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刹那と永劫の狭間に  作者: 吉岡 澪
出会いと希望
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衛陶

 私たちは一旦前田荘に帰り、改めてヤギシフ本社へ乗り込む算段をたてることになった。

 エリオット、フクイを除く関係者が全員集結し何とも物々しい雰囲気。正直居づらい。


「まず聞いてほしい。この一連の作戦にはかなりの危険が伴うし、成功しても大きな見返りがあるとは限らない。正直なところよっぽどの動機がないなら不参加を表明するのが賢いと思うんだ」


「ならばバカになってやりますよ!」

「あんたはもうわりとバカだろ」

「おぉん!?」

 もちろん不参加を主張する者は誰一人としていなかった。それにしてもさっきからニコニコと頷いているモニーとエゴスバラは話を理解しているのだろうか。


 微笑ましいのかそうでないのかよく分からないやりとりをしている連中を流して私は大家さんに参加を訴えた。


「ハカナちゃん、本当にいいのかい?」

「むしろこちらからお願いします。参加させてください!」

「……逆にお願いしたいくらいだよ。力を貸してくれ」

 もっと強く止められるかと思ったが、大家さんは私がヤギシフ攻略作戦に参加することをあっさりと許してくれた。


「待ってください。こいつには危険すぎますよ」

 横で青野が喚いているが無視だ無視。そもそもお前は腕相撲で私に勝ったことすらないじゃないか。


「ハカナちゃんなら大丈夫。それに作戦に参加する人は多かれ少なかれみんな危険を背負うことになるから」


 青野も口ではあんなことを言っているが大家さんと同じく私を心配してくれている。それは感じたがここは私の気持ちを汲んでくれたようだ。

「まずは作戦の目標だ。私たちのなかで戦闘要員になりうるのはハカナちゃんとエリオットくんだけ。だから目指すのは敵の殲滅じゃない」


 言ってからお茶をぐいと飲み干した。


「さすがに戦いで圧倒するのは無理でしょうな」

 松風監督も頷いた。ちなみに娘の青水は実家に戻っている。


 いくら私とエリオットが意欲に満ちているといっても、二人でヤギシフの大軍勢を全滅させるのはさすがに無理だ。

 そうなると別の目標を設定しなければならない。


「そこで目指すのはヤギシフが抱えている膨大なデータの破壊だ」


 普段は食事当番や予定表に使われる前田荘のホワイトボードだが今日ばかりは特別任務。ヤギシフ攻略作戦とデカデカと書かれている。


 大家さんの話ではヤギシフ本社の最上階にあるスーパーコンピューターに御庭番衆とメガエネルギーについてのデータが保存されているらしい。


 前にエリオットがヤギシフが御庭番衆をデータで管理していることを教えてくれた。たしかにそれをパーにしてしまえば大打撃を与えることができるだろう。


「もちろんハカナちゃんはそれだけじゃ腹の虫がおさまらないと思う。道中でもし敵のボスを見かけたら多少痛い目に遭わせてやってもいいんじゃないかな」

 俄然やる気が出てきた。


「何度も言うけどヤギシフ本社ともなればとにかく敵の数が多い。できるだけ戦闘を避けないといけない」

「しかしそのスーパーコンピューターはヤギシフの核なわけでしょう? そうなると当然警備が厳しくなるんじゃないですか」


 避けるといっても限度があると足名稚さんが言う。敵もバカではない。そのくらいは想定していなければ。


「もちろんそうだ。だからこそ私たちがバックアップする必要がある。敵を分散させて時間を稼ぐんだ」

「ええっ、あんなバケモノどもとやりあうんですか」

 へっぴり腰の青野。今のこいつではハエすら倒せなさそうだ。


「大丈夫。私のなかでいくつかシミュレーションをしてみた結果一番成功率が高い作戦がある」

 この時点で私は明らかに一般人でない大家さんが何者かなどという些末な問題を気にしなくなっていた。


「これからその作戦を説明するわけだけど、何か質問は?」

 途端居間に緊張感がはしる。観葉植物が微かにたてる音がはっきりと聞こえるほどだ。


 マーが手を挙げた。拳を握る私を見て首をすくめる。

「敵の戦力ガ圧倒的だトいうノは分かリましたケど、高ランクの御庭番衆っテどのクらいいるんデすカ?」


 敵の戦力を知らなければならない。まともに相手できるのはバーバラぐらいのレベルだろう。


「エリオットくんから聞いた話ではA級、つまりエリオットくんと同等の者が七人いるらしい。そのなかにクローンバーバラが入ってるだろうからあと六人だね。さらにS級も僅かながらいるらしいけどそっちは人数が分からないらしい」


 何やらムニャムニャと呟いてマーは黙った。

 エリオットから話で聞いていたがS級に出てこられては逃げるしかないだろう。


「他に質問は?」

「これを言っちゃ元も子もないかもしれませんけど、警察とか呼ばれたりしたらまずくないですか?」

 いつの間にか高校生になっていた三木が発言した。コーヒーを飲んでいるのも成長の証か?


「それも問題ない。エリオットくんが外部に音が漏れないようにシャットアウトしてくれてるし、警察に嗅ぎ付けられると都合が悪いのはヤギシフも一緒だからね」

「それなら安心ですね」

 三木も納得したようだ。


(ん?)

 音波の能力で音漏れを防ぐということはエリオットは作戦の折には常に能力を発動させていなければならないということ。そうなれば戦闘に障る部分も出てくるだろうし、尚更私が気張らねばならない。


 質問がなくなったのを確認して大家さんが私たちの命綱となる作戦を説明し始めた。

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