余波
警察とのやりとりを終え足名稚さんの車で帰路につく。エリオットとフクイが新たな乗客となった以外の変化はない。
夜中でもさすが都会は道が混んでいる。
さて、目標からいえば私たちの初陣はうまくいったということになる。しかし敵の強さは思っていた以上だ。私はともかくエリオットでも時間稼ぎがやっととなると、かなり分が悪い戦いになってしまう。
「エリオットくん。やっぱりあれはヤギシフの新戦力だったのかい?」
「間違いないです。ただ、奴と一緒にいたスーツ男は……」
エリオットが大家さんに何事か耳打ちした。何かあるのだろうか。まあ無理に聞こうとは思わないが。
「とりあエずお二人が無事でヨかったデす。人間は体ガ最大の資本ですカらね」
汗を拭きながら9秒メシを吸い込むマー。なぜ何もしていない彼女がやり遂げた感を出しているのかは不明だ。知りたくもないが。
さらに私に絡もうとするマーをシートの隅に押しのける青野。
「戦えない俺が言うのはアレだけどさ、あんたとハカナだけでさっきみたいなのを相手取るのは厳しいと思う」
まったくもってその通りだ。それにしても先ほどから黙っていたので存在を忘れかけていた。
当のエリオットにムッとした様子はない。
「俺もそう思うさ。でも今は時間稼ぎをしつつ敵の情報を集められればそれでいい。それにそろそろ他の三つの勢力も動き出す頃だろ」
潰し合いが始まればつけ入る隙ができるという。それはそうだろう。
「アンザイ、トクナガ、サイオンジがか? ここまで知らぬ存ぜぬに徹していた奴らだぞ」
「俺らが介入したことが分かれば奴らもそれに乗じて動くだろってことだ。こっちの世界は人情じゃなくて打算なんだよ」
難しいことは分からないが、今回の成功は思ったより大きな意味を持つようだ。
「ハカナちゃん。本当にいいのかい? 今回はうまくいったからよかったものの、敵はどんどん本気になってくるはずだよ。何かあってからじゃ……」
大家さんの心配はありがたい。けども。
「私はどうしてもあいつらが許せない。もちろん、自分の命を粗末にする気はないが刺し違える覚悟はある」
静まりかえる車内。マーがヒュウと口笛を吹いた。こら、せっかくの雰囲気をぶち壊すんじゃない。
大家さんがうんうんと頷く。
「よし。そこまで言うなら私も全面的にバックアップするよ。とりあえずインストラクターが必要かな……」
なんだそれ。新しい耕運機か?
とにかく敵の強さは予想以上。だからこそこっちも手を尽くすべきだし、そうするつもりだ。私もできることをしなければいけない。
話しているとあっという間に時間が経つ。体感では行きの半分くらいでマンションが見えてきた。
あれこれ考えるのは苦手だ。そこは大人に任せておけばいい。
今の私は夕飯の続きと熱いシャワーが恋しい。




