まで諦めなかったんだ。だから……私はきっと嘘ではないと思う」

「……僕は途中で何度も諦めていた」

 そう、僕は諦めていた。ただマシロの後についていっただけだ。だからマシロと違い、僕の言葉は嘘になってしまう。

「実を言うとね、私ももしかしたら見つけられないんじゃないかって何度も思ったんだ。だけど……私が探すのを諦めたらずっと見つからないかもしれない。そう思えたから最後まで探し続けられたと思うんだ」

 少し恥ずかしげに語るマシロの顔を僕は直視することができなかった。僕にはマシロが眩しすぎた。街灯が徐々に点灯する中、僕は暗がりに隠れるように顔を伏せた。


 その後、マシロの提案によりマシロの家に泊まる事になった。マシロの家の前まで来ると見覚えのある顔に出会う。

「もう探しましたよ……」

 僕に借家を貸してくれたおじさんだった。相変わらず鼻の下が伸びっぱなしのおじさんの視線は僕ではなくマシロに向けられていた。

「おお、マシロさんもご一緒でしたか」

「お久しぶりです、ノトさん。」

 デレデレした様子のノトと呼ばれたおじさんにも嫌な顔ひとつ見せずに挨拶を返すマシロ。

「実は……通りの番号を伝えるのを忘れていましてね、それを伝えるために探していたのですが、マシロさんと一緒で丁度良かったです」

 何だろう。僕は続くおじさんの言葉に耳を傾ける。

「ライアさんが住む家は8番通り、つまりここ、マシロさんが所有する家になります」

「え?」

 突然のことに僕は耳を疑う。僕はマシロの家に住むことになるのか。今日泊まるという事でさえ恥ずかしさで堪らなくなったというのに。

「へぇ、ライアが部屋を借りる人だったんだ」

 部屋を借りる。僕は確かにそう聞いていた。しかし女の子の家の一室を借りるとは聞いていない。

「羨ましいぞ、このこの」

 おじさんが僕を肘で突く事さえ気にならず、僕の頭は真っ白になった。マシロは今日一番の笑顔で僕を見て言う。

「これからよろしくね、ライア」



 

何かと忙しく、と書いてる時点で終わってる気がしますが……今後も1~3日に一章のペースで投稿できたらいいなぁと思っております。僕はあまり執筆が早い方ではないと思うので、学校やバイトをしながら執筆をしているとそれ以外のことが悲しいことに殆どできません。でも書くことは楽しいので、勉強のつもりで今後も頑張っていきます。

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