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第1章 始まり


 私がこの高校を選んだ理由は二つ。

 家から近いという事と、公立であるということ。

 ただ、それだけだ。

 特に行きたい高校もなかった私は、家から近いほうが毎日通いやすいとか、公立の方がお金がかからなくていいだろうとか、そんな安易な考えで進学する高校を決めた。


 でも、今はその事をものすごく後悔している。

「ヒナ、また来たわよ、妹ちゃん。」

 後ろからポンポンと肩を叩かれて振り返ると、友達の歩美が眉間にしわを寄せて教室の後ろの出入り口を指差した。

 扉からおそるおそる中をうかがうように顔だけのぞかせている女の子は、1つ年下の私の妹、千月ちづきだ。


 千月は可愛い。

 身長は低めで155センチ、髪はセミロングで質素なダークブラウン、母親譲りのぱっちりとした大きな二重の目の下に、計算されたかのように小振りな鼻とふっくらとしたピンク色の唇が配置されている。

 この子を見て可愛いと思わない人は、まずいないと思う。もしいたとしたら、正常な感覚が壊れているとしか思えない。

 そんな可愛い千月が、姉である私を見てビクリと身を竦ませる。

 次の瞬間、千月を見てそわそわしていた男たちがいっせいに私を睨みつけた。


 ・・・私、何もしてないんだけど。

「千月ちゃん、どうしたの?用があるなら、呼んでくれればいいのに。」

 教室中に聞こえるような声でそう言って席を立ったのは、学年一のイケメンと言われている高瀬将だ。

 彼は身長も高く175センチ近くあり、千月と並ぶとまるで大人と子供のように見える。

 一体どこでどう知り合ったのかは知らないけど、二人はつい最近付き合いはじめたらしい。

「ご、ごめんなさい。ちょっと、通りかかったから、将、いるかなって。あの、用事とかじゃないんだけど・・・。」

 チラチラと私を見ながら、千月は慌てたように両手を振った。

 2年の教室しかないこの2階に、どうやったら通りかかると言うのか。

 もっともそれが可愛い言い訳だという事は、誰もが分かっている事だけど。

「何も悪い事してないんだから、そんなにビクビクする必要ないだろ?・・・外で話そう。」

 高瀬は大きく溜息をつくと、射殺しそうな目で私を睨んだ後、私の目から千月を隠すようにして廊下へ出て行った。


 それを見ていたクラスメイト達は、コソコソと囁きあう。

「いくら好きな男取られたからって、八つ当たりすんなよな。しかも妹だろ?」

「仕方ないんじゃない?自分があれで妹があれじゃ、卑屈にもなるわよ。」


 クスクスともれる笑い声に、歩美の眉間の皺がぎゅっと寄せられる。

「歩美、そんな顔しないの。綺麗な顔が台無しよ?」

 歩美は子供の頃から陸上をやっていたとかで、身長は女子の平均より高いけど整った顔立ちをしている。

 中世的な美人、という感じだ。

「だって!ヒナ、あんた腹立たないわけ?」

「そりゃあ、平気じゃないけど・・・でも、仕方ないよ。」


 可愛い妹と違って、姉の私はいたって普通。

 身長は160センチ、今時珍しいくらい一度も染めてない真っ黒な髪は、いつも後ろで一つにまとめている。

 顔立ちは・・・自分では、平均的なんじゃないかとは思っている。

 よく言えば一般的、悪く言えばあまり印象に残らない。

 千月のように表情豊かでもないし、可愛らしいしぐさの一つもできないし、話していて楽しくなるような話術も持ち合わせていない。

 本当に千月の姉が私なのかと、血が繋がってないのではと疑われた事も一度や二度ではない。


 子供の頃は悔しかったし、泣いた事もたくさんあった。

 でも、今では仕方が無いと思ってる。

 千月が可愛いのは事実だし、千月なりに自分を磨く努力をしているのも、ある程度成長した今ではよく分かる。

 ・・・ただ、仕方ないで済ませられない事もある。


「でも、何度も言わせてもらうけど、私は別に高瀬君の事、なんとも思ってないから。」


 そう、千月はよく平気で嘘をつく。

 それも私をネタにする事が多い。

 子供の頃から、周りがみんな千月の言う事を信じるから、それに味をしめてしまっているのだ。

 これだけは、何度注意しても治らない。


 どうも千月は高瀬君に、私が高瀬君の事が好きで、それなのに自分が高瀬君と付き合いだしたからきつく当たられている、というような事を言っているらしい。

 はっきりとそう聞いたわけではないし、千月本人に聞いてもいつも誤魔化されるんだけど、高瀬君や他の生徒たちの話を聞く限り多分間違いない。

 一体何が楽しくてそんな事を言い出すのか・・・。


「プライドだけは高いって、悲惨よね。」

「言ってて恥ずかしくないのかしら。」


 ・・・そして、私の言う事を信じてもらえないのも、いつものこと。

 どんなに声を大にして叫んでも、感情的に泣いて訴えても、ヒステリーだと思われる。

 冷静に言い返しても、自分を良く見せたいための嘘だと思われる。

 今までの経験上それは分かっているけど、違うと主張するのをやめたら、なんだか負けになるような気がしてやめられない。

 よけい惨めになるだけだと、分かってはいるんだけど。


「ヒナが高瀬を好きだなんて、どこをどう見たらそうなるのよ!いい加減、目覚ましなさいよね!」

 歩美が教室を見回して怒鳴っても、白けたような空気が返ってくるだけ。

「歩美、いいから!そのうち飽きるよ。・・・ねえ、どうして歩美は私の言う事を信じてくれるの?」

 歩美は、2年になって同じクラスになってからできた友人だった。

 女子のどの派閥にもうまく入り込めなかった私に、たまたま同じようにあぶれてしまったらしい歩美が声をかけてきたのがきっかけだった。

 席も前後で並んでいたし、お昼休みや教室移動でなんとなく声を掛け合ううちに、仲良くなったのだ。


 今ではお互いに少し踏み込んだ事も話せるような間柄にはなってきたけど、無条件で信じてもらえるほどの親友かと言うと・・・まだそこまでではないと思うんだけど。

「私、やたらと顔に手を持っていく子って信用できないの。」

 ふんっ、と鼻を鳴らした歩美は、忌々しいとでも言いたげな様子でそう吐き捨てた。

「・・・えっ?」

 予想外すぎる言葉に、変な声が出てしまった。

 言われてみれば確かに千月はよく顔の前で手を振ったり、口元に手を当てたりしてるけど・・・それだけ?

 無言で先を促すけど、歩美はそれ以上は話さずに、黙々と次の授業の準備をはじめた。

 あまり突っ込まれたくない内容なのかも。

「言っとくけど、ちゃんとヒナの事も信じてるわよ。短い付き合いだけど、少なくともしゃべったことの無い美少女よりは信用してるわ。」

「・・・ありがと。」

 恥ずかしがり屋の歩美が困らないように、私は短くそう言って授業の準備を始めた。


 千月は、てっきり制服の可愛い私学に行くものとばかり思っていた。

 こんな事なら、通学に片道1時間はかかるような遠くの高校とか、千月がどう頑張っても行けない進学校とか、県内で一番制服がダサいと噂の某高校とかに行けばよかった。

 千月が、まさか私と同じ高校に来るなんて思ってもいなかった。


 幼稚園でも、小学校でも、中学でも。

 私は千月と比べられ、ばかにされ、千月に振り回されてきた。

 高校に入れば、離れられると思っていた。

 

 相沢千月の姉ではなく、ただの相沢日向として、平和な生活を送れると思っていたのに・・・。


「ほんと、後悔先に立たず、ね。」

 

 溜息交じりの呟きは、チャイムの音にまぎれて誰の耳にも届かなかった。

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