同胞
そして迎えた朝食。私は食卓の隅に陣取っている。
「さあさあみんな、今日は新しい入居者が来た記念すべき日だ」
どことなく楽しそうな大家さん。エプロンをつけているところから食事は彼が作ったのだろう。
「さっそく紹介しよう。ハカナさんだ」
あだ名としてはそれでいいのだが本名として紹介されると未だに違和感がある。とはいえ、ここは従う他ない。私は頭を下げた。
「じゃあ我々も自己紹介だ。222号室の青野さんから部屋順に頼むよ」
私はさっきやったからと大家さん。真っ白なシャツを着た若い男に挨拶を促す。年の頃は私よりおそらく五つ以上先をゆくと思われる。どこかで見た顔のような気がするが気のせいだろう。
律儀に起立する。
「俺は青野剛志。科学と菜園が好きなナイスガイだ。よろしく」
青野(なんとなくさんづけする気になれない)は得意気に挨拶し次にパス。
次は私より年下の少年。膝くらいの短パンに涼しそうなシャツを着ている。
「三木孝介です。中学生してまーす」
「ここには一人でいるのか?」
余計なお世話かもしれないが気になってしまった。三木はちゃうちゃうとジェスチャー。
三木は表情ひとつ変えずに答える。
「お父さんとお母さんは海外で仕事してるんだ。それにみんないるから一人じゃないしさ」
こいつも親がそばにいないのか。私は不思議とシンパシーを感じた。
続いては中年男性。微かに整髪料の薫りが漂う。
「足名稚煙人だ。よろしくな」
なぜか握手を求められた。とにかく簡潔の一言に尽きる。
「ハカナサんハカナさン」
また一人。フードで顔を隠している女性。物凄く怪しい。顔を見られたくない事情というとあまり愉快でない理由しか浮かばない。
「私はマー。世界をまタにかケるマーチャントでス。いい儲け話があッたら教えテくださイね」
私の肩をぐいと掴んで訴えてくる。本州にやっと入った私に何を要求するというのか。
「は、はぁ……」
男性陣はまともだったがいきなりキワモノがぶちこまれてきた。
「こらこらマー。新入りさんを脅かしちゃいかんだろう」
立派な髭の熊親父がマーを横にちょいと除ける。
「わしは松風検索。映画監督をしている。よろしく」
私は映画というものを話でしか聞いたことはないが、その監督というからにはそれなりに偉いのだろう。
監督に続いて席を立った二人。金髪と赤毛のカップルだ。
「わたぁしはぁ、夏瀬・サンタモニカでぇす。よろしくおねがしまぁす」
「ぼぉくは、宇井・エゴスバラでっすぅ。モニーの彼ぇ氏だぁです。よろっすくでぇす」
「よ、よろしく……」
私より年上のはずなのにどうも話していて脱力してしまう。日本語も上手いのかそうでもないのか。
とりあえず222号室から777号室までの七人が挨拶をしたことになる。
「みんないい人たちだからきっとうまくやっていけるよ。」
2009年夏、前田荘において新しい生活が始まった。




