邂逅
心地よい震動に揺られることおよそ一時間半。急カーブを描いたのち列車はある駅に到着した。エリオットからここで降りるよう言われている。
「ここか……」
ホームからは整備された河原と山の頂上の神社が見える。数時間前までいた東京と比べるとだいぶのどかだ。
話によると下の改札で誰かが私を待っているようだ。あまり待たせるのはよくないだろう。
改札と再びの格闘を繰り広げなんとか突破。すると、目の前に白髪混じりの男性が現れた。年の頃は六十歳くらいだろうか。渋い着流しを着用している。
「君が儚ちゃんだね。私は斎藤秀。話はエリオットくんたちから聞いているよ。さあ、行こうか」
私についてくるよう促す。残念ながら私はカモの子どもではないので疑問をぶつけねばならない。
「ちょっと待って。あなたは何者だ? エリオットとはどういう関係なんだ? 私をこれからどうするつもりだ?」
一瞬驚いた顔をした斎藤だが、すぐに真顔になった。
「うーん。ここで話すのもアレだから。こっちからも色々話があるしとりあえず家へ行こう」
「……」
私は警戒心が強いほうだと自負しているが、この男にはなぜかそれが起きない。第六感がこの人物を味方だと判断したのだろうか。
「わかった」
ここは従うしかない。
シルバーのワゴン車に乗せられ大通りを突っ切る。朝早いせいか車はさほど通っていない。
「あそこに見える堀に囲まれた藁葺きの建物は?」
「あぁ、あれはね――――」
教科書にも載っているこの国最古の学校だそうだ。嘘臭いが本当なのだろうか。
そんなこんなであっという間に目的地に到着。他の家よりだいぶ大きな建物だ。車から降りるときタクシーのようにドアが勝手に開くのを待っていたのは内緒。
「ここが前田荘。儚ちゃんの新しい家だ」
建物を前に胸を張っている。
「斎藤さんはここに一人で住んでいるのか?」
「まさかまさか。私一人には少々広すぎるよ。みんなで住んでいるんだ」
彼の話によるとこのような形態の建物をアパートというらしい。
「ま。立ち話もなんだ。中へどうぞ」
促されるまま私は中へ。ひとつの家ではなくてたくさんの部屋が中に含まれる構造のようだ。
「私はこの前田荘の大家をしているんだ」
「大家……」
「早い話がボスってこと」
何が面白いのかいたずらっぽく笑った。
「ちょうど今111号室が空いてるからそこを使ってくれ」
「え? この部屋まるごと私が使っていいのか!?」
いくらなんでも太っ腹すぎやしないか。
「もちろん。家賃は先にもらってあるから気にしなくていいよ」
案内された111号室はとても快適な空間だった。ここを私が占拠していいらしい。
収容所では何人も詰め込まれての雑魚寝だったものでなんとも驚きだ。外の世界は予想以上に広い。
「そういうことなら使わせてもらう。申し訳ないな」
「いえいえ。朝ごはんの時間になったらまた来るからそれまで部屋を堪能しててくれ」
畏まる私を面白そうに眺める彼。満足げに頷いて部屋を去ろうとしたが、ふと振り返った。
「言い忘れてた」
何のことだろう。うら若き乙女に何を求めるというのか。私は体育座りで膝を抱えた。
「いらっしゃい。待ってたよ」
斎藤、いや大家さんはニカッと笑った。




