仇敵
「古賀ぁぁぁッ!」
ヤツに向かって駆け出そうとしたらエリオットとフクイに止められた。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す! 私は! お前を! コロス!」
理屈なんて必要ない。両親の仇だ。討たねばならない。
「これはびっくりだ。まさかここまで本能に忠実な子だったとはね」
大げさにため息をついてみせる古賀。
その髪も目も鼻も耳も口も肩も肘も腕も腹も腰も膝も脚も奴の全てが憎かった。
「離せエリオット! あいつは私が殺る!」
「無茶だ。見ただろう、固まってたとはいえバーバラをあっさり捻ったんだぞ!」
無下に却下されようが関係ない。
もちろん私の目は節穴じゃないさ。目ん玉ひん剥いて見ていたとも。
それでも本能には逆らえない。
「あぁ、エリオットさんもこうして会うのは久しぶりですね。儚ちゃんを連れてノコノコとここまで来たってことはヤギシフへの謀反の意ありということですかね?」
嫌な奴を通り越してこいつは私の憎悪の根源とさえいえる。今すぐにその体を引き裂いて――――
「黙れ!」
エリオットにとってもそれは同じで、きつく睨み付けている。
「まあそんな怖い顔しないでいったん落ち着きましょう。バーバラを殺したのは俺ですしこっちの被害は実質ゼロです」
仲間のはずのバーバラですらこいつにとっては勘定に足らないものらしい。
古賀はにっこりと笑った。
「なんなら儚ちゃんを連れてヤギシフにつきませんか? 儚ちゃん、君の収容所での活躍は聞いていたよ。あの二人の娘ならいいポストに就けるはず。ヤギシフならH-20-Akanaではなく、朝霧儚として生きる場所を提供してあげられるんだ」
もう我慢の限界だった。
「おああ!」
エリオットたちを振りほどいて、両足に力を込める。
その跳躍は私を一瞬で古賀の眼前にまで運んだ。
「死ね!」
この一撃で普通の人間なら首から上が弾け飛んでいたところ。古賀は少しふらついただけだった。分かってはいたが、バーバラ以上のバケモンだな、こいつは。
「死ね!」
続いて放った腹パンも軌道を逸らされる。
メガ・エネルギーを摂取している私の身体能力は本来であれば常人のそれを大きく上回っているはず。コンディションだって一応は絶好調なはずだ。いくら御庭番衆とはいえコケにされる道理はない。
スミス教官の熱血指導は確かに私のなかに息づいている。特訓は無駄にはなっていないと信じたい。
しかし私の技のことごとくを古賀はあっさり捌いてしまった。手応えのなさすら感じる暇がない。
「いい。いいよ儚ちゃん。やっぱりヤギシフに来ないか?」
余裕綽々。最初の一発すら通ってはいないのだろう。
即御陀仏のはずだったが、さすがに力量の面で算用が甘かったと言わざるをえない。
突然首に腕をかけられた。何らかの方法で血流を止められているのかぴくりとも動けない。見切られていた。
「ハカナから離れろ!」
「嫌だなぁ。儚ちゃんのほうからこっちに来たんじゃないですか。……まあいいか。俺たちは会長のところに行くんでとりあえずエリオットさんはここでのんびりしていてください」
古賀が合図するとエレベーターから、階段から、戦闘員が大勢現れた。さながら特撮のザコキャラ。
人間の姿をしているものもいれば腕や足、顔が余計にひっついているまさに異形も混ざっている。
「こいつらはヤギシフが入手したDNAから複製したクローンたちです。そのなかでも特に優秀なのを選りすぐったので楽しんでいってください」
前言撤回だ。よく見ればさっき死んだはずのバーバラのクローン、収容所で見かけた軟体のクローンもいる。苦労して倒したボスキャラの上位互換がゾロゾロというわけだ。
「離せ! 外道め!」
いくらエリオットとフクイといえどもこの数は無理だ。さっさと古賀を始末して――――
「さすがにわんぱくが過ぎるよ」
こめかみに鈍い衝撃が走るとともに、私は意識を手放した。




