共同
大家さんの車はある一軒屋の近くで停車した。絵に描いたような豪邸だ。おそらく重役の住まいなのだろう。
近くにはあまり家が建っておらず通行人もいない。敵からすれば狙いやすいに違いない。
「こんな時間にすまない。おそらく次のターゲットはここの住人だ」
先に来ていたエリオットが車に乗ってきた。黒いコートにサングラスとなかなかの不審者っぷりだ。
奥につめる青野。なぜかエリオットに近づきたくないようだ。
「どうしてここんちだと分かったんだ? ここはヤギシフ本社からも離れてるぞ」
まあエリオットは元御庭番衆だしそのあたりの情報は入ってくるのだろうが。
「こっちのスジだ。ここにはサイオンジの役員が一人で住んでいる。それよりこの一連の事件なんだがな。ヤギシフのルーキーの仕業らしいって話はしたよな? どうやらそいつはとんでもなくヤバイやつらしい」
流された青野は口をパクパクしている。
「ヤバいというと?」
「俺たち御庭番衆はその能力の強さによってランク付けされている。基本的にはAクラスが一番強いとされているんだ」
タブレット端末に図を表示させてこちらに見せるエリオット。Aのアルファベットとともに漫画風なデフォルメエリオットが表示されている。
「でもその上もいる。メガエネルギーを摂取したやつらの中にはごくごくまれにバケモノみたいになっちまうのもいるんだ」
「あなタも十分にバケモノじミていルと思イまぐふ……」
やかましいのでマーに肘をいれた。
続いてSのアルファベットがタブレットに表示された。Aの上のランクということなのだろう。
再びデフォルメされた人物がいるようだが今度は誰なのか分からない。
「このランクになると俺みたいなAクラスが束になっても勝てない。昔本社に攻めてきた奴と戦ったことがあるが、その時は」
「静かに!」
突然大家さんがその場の皆を制した。ターゲット家の門の前に二人組が現れたのだ。
片方はスーツ。もう片方は黒いレインコートを着ている。顔を隠しているし、ピザのデリバリーなどではないことは間違いない。
エリオットの情報スジは正確だったようだ。
「あいつらか……? ていうか二人なんだな」
足名稚さんが囁く。私も単独犯だとばかり。
「このままやらせるわけにはいかねぇ。ここは俺が奴らを引き付ける。斎藤さんたち、手筈通りにおねがいします」
「わかった。気をつけてな」
ちょっと待ったとばかりに私もエリオットと車を降りた。エリオットもその他の人たちも一瞬驚いた表情を見せたが、ここは私の意思を尊重してくれたようだ。
「ついてくるのはかまわんが俺が逃げろと言ったら逃げろよ?」
「もちろんだ」
私とエリオットは門の陰に隠れて二人を伺う。スーツの方がレインコートよりだいぶ背が高い。
端から見れば大したことはなさそうだが死体をバラバラにするような残忍極まりない連中だ。先ほどのSクラスの話もある。まともにやりあってはまずそうだ。
レインコートの方がインターホンを押した。ターゲットを玄関先で始末するつもりなのだろう。
「敵は俺に任せろ。ターゲットの保護を頼む」
当然の分担。私は頷いた。
「よし、いくぞ!」
エリオットが二人の背後に躍り出る。私もそれに続いた。




