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五章 第六話

「さあ、いくわよ!」


 ゆったりとしたくつろぐような格好で、勝負しに行くかのような風情をまといイセリが告げると、ニタがにこにこしながら、旗手のように二人を先導する。


 さほど広くない部屋に通され、これまたさほど大きくない楕円の形をしたテーブルの下座と思われる場所に着席する。最初キリクはイセリの後ろに控えようとしたものの、ニタに促されてイセリの右手に着席する。するとさほど間をおかず、アリハルを伴ったムロギアが入ってくる。


「少し遅れてしまったかな」


 ムロギアが上座に着席し、アリハルはその右手に着席しようとして、何か思いついたように椅子を動かしてイセリの方へ寄せると、納得したようにうなずきながら着席する。そしてイセリがアリハルから離れるようにキリクの方へ椅子をずらすのを確認し、肩を落とし、悲しそうな顔をしながらながら、なぜかまたうなずいている。


「上座に近づこうとする者が多いというのに、この食卓は少し寂しいものだな」


 下座に集まっているイセリ、キリク、アリハルの三人を見てため息をつく。


 キリクが気を利かせたのか、椅子を少しムロギアに近づけようとしたが、ムロギアに「むなしくなる」と手で制止される。


「食事の準備を」


 ムロギアが伝えると、テーブルの上に前菜と思われるサラダや山羊のチーズを添えたパンなどが並び、ムロギアが小さく祈りの言葉を唱えると、イセリとキリクも教会式の祈りを捧げ、食事を始める。


「この山羊のチーズ、最初は癖があるような気がしたのだけど、慣れてくると逆にこれがおいしく感じてくるわね」


 イセリはよほど気に入ったのか、最初に出されたパンだけではなく、さらに取り分けた堅く焼いたパンにチーズを乗せ、少しの塩とハーブをかけておいしそうに口を動かし、そこにさらに山羊のミルクを飲んでのどに流し込んでいる。


 アリハルがその様子をにこにことうれしそうに眺めながら、イセリのためにせっせと食べ物を切り分けている。


 キリクの見立てだと、イセリは明らかにダマスクにいたときより食欲が増えている。それが食事のおいしさからくるものなのか、捕虜という生活のストレスからくるものなのか、はたまた両方なのかはキリクにはわからなかった。


 捕虜となった当初、イセリはキリクたちの食事を丹念に調べてから、食べるようにしていた。キリクは食べてもいないし、銀の食器なども用いずに何を調べているのかと思っていたのだが、イセリの「悪意のある物には、その悪意が痕跡として残るのよ」という言葉で納得し、その後は安心して食事が出きることを内心喜んでいた。


「そうだ、言い忘れていたが、ハリティアは欠席するそうだ。何があったか、キリク君は……」


 ムロギアはそこまで言って少し思案するような顔になる。


「面倒なことは省くか。我が娘のどこが意に添わなかったのかね」


 ムロギアがそう告げた瞬間、温かいスープをスプーンで啜っている最中だったキリクは、盛大に吹き出してしまう。


「キリク、汚いわ」


 イセリの顔にかかったスープを「ごほっ、ごほっ、も、申し訳ありません」と、むせながらふき取る。アリハルが少し面白がるような顔をしながらキリクを見ている。


 キリクは少し考えるように間をおき、居住まいを正してしゃべり始める。


「……私は何も持っておりません。それに、我が主がこのような状況では、たとえ相手が誰であろうとそのような申し出を受けることはできません」


「ふむ。しかし娘はキリク君に財産を求めるようなことはしなかったと思うがね? それに、自分で言うのもなんだが、我が娘との婚約ともなればそれなりの待遇とともに、かなりの影響力を持つことになる。そうすれば、主たるイセリ姫のために出来ることも増えたのではないかね?」


 キリクはこの問いに、部屋に戻ってきたときと同じく

、思考が停止しそうになるのを感じる。だが、行き着く答えはすでにわかっていた。


「今、イセリ様のお側を離れるような申し出は、お受けすることは出来ません」


「私にはキリク君とイセリ姫を隔離することも可能なのだよ」


 ムロギアが少し凄むように言う。


「されるのですか?」


 緊張してかキリクの手のひらが汗ばむ。


「いや、しない。だが相手の手により良い手が入っている場合、自分の手にジョーカーとなり得る札を持つのは悪い選択肢ではあるまい」


 キリクがハリティアというジョーカーをむざむざと手放したことを揶揄していた。


「ムロギア様は、ご自分の娘であるハリティア様を、その、切り札のように使われる危険を考えながら、なぜ私に会うように進められたのですか?」言った後、小声で「実際に私がそうするかどうかは別にしてですが」と付け加える。


 イセリはこのキリクが付け加えた言葉に(するわけ無いわね)と心の中で付け足し、この野心のない家令が、なぜ自分にここまで忠義を尽くしてくれるのか不思議であり、何かあったときどこかへ行ってしまうのではないかと、不安でもあった。


「ふむ。その質問に答えるのは後にして、イセリ姫。教会の剣、シリウス殿は元気にしておられるか」


 話の突然の方向転換に、イセリが一瞬きょとんとした顔をする。


「元気だったわ。ここに来るまでは」


 シリウスおじさまは私とキリクがここにいることはもうご存じかしら、もしそうならどれほど心を痛めてらっしゃるだろう、イセリはそこを考えると、胸が締め付けられる気分だった。


「それは何より。あれほどの人物がダマスクの国主代理で収まっているのが不思議でね。もしや何か体調が優れないことでもあるのかと心配していたのだよ」


 探るような目でイセリを見る。


「シリウス様は今が充足していれば、それで十分というとても欲のない方なのよ。富を手に入れれば入れるほど次を求めるような人たちとは、違うわ」


 ムロギアへの当てつけのつもりでつぶやいたはずなのに、なぜかダマスクを出る前に出会った、税の徴収にきていたダストンの顔を思い出して身震いする。


「ほほう。ではなぜ教会で軍務についていたシリウス殿がダマスクの国主代理に?伝え聞いた話ではそれはそれは献身的に代理として励んでいるとか。どのような手を使えばシリウス殿ほどの男に忠義を尽くしてもらえるのか、機会があれば聞いてみたいと思っていたのだよ」


 少し面白がるようにムロギアが目を細める。


「それは……」


 イセリはちらりとキリクの方を見る。

 実はキリクも不思議に思っていたことであった。教都に住んでいたシリウスがある日いきなりダマスクに行き、前ダマスク国主から請われてイセリの後見人となったのだ。物心つく頃に亡くなった母。ダマスク出身であるとは聞いていたのだが、あまりに突然の話にキリク自身戸惑った覚えがあった。


 当然その時初めてイセリに会い、シリウスから主として忠を尽くすようにと言われたことを、はっきりと覚えていた。


「話ではシリウス殿は前国主と姻戚関係にあったとか」


「え、そんな事は」


 驚いてすくい上げた魚の身を落とすキリク。そんな話は聞いたことがなく、動揺させるための嘘だという言葉を期待して、イセリに視線を送ってしまう。


 うつむき、小さく震えるイセリ。


「そうそう、確かイセリ姫の姉君が」


 ドンと、机に手を突いて勢いよくイセリが立ち上がる。


「そうよ!アルミ姉さまがシリウス様と結婚したのよ!だから、シリウス様はお姉さまが亡くなられた後もダマスクに対して義理立ててくださっているのだわ!」


 吐き出すようにうつむいたまま叫ぶイセリ。


 キリクは驚いていた。


「しかしそうなると、そのままシリウス殿がダマスクの国主となっても良さそうな話。なぜ代理なのかね」


 イセリの様子など意に介さないとでも言うように、変わらぬ様子でしゃべるムロギア。


「お姉さまが亡くなって、シリウス様は跡継ぎの権利を放棄されたのよ。お父様が亡くなる寸前にシリウス様に後をと、お頼みすらしたわ。でも、シリウス様は、ダマスクの正当な後継者は、私であるからと……本当ならキリクにだって権利が」


 涙声になる体をふるわせるイセリの手をキリクが握る。


「私は今イセリ様の元にあることで、十分に幸せです」


「なるほどなるほど。シリウス殿はとても義理堅いと見える。剣を縛るための代償として、娘で済むならなんと破格か」


 ムロギアはさも感心したという風にうなずいてみせる。


「そしてあなたはキリクを帝国に縛り付けるために、実の娘をそそのかしたのね」


 イセリが苦々しく言い、ムロギアがニヤリと笑う。


「先のキリク君の質問に今答えよう。つまりはそういうことだ。私は君がこのままダマスクに残ってくれることを、願っている。そのための手として娘との婚約をと思ったんだが、その剣の子もまたなんと忠義者な事か。ますますダマスクに返すのは惜しい」


 ムロギアの顔に凄みのある笑顔が広がる。ほしい物は全て手に入れてきた者の顔だ。


 イセリがその笑顔におびえたようにキリクの手を握り返してくる。


「なぜ、私なのですか?ムロギア様の元にはそれこそ私など足元にも及ばないような優秀な方が多くいるように見受けられます。確かに父シリウスは教会でも名の通った、息子である私自身も誇れるすばらしい父です。ですが私はまだ何も成しておらず……自分の主すら守ることが出来ませんでした」


 イセリがそれは違うわと言うようにキリクを見つめ首を振る。


「なぜなのです?」


 ムロギアは少し考えるようにキリクを見つめたあと、イセリに視線を移し、大きく一息つくと椅子に背を預けるように深く座り直す。


「率直に言おう。狂戦士というものを聞いたことはないかね」


「戦場でたびたび噂される、超人間的な戦いをする人としか。戦場の熱気がそうさせるという人もいますが」


 言われてキリクが答える。


「一般的にはそういわれているし、ほとんどの場合それは真実だ。卓越した技術と鍛錬により、戦場の流れを変えるような戦いをした人間がそう呼ばれたりもする。しかし、本物の狂戦士はそうではない」


 ムロギアは間を置くようにキリクを見つめる。


「本物の狂戦士は、体の中に何かを宿している。そして必要なときにそれが表に出てきて戦うのだ」


「それ、とは?」


「それが何か、はっきりとしたことはわからないのだが、見える人にはそれが見えるのだよ。そう、人の体に二重に、そしてわずかにぶれるように重なっている陰が」


 イセリがはっとしたように横に座るキリクを見る。釣られてアリハルも見るのだが、緊張した顔のキリクがそこにいるだけにしか見えなかった。


「キリクがその、狂戦士だって言いたいのね?」


「その通り。私は前に出会ったことがあるのだよ。本物の狂戦士に。そしてキリク君は全く同じ気を纏っている。いや、もっと濃くて強いと言うべきか」


 イセリはムロギアの色を見る。そこに現れているのは真実を告げる白に、ほんの僅かだが隠し事をしているらしい色の乱れも見える。全て話したわけではなさそうだが、うそは言っていない。そしてもう一度キリクの方を見るのだが、確かに言われた通りの陰がキリクを覆っている。


「でも、ダマスクにいた頃には、陰は見えなかったわ」


「そうだな、穏やかなときには顕現しにくいのか、環境の変化で顕在化したのか」


 またイセリの目には嘘は言っていないが、何かを隠している色が見える。


「だからといって、一人の人間が戦争にそこまで影響を持つとは思えないわ。自分の娘を差し出してまで手に入れるほどの事かしら」


 イセリが訝しむようにムロギアを見つめる。


「一兵士、ならな。想像してみるといい。彼が部隊を率い、彼の父である剣が指示を出す。キリク君の勢いは部隊に伝播するだろう。的確に運用された勢いのある部隊は、戦場の様相を一変させる」


 嘘偽りのない真実。今度は隠し事もない。イセリはキリクが剣を掲げて部隊を率いている姿を想像する。そしてその姿に重なるように、黒い陰が纏いついてる。


 闘技場でのキリクの姿が脳裏をよぎる


「だめよ、そんな事させないわ」


「なぜだね?キリク君の持っている能力をフルに発揮できる場だと思うがね?」


「……あれは、良くないものだわ」


「しかし、必要とされれば否も応もなかろう?きっとキリク君はその力を使う事をためらいはしないだろう」


 間を置き、手に持ったフォークでイセリを示す。


「忠誠を捧げる姫のためにね」


 この言葉に反応したのは、イセリではなくキリクだった。


「また戦争を、始めるつもりなのですか?」


「またとは人聞きが悪いな。前の戦争は教会ではこちらからの侵略戦争だとでも喧伝しているのかね?」

「いえ、そういうわけではありませんが……」


 戦争が始まった当初は、帝国からの侵略に対して対抗するものだといわれていた。だが、戦後に帝国と教会でもたれた協議では、教会側の一部の領主が境を超えて領有を主張したというのが、事の真相だという結論に至っていた。


「まぁどう教育されているかはかまわないが、私は現在戦争を起こそうなどとは思ってはいない。むしろその逆なのだよ」


「逆、ですか?」


「平和、だ」


 キリクはこの言葉の真意をとらえかねるように思わずイセリを振り返り、同じく驚いたイセリと目があう。


「言葉に嘘はないわ。私自身の目が間違っていなければ、だけど……」


 後半自分の見ているものが信じられないのか、声がか細くなっている。


 奸智に長け、敵対するものは容赦なく打ち倒し、力で帝国を支配する。教会に聞こえ来る噂からは想像できない言葉であった。


 だが、イセリから見るムロギアの言葉はまさしく真実を告げていた。


「そう、平和なのだよ。国境を挟んだ領地同士の婚姻も、私が仕向けたのだ。交流が深まり、お互いに益があるとなれば、人はそうは争わなくなる」


「ムルタラとの婚姻の話ですね?」


「そうだ。あそこは元々細々と交流があったからな、話を持って行きやすかった。バカ息子のせいで流れてしまったがな」


 アリハルが少し驚いたような顔をしたため、おまえじゃないというようにムロギアが手を振る。


「ムルタラにいた間者は、そのバカ息子が送り込んだもの?」


 イセリがサラダをつつきながら何気なくいう。


 またアリハルが反応するが、イセリは見えていないかのように無視する。


「ふむ。息子にそんな機知と手腕があるなら、逆に喜ばしいぐらいだが」


 少し含むところがあるように言葉を止める。


「しかし、剣の息子と帝国の姫との婚約。これがどれほどの意味を持つか、考えたことはないかね?」


 キリクとイセリが考えるように動きを止める。その影響の大きさ。おそらく一部を除いて教会でも好意的な空気が広がるだろう。


「ところでさ」


 それまで空気のような存在だったアリハルが、声を上げる。


「はっきりしたことは聞いてないけど、キリク君はハリティア姉さんを振ったって事でいいのかな?」


 とても明るい口調が、場の空気にそぐわないため戸惑ったものの、キリクは肯定するようにうなずく。


「それで一つ聞きたいんだけど、もしこんな状況でなかったら、ハリティア姉さんの事はどう思う?」


 こんな状況でない、捕まったわけではなく対等に出会っていたら。キリクはこの質問に少しギクリとする。答え次第では、迷路の袋小路に追いやられる可能性がある。キリクは考え込んで黙り、ムロギアはニヤリとしている。


 答えが返ってこない為か、アリハルが話を続ける



「ちょっとわがままなところもあるけど、結構美人だと思うし、気だても良い方だと思う。弟の僕が言うのもなんだけど、たとえ帝国の姫じゃなかったとしても、結婚相手としては申し分ないと思うんだ。一人の女性としてどうなの?」小さい声で「少し歳は上かもしれないけれど」と付け加える。


 キリクはボードゲームで自分の陣地が削られているように感じていた。その削られた選択肢の中から最前の物を探そうとする。


「とても、魅力的な方だと思います


 」横でイセリが微妙な顔をしているが、そちらをみないようにして答えるキリク。


「ほう!それは良かった!」


 ムロギアが満面の笑みを浮かべ、よく響く声で言う。


「ハリティアに問題がないなら、こういう条件ならどうだろう」


 皆がムロギアに注目し、こちらの声を待っているのを確認するように間を置く。


「もしキリク君がハリティアの婿に来てくれるなら、イセリ姫をダマスクに戻すための交渉を進めるといったら?」


 キリクは顔を上げ、出された条件を吟味し始めようとした瞬間、イセリが勢い良く机に手をついてまた激しく立ち上がる。相手に体を大きく見せようとする小動物のようだ。


「駄目よ!そんな事絶対にさせないわ!」


「なぜだね?そちらにとってはマイナスになるような要素もない、破格の条件だと思うがね」


 この条件でのムロギアに有利な点を、キリクは考えていた。


 まず、戦争回避というその点においては有効に働くことは間違いがない。そして、ムロギアの言葉をそのまま信用するなら、キリク自身を有効な駒として見ることが可能になるうえ、帝国にとって最大の障害となり得るキリクの父への牽制にもなる。


 しかし、キリクはこうも思う。自分の娘を差し出すほどの利点だろうか?このまま捕虜として維持するだけでも、同じような効果は得られるのではないか。そこまで考えた所で、昔父シリウスから言われた言葉が口をついて出る。


「魅力的に見えれば見えるほど、落とし穴がある」


「それはハリティアの事かね、それとも条件の事か」


 キリクは思わず自分の口から出てしまった言葉に驚いたが、今の自分に差し出す事の出来る数少ない手札を使用するタイミングは、ここではないように思われた。


「両方と言うこともあるわ。あまりにも条件が良すぎるし、それに、私は自分を助けるために生け贄を捧げる気はないわ」


「人の上に立たねばならない運命にありながら、必要な時に必要な決断を下さないのは、愚か者のすることだ」


「キリクは今の私にとって、とても大切な力よ。ここで使うのは危険な賭だわ」


「ほう?自分の身と引き替えることもためらうほど、大事なのかね」


「キリクは私の大事な……大事な……家令よ」


 イセリは言った後に、自分が本当はなんと言いたかったのかを考えないように心の奥底にしまい込もうとするものの、ムロギアがにやりと笑うのを見て、感情を抑制することに失敗していることを知らされる。


「とりあえず時間はいくらでもある。考えておいてくれたまえ」


 ムロギアが手をたたき、デザートを運ぶように命じると、台車に乗せられ、良く冷やされているらしい果物が運ばれてくる。


 その台車がイセリの横を通り過ぎた瞬間、イセリが驚いたような顔をし、そのまま台車の動きに釘付けになる。


「どうかされましたか、イセリさ……」


 気にかけて話しかけて来るキリクを、手で制するイセリ。


 台車はまずムロギアのそばで止まり果物の載った皿を配り、その後アリハルの側でも同じ物を配り、キリクとイセリにも同じ物を配っていく。


 イセリの視線はアリハルの皿の上で制止している。


「もうこの果物が食べられる時期か。さわやかな香りが好きなんだよね」


「今すぐその果物から手を離しなさい!」


 アリハルが、皮をむかれた実にフォークを突き刺して口に運ぼうとした瞬間、イセリが叫ぶ。

「え、どうしたの?おいしいよ?」驚いた状態で固まるアリハル。


「今すぐ離しなさいと言っているの!」


 十歳の少女とは思えない迫力に、母親にしかられた子供のように果物を皿に戻すアリハル。


「何か見えたのか!?そこから見えたのか!?」


 ムロギアが驚いたように言い、机を回り込むようにアリハルの側へ行くと、果物の載った皿を凝視した後、そのまま机の上から床にたたき落とす。


「もう一度聞く、これがそこから見えたのか?」


「あなたには見えなかったの?それとも見えていたのかしら?」


「今日はこれで終わりにする。各自部屋に戻って外にでないよう」


 ムロギアが強ばった顔で強く宣言する。


 その言葉通りイセリとキリクが部屋に戻るためにムロギアの横を通り過ぎようとしたとき、ムロギアが厳しい表情のまま二人に話しかける。


「先の話は無かったことにしてもらう」

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