修行
地面の凹凸を利用し、飛びかかった。東京都が妙なところに税金を使っていなくて本当によかったと思う。
「この!」
「おっ、いいねぇ」
気合いを込めた一撃だったが掌で受け流される。続いての蹴りも見切られていた。
もちろん手数ならまだまだ。足払いから肩をつかんで背後へ回り込んでケツを……
「おっと」
出鼻の足払いを飛び上がってかわされた。鈍重そうな見た目に反したスピードだ、
しかし空中へ逃げるということは無防備な時間を自ら生むことになる。
「そこだ!」
土手っ腹に叩きこもうとしたがまた受け流されてしまう。
「くっ……」
私が次の動作に入る前に眼前にスミスの拳。ゲームセットだ。
このスミスという男。図体のわりに体の捌きが達者だ。私の攻撃は間違いなく彼を捉えているはずなのに、全くダメージになっていない。
「話に聞いていた通りだねぃ。収容所で鍛えられてるだけのことはあるなぁ」
上から目線の大人ほど鼻につくものはない。
「私もビックリだ。ハカナちゃん、強いじゃないか」
大家さんもフォローをいれてくれてはいるが。
「でも私とあんたには語り得ない力の差があるじゃないか。どうしたらそれを埋められる? あんたが打ってこなかったらからよかったものの、これが本当の闘いなら私はもう死んでいる!」
スミスと大家さんは一瞬顔を見合わせて、そして笑った。
「どうしてだと思う?」
一撃の速さ、重さ、打突の部位、考えはいくつか浮かぶ。
私とスミスとでは体格からして雲泥の差がある。それを埋めるには相手より速く、重く、そして的確な技が必要になると思ったのだが。
「ま、時間はたっぷりある。もういっちょいってみようかぁ」
考えて分からなければ体で感じるしかない。脳筋といわれようがそれがベスト。私は再びスミスにむかっていった。
「はあ、はあ……」
その後一日ずっとスミスとの組み手を続けていたが、手応えを得ることはできなかった。
いつの間にか日は西へ傾き、時間の経過を感じさせられた。遊んでいた子供たちも家族連れもとうにいなくなり、公園に物寂しいムードが立ち込めていた。
私には収用所の厳しい訓練に耐えてきたという自負がある。しかし外にはそれだけでは通用しない実力者がいるということか。
「ヤギシフの新戦力は多分ボクよりもずうっと強いよぉ。ハカナちゃん、まずはボクをスパーリングパートナーとしてレベルアップしてほしいんだぁ」
それはそうだ。スミスにダメージを与えられないようではあいつらに勝つことは叶わないだろう。
ベンチに腰かけてコーヒーを飲んでいた大家さんが特訓が終わったとみてこちらへ歩いてきた。
「もう遅いし帰ろうか。今日は青野さんが夕飯を作ってくれるってさ」
私が作ってもいいのになぜか遠慮されてしまう。何故だろう。




