春節
「もちろん」
私はエリオットの手をとった。残りのメンバーにも何か思うところがあるのだろうしそこは私がとやかく言うことではない。
「よし、ならば話が早い。すぐにでも東京に乗り込んでそいつをなんとかしよう」
張り切るエリオット。
「いやいや、まさか東京中のアンザイやらトクナガやらの社員を見張るって言わないよな? ここにいる全員でかかっても無理だぞ」
青野の指摘はもっともだ。
「それなら問題ないよ」
フクイがレジュメを出して皆に見せる。
そこにはこれまでの被害者の分布が記されていた。
「なるほど……」
頷く大家さん。ヤギシフ本社付近に集中していることに気がついたようだ。
「つまり本社付近に家がある社員を見張るということだね?」
「そういうことです」
作戦は分かった。でももうひとつ問題がある。
「その犯人を見つけたとして、そいつは御庭番衆。捕縛ないし撃退できるのか?」
足名稚さんはただのサラリーマン。異能の連中とやり合うのは厳しいだろう。というかここにいる者のほとんどが一般ピープルだ。
「いや。退治できるのが理想だがあくまでも事件を止めるのが目的だ。うまく警察を呼んで関知してもらえればそれでいいんだ」
いくらヤギシフが警察に対しアドバンテージを持っていたとしても騒がれれば作戦を中止せざるをえない。たしかにそうだ。
「よし。それなら私とハカナちゃんと青野さんと、あとマーさんはすぐに東京へ向かおう」
「あの、俺は?」
隅っこで小さくなっていた三木が久し振りに発言した。
「三木くんは四月から高校生だろ。それに色々あって前田荘を空けるわけにはいかない。松風親子と留学生コンビの四人と一緒にここを守ってほしいんだ」
わかりました、と三木。物分かりがよくて助かる。
「斎藤さん、今からなら特急を手配できます。浅草まで四人分とっておきますね」
何故かエリオットは大家さんに対して恭しい。青野や足名稚さんには横柄なのに。
「じゃあすぐに動こう。足名稚さんは明日会議が終わり次第合流してもらうということでいいかな?」
さすが大家さん。テキパキと段取りを決めていく。
でも分からない。明確な恨みを持つ私はともかくなぜ他の皆は対ヤギシフ作戦に協力するのだろうか。
「ヤっトですか。腕がなりマすね」
「いやぁ、どれだけ待ったことか!」
張り切るマーと松風監督。この機会を以前から待ち望んでいたのだろう。松風は留守番なのだが。
再びの東京。やっとできた好機を逃すわけにはいかない。今度はこちらからヤギシフに仕掛けてやる。




