逃亡
久しぶりに外気に触れた。情けないが今の私に残された選択肢は逃げる、ただそれだけだ。
私を行かせるため先に倒れた二人の思いを無駄にはできない。
素足にまとわりつく砂や草を蹴散らし走る。チクチクと刺すような痛みとともに指の間から血が滲む。だが今はそんなことにかまっていられない。
とにかく浜だ。外部の連中が乗ってきたボートを拝借して本州へ渡る。当面の目標はそれだ。大抵の乗り物の操縦ならとうに仕込まれている。多分いけるはずだ。
三十分ほど走り、森へ入った。前回は逆方向の入江を目指したが今回は違う。船を寄せられる島の南側を目指さねば。
もちろん船があってもヤギシフとかいう組織の誰かがそこにいたら終わりだ。ことには慎重にあたらなければならない。
私がうまくやらなければ全てが水泡と帰してしまうのだから。
そんなことを考えつつ走っていると突然何者かが茂みから目の前に飛び出してきた。
「誰だ!」
私は叫ぶ。派遣された見張りだろうか。収用所から脱走の知らせを受けていてもなんらおかしくはない。
「ま、待ってよ……」
しかしそいつは弱々しく呟き、戦闘の構えをとる私に対し腕をXに組んだ。アンドレア十字か?
「おお。やっぱりここだったか」
そんな私の前に新手が現れる。暗くて顔が分からない。ここはとりあえず――――。
私が動くより先に、誤解はたまらないとシルエットだった二人が月明かりのもとで正体を露にした。数日ぶりの子どもと中年のコンビ。
「おいおい、俺だよ。エリオットだって」
「は、ははは……」
途端に私は脱力しその場にへたりこんだ。エリオットとフクイが私を助け起こす。
良かった。今唯一頼れる味方だ。
「俺たちはわけあってこの島に留まってたんだ。収用所で何があった?」
「今は一人なの?」
二人の問いに先ほどまで見ていた凄惨な光景が鮮明に蘇る。
突然の強襲。憑依の能力者。誘い込まれた箱罠。軟体。そして殺人。血の海。鉄の雨に撃たれるいっちゃん。最後まで私を逃がそうとしたアイ。
駄目だ。言葉にならない。
「うぇっ、うぅっうぁぁ!」
感情が高ぶり泣き出す私を抱き止めるエリオット。
「すまん、聞くだけ野暮だったな。でももう大丈夫だ。島を出よう」
「わらひはぁっ! ふぁひはっ! なひもはほれなかっ!」
私は、私は、何も守れなかった。
私の背中をポンポンと叩くエリオット。岩のようにゴツゴツとした手だが、なぜか安心する。
「とにかく無事でよかった。さあ、行こう」
「エリオットさん。寝ちゃってるよ」
エリオットの腕のなかでいつしか私は眠っていた。




