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刹那と永劫の狭間に  作者: 吉岡 澪
血統の決闘
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肉壁

 不意を突いた一発だったがバーバラが手練れであるのもまた事実。ひょいとかわされた。


「ふん。ちぃとはやるようじゃの」

「黙れ!」

 至近距離から殴りまくるも、動きが読まれているらしく私の拳は全て空を切った。


「ほい」

 振り払われ弾き飛ばされた私をエリオットが受け止めた。


 身構える私たちに対して焦る様子を見せないどころかバーバラは不敵に笑った。

「まあおどりゃぁらにとっちゃせぇがベターじゃろう。まあわしにそんぎゃなこと関係ないがな」


 両腕を前に突き出し、肩をグリグリとまわす。すると筋肉が目に見えて膨張した。これには思わず目を丸くしてしまった。


「おい、どんな手品だ!?」

 以前青野が読んでいた漫画にそんなようなことをするキャラクターがいた。たしか東州斎とかいう人の作品だったはず。


 得意げなバーバラ。

「見たままよ。俺の能力は筋肉の強化。地味に思うかもしれんがこういうシンプルな力こそ使い勝手がいい。しかもあの時よりもチャレンジアップしょうる!」


鉄パイプをぐにゃりと曲げてみせたところからもそのパワーは疑いようがない。


「ハカナ、フクイ、あいつの力は本物だ。殴り合いじゃ分が悪い。フクイは準備をしとけ」

 エリオットがどうかは知らないがへっぴり腰のフクイはさすがに通用しないだろう。


「ゴチャゴチャ言うとらんではよう始めようや!」

 痺れを切らし向かってきたバーバラにエリオットが音波を放った。


「ほう、ちぃたぁ成長したんじゃな」

 ダメージには至らないが歩みを止めることはできているようだ。


「ハカナ! 今だ!」

「よし!」

 いくら全身を筋肉が覆っているといっても急所まではガードしきれない。


「食らえ!」

 女子にしては下品な物言いだが仕方ない。後頭部に踵落としをくれてやった。それに合わせて出力の上昇したエリオットの音波がバーバラの脳を強烈に揺さぶる。その顔が苦悶に歪んでいるあたり効果あり。


 今回は少しは効いたようだ。

 空中でちらりと確認したところ、フクイはさっきからずっとオロオロしているので存在を無視することとする。


「逃がすか」

 頭上で星とヒヨコがチラチラしているものと思ったがリカバリーが早い。脚を掴まれそのまま叩きつけられてしまった。


「ハカナ! 大丈夫か!」

 エリオットが割って入りラリアットを食らわせるもフィジカルの壁は厚い。あの胸板にはそこいらの打撃は通らないだろう。


「仮にあの時の面子を揃えたとしても今のわしは止められん! おどりゃぁらなら尚更じゃ!」

「ぐっ」


 力をこめて殴られたエリオットは反対の柱まで飛ばされていった。起き上がる気配はない。失神してしまったようだ。


「フクイ! お前も少しは戦え!」

「でも……」

「ああ分かった分かった! そっちに隠れてろ!」


 ダメージを与えるにはエリオットの助力が必要だ。それがかなわない今、私が単身なんとかするしかない。


「私一人で充分だ。さぁ、来い」


 『い』の音が消える前にバーバラの突きが眼前に迫っていた。

 これは読めていたこと。両掌で受けとめ、そのまま投げ飛ばした。


 もちろん両手を使うことのリスクはある。しかし体格差を逆手にとることができるため、突きそのものを支点として敵を放り投げることも容易だ。


「おおう!」

 大理石の壁にぶつけてやった。恵まれた体格がそのままダメージとして跳ね返ってきているはず。ざまあみろ。


「あの親にしてこの子とはのぅ。筋はいいがまだ御庭番衆とは呼べん!」


 反応する間もなくバーバラの蹴りが腹に刺さった。トラックがぶつかってきたのではないかという衝撃とともに嫌な音がした。


「どうした! もっと気張れや!」

 さっきは防ぐことができた突きが雨あられと襲いかかってきた。その一発一発が身体機能を確実に削いでくる。


 手も足も出ぬまま壁まで追い詰められた。こんな体勢に名前をつけるとしたら『壁ゴン』だろうか。


「な、なかなかやるな。まあ私の次くらいに」

 ただただやられるのも癪だ。ここは余裕を見せてやる。


「褒められるとは光栄じゃ。お返しといっちゃあアレじゃが一思いに殺してやるかいの」


 脚はまだ動く。回避行動はとれるだろう。

 大丈夫、腹は痛いが青野が隠していた腐ったプリンを食った時よりもだいぶマシだ。


「潔いのはええのう!」

 目の前でバーバラが拳を振り上げた。ギリギリまで引き付ければ隙ができるはずだ。


「今だ! フクイ、やれ!」

 私、そしてエリオットが振り向く前に勝負は決した。


「な、なんじゃあこれは!?」

 両手が直立不動(きをつけ)の姿勢で固まり、何ともコミカルなポージングになるバーバラ。


 息を吹き返したエリオットがフクイに肩を貸してこちらへ歩いてきた。

「吉祥寺、いや間違えた。見たか! フクイは見ての通りポンコツなんだがこの能力だけはモノホンもモノホン。聞いてビックリ自己暗示で擬似的な金縛りをかけられるんだ」

「まあ発動までに死ぬほど時間かかるし僕自身もバテるから、使い勝手は悪いんだけどね」


 フクイが戦いを避けるくせに毎回私たちと一緒にレインコートらに挑んでいたのはこういう事情だったのか。初めて合点がいった。


「なんじゃと!? そんなデタラメな」

 敵ながら私も同意見だ。バーバラめ、案外気が合うんじゃないか?


「俺もそう思ったさ。でもそれがメガ・エネルギーを取り込むということなんだ。お前もそれはよく分かってるはずだぞ」


「はっ。はははははは! わしもつくづく大馬鹿じゃ! あの時と同じような不意討ちに不覚をとるとは!」


 もうひとつの声がバーバラの後ろから聞こえた。

「よく分かってるじゃないか。だからお前はもう用済みだ」


 それは忘れもしないエリオットに写真で見せられた男。私の両親を殺した男。


「古賀!」

 エリオットの叫びが、がらんどうのエントランスに響いた。


 驚いた様子もなくバーバラは笑った。きをつけの姿勢が物悲しい。

「誰かと思えばあんたか。なんじゃ、わしの手柄を奪いに来たのか?」

「聞こえなかったのか。お前はもう要らない」


 何が起こったのか分からなかった。

 あれだけの驚異として何度も私たちの前に立ちはだかったバーバラが声をあげる間もなく崩れ落ちた。


 それは肉の壁たるバーバラが肉片と化した瞬間だった。


「儚ちゃん。久しぶりだね。元気にしていたかな?」

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