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刹那と永劫の狭間に  作者: 吉岡 澪
出会いと希望
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結果

 倉庫での戦いからも私は毎日スミスとの特訓を続けた。警察とエリオットの頑張りもあってかバーバラとアクマとかいうレインコートの二人組が悪さをすることはなく、ひたすら特訓に没頭することができたのはとても運がよかったといえる。


 その間に最初は触れることすらできなかったスミスとの特訓もだんだんと技を入れられるようになり、相討ち寸前までいくようになり、やがて自分と同じだけのアザを相手にプレゼントできるようになっていった。


 そして早くも一か月が経過した。今日も特訓だ。


「ハカナちゃん。強くなったね」

「スミス教官の日本語も上手くなったな」

 私はスミスを教官と呼んでいる。純粋な日本人の私からすればセンセイやキョウジュなどといった単語とは違うニュアンスがあると思う。


「それじゃあ、いくよ!」

 ここまでくるともう相手も容赦がない。彼は本気で私を倒そうとむかってくる。


 教官は見た目の数万倍素早い。こちらから一撃を先に入れるというのはかなり難しい。


 顔面への拳を防ぎ、腕を掴んで体を捻る。身が軽いということは一撃の重みに欠けることではあるが、逆に考えれば動きにパターンを持たせられるということだ。


 その勢いを利用して腹を蹴り飛ばした。咄嗟の判断にしては上出来だった。

「ぐっ」

 これまでの私は攻撃を焦って防がれ、結果的に反撃を許すことが多かった。弱点が分かれば補強すればいいだけの話。

 臨機応変な対処を心がけるだけで見えてくることがある。


 腹をおさえたスミス教官はすぐにダメージから立ち直り、両手で私の脚を捕まえた。このまま投げに転ずるつもりだろう。


 私が彼なら、ここは頭から地面に叩きつけて対格差からの一発KOを狙う。

 そしてそれは彼も同じだった。軽々と持ち上がる私の体はあまりにも頼りなく、地面との接触を待つばかり。


「なわけあるか」

 腹筋で上体を起こし、全身を折り畳んでからの顔面パンチ。十分すぎる打撃でスミスをノックアウトした。


 初めての完全勝利。遂に成し遂げた。



 感傷に浸る私。重要なチェックポイントをクリアしたといっていい。

 鼻血を拭いたのちに教官が祝勝会をやろうと言い出した。コーラを奢ってくれるとまで言う。

 お言葉に甘えそのままベンチで休憩することにした。


「いやあ参った参った。ハカナちゃんにはもう敵わないなぁ。もう教えることはないよ」

「いや、まだ教えてほしいことがある」


 一か月前から気になっていたことだ。私の両親の最期と裏切り者についてヤギシフフェスタの前にどうしても聞いておきたかった。


 辺りに人がいないのを確認して教官はこちらに向き直った。

「ここまで特訓以外の質問は禁止にしてたからね。何でも聞きな」


 何でもと言ったからには責任はとってもらう。

「じゃあ聞かせてくれ。教官はヤギシフの古賀という男を知っているか?」


 いきなりの質問で驚かれるかと思ったがそんなことはなかった。

「あぁ知ってるよ」


 ならば話ははやい。


「私の両親の元部下で、私の一歳の誕生日に両親を殺したというのは本当か?」

「100%とは言えないけどほぼ間違いない。朝霧家に火をつけてハカナちゃんを収容所へ連れていったというのがぼくらの見立てなんだ」


「エリオットもそう話していた。そうなると分からないのは両親が何故逃げなかったかだ」


 再生能力と目視できないほどの速さで動く能力をもってすれば脱出も不可能ではなかったはずだ。


 この疑問にも教官はあっさりと答えを出した。

「おそらく古賀の能力で動きを縛られていたんだろうね。二人は焼死体すら見つからなかったんだ。生前の二人を知ってたから僕も悔しくて悔しくて……」


 エリオットたちと活動していた頃には古賀は御庭番衆としてメガエネルギーの能力に目覚めていなかったらしい。それがオリジナルバーバラとの一戦で偶然ながらメガエネルギーを取り込み、能力が発現したという。


「今そいつは何をしてるんだ?」

「僕が知るかぎり奴はヤギシフでも上位に上り詰めている。Aクラスの御庭番衆なのは間違いない」


 私がまともに戦った御庭番衆はバーバラしかいない。よって彼の強さを基準に測るしかない。

「バーバラとどっちが強いんだろう」

「勝負にならないだろうね。古賀だよ」


 クローンバーバラですらあれほど強かったのだ。現在の古賀はどれほどの力を持っているのだろう。


 もう一つ確認したいことがあった。

「なら、大家さんが映像で見せた『アクマ』とかいうヤツの正体が古賀ということはないか?」


 人間離れした動きからして可能性はあると思う。エリオットには違うと言われたが教官はどう判断するだろう。

「違うと思う。戦い方のイメージが違うし何よりこのアクマからは感情を感じないんだ。なんというか、機械が戦っているみたいな気さえしたよ」


 二人から否定されてしまったらさすがにこの説はもうお釈迦だろう。


「今度は僕から聞いてもいいかな」

 あれだけ聞いたのだ、答えなければならない。


「ハカナちゃんはもし古賀を見つけたらどうする?」

「そんなの決まってる。両親の仇をとってやるんだ」


 やっぱりかという表情の教官。


「もちろん僕はそれを止めるつもりはない。しかし、本当にいいのかい? 成功の可能性に比べて失敗のリスクが大きすぎるし、そもそもうまくいったらその時こそヤギシフは全勢力でハカナちゃんを叩き潰そうとしてくるよ」


 なんだ、そんなことか。


「とにかく結果が出てから考えるさ。いずれにせよ前田荘の人たちには迷惑をかけないつもりだ」

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