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エイプリルフールの、オオカミ少年

作者: 寸寸

 「おおかみがきたぞ!わるいおおかみだ!」



 あるところに、少年がいました。髪のいろも、目のいろも、肌のいろも、生まれた家も、授かった名前も、別に普通でした。どこにでもいるような少年でした。どこにでもあるような、小さな町に住んでいました。

 

 ある日、少年はほかの町から来た、灰色の目をした少女を好きになりました。少女の家はお金持ちでした。とてもかわいい少女でした。少年は、運よく少女と学校の席が隣同士でした。少年は少女とお話しがしたくてたくさん話しかけましたが、少女はいつも「そう。」とそっけない返事ばかりでした。


 それでもめげずに続けていたある日。少年が、同じ教室の男の子とおしゃべりしているときのことです。ある男の子が、「俺は隣のおじさんの大事なリンゴを盗ったことがある。」と自慢してきました。その子が言う隣のおじさんとは、とても怖いおじさんのことです。この町で、おじさんのゲンコを食らったことのない子は居ないほど、すぐ怒るしどなるし、怖いおじさんです。そんなおじさんの大事なリンゴを盗むなんて。なんて、肝の据わった子でしょう。その男の子は、この町いちばんのガキ大将でした。


 ぼくにはそんなこと、とてもできないや。少年がそう思ったときです。少女が目を輝かせて言いました。

「すごい、あなたはとても勇気があるのね!私、勇気がある人が大好きよ!」


 男の子はかわいい少女にそういわれて、最初はびっくりしました。次に、両のほっぺたが真っ赤になりました。でも、「そうだろう、そうだろう。俺はとても勇気があるんだ!」と胸を張りました。


 少年は慌てます。ぼくだって、あの子とおしゃべりがしたい、褒められたい!

少年の口から、するすると言葉が流れ出しました。

「ぼくだって、あの肉屋のおばさんに悪口を言ったことがあるんだ。」


 肉屋のおばさんとは、ふとったブタみたいなおばさんです。いつも、肉を切り分けるための大きな包丁を持っていて、子供たちが店先においてあるおいしそうな匂いをぷんぷんさせているソーセージをちょこっとかじろうとすると、ヒステリックな声でこう叫びます。

「このこそどろめが!お前たちもソーセージにしてやろうか!」

そして、本当に包丁を上に持ち上げるのです。子供たちは、怖くて怖くて、すぐに逃げます。おばさんは子供の姿が見えなくなるまで、わめき続けるのです。


 そんなおばさんに悪口を言うなんて。ソーセージにされていても、おかしくありません。少女の目が、また一段と輝きました。

「すごいすごい、あなたもとても勇気があるのね!私、勇気がある人が一番好きよ!」


 少年はとてもいい気持ちになりました。たとえ、嘘を言ったとしても。


 男の子は言いました。「そんなこと、嘘に決まっている。」

少年は言いました。「嘘だと思うんなら、おばさんに直接聞いてみたらいいじゃないか。でもおまえ、あのおばさんにそんなこと聞けるのかい?」

男の子は黙ってしまいました。あの、子供嫌いのおばさんのことです。きっと少年の言葉が本当がどうか知る前に、包丁で追い払われてしまうでしょう。


 少年の初めての嘘は、誰にも確かめられないまま、本当になってしまいました。


 初めての嘘がうまくいった少年は、もっと少女の気をひこう、もっと少女に褒められようとして、もっとたくさんの嘘をつきました。

「ぼくは、荷馬車の荷台に飛び乗って、三つさきの町まで行ったことがあるんだ。」

「ぼくは、お父さんの大事な金の懐中時計を、勝手に持ち出したことがあるんだ。」

「ぼくは、わるいわるいオオカミと戦ったことがあるんだ!」


 嘘がばれそうになったら、その嘘を隠すようにまた嘘をつきます。時には、森に入っていって服をびりびりに破き、血抜きをしたあとに出た鶏の血を全身に塗って、町に逃げ帰り「オオカミがきた!」といったこともありました。町の人々は驚き、オオカミを全力で探し回りましたが、見つかりませんでした。当たり前です、だってオオカミなんて居ないんですから。


 少年が嘘を言うたびに、少女は目を輝かせて言います。

「すごい、すごいわ!あなたは本当の本当に勇気があるのね!私、勇気がある人がだーいすきよ!」


 大人はすぐに、少年の嘘に気が付きました。こんなものは、すべて子どもの考えたでたらめだと。

それを指摘されるたびに、少年は少女にばれるのが怖くて、ムキになって叫びます。

「嘘じゃないもん!だって・・・・・・」


 いつからか、人々は少年を、「嘘つきのオオカミ少年」と呼ぶようになりました。

だれも、少年を信じてくれる人はいません。少年の両親も、「この嘘つき息子め。」と、愛想を尽かしてしまいました。

少女も、次第に少年の話に飽きて、ある日「嘘つきは嫌いよ。」と言って去ってしまいました。


 たったひとりぼっちになって。少年は初めて気が付きました。

 

 本当が、言えない。本当のことを言おうと思っても、嘘の言葉しか出てこない。


 少年は、嘘つき病にかかってしまったのです。本当のことを言うことが出来ない、口から出る言葉は、全て反対の嘘の言葉になってしまうのです。


 少年以外、だれも、少年が嘘つき病だとはわかりません。知りません。少年が、好きで嘘をついているように思ってしまうのです。何度も謝ろうと思っても・・・人を傷つけるばかりで、できませんでした。



 それから、何日かたって。


 何か月かたって。

 

 太陽が昇って、月が昇って、繰り返して、繰り返して。何年かたった、ある日。


 少年は朝、目を覚ますと、まず枕元の時計を確認しました。いつもより、一時間も早く目が覚めてしまいました。そして、壁のカレンダーを確認しました。今日の日付には、誰にも気づかれないほどの小ささで、赤い丸がしてありました。


 少年は急いでベッドから出て、顔を洗って服を着て、ベッドを整えて、それからいつものように少しすましてキッチンへと下りて行きました。キッチンでは、母親が朝食の準備をしています。庭から、鳥が鳴く声が聞こえます。この頃は、朝の冷えもなくなってきました。もう、春なのです。

「あら、今日はいつもと違って早起きなのね。」

少年に気づいた母親が、驚いて言いました。少年は、「まあね。」と答えてから、

「おはよう、おかあさん。今日もざあざあぶりで、全く嫌な気分だね!」

「まあ、」と、母親は顔をしかめました。しかし、すぐにやりと笑って、

「残念でした。そんな嘘、今日は意味ないですからね。」


 少年は、ほっ、としました。それから、小さく「ちぇっ」とつぶやいてみせると、庭にでていきました。


 今日は、春の一番最初の日。


 皆が、嘘をついてもいい日。


 皆が笑って嘘をつくから、自分の嘘が、無くなる日。


 少年は空を見上げ、つぶやきました。



 「ほんっとうに、最悪な天気!!」





 

エイプリルフール遅刻です。ちなみに私は、今年は嘘ついてません。嘘って難しい、うまくつけない。人を傷つけない嘘て、なんだろう。


「嘘つき病」は、本当の病じゃないです。イメージ、「素直になれないをこじらせたバージョン」。ツンデレ-(ひく)デレみたいな。・・・なにそれめんどくさ・・・←

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