別離
いち、にの、さん。
「じゃあ、いくね」
運命のカウントとともにどこか寂しそうな笑みを浮かべたいっちゃん。
一瞬の瞑想で再び暴走モードとなり私達のまわりの敵に襲い掛かった。
「グガァァァ!」
その姿はさながら鬼神。彼女が手を振り上げるたびに血の飛沫が飛び交う。
「うわぁぁぁ!」
ある者はとって投げられある者は腹を抉られ倒れ伏す。力に差がありすぎる。
今気がついたがいっちゃんは自力で暴走モードへ移行できるようだ。
「今だ! 行くぞ!」
私はアイの手を引いて走り出す。
「逃がすな! 手足の数本は構わん、捕まえろ!」
背後から所長がゲキを飛ばす。
「クカカ!」
いっちゃんが敵の一人の胸を文字通り鷲掴みにした。その手は血で真っ赤に染まっている。
外へ出るにはまず入った方向から反対、講堂の向こうの廊下に出なければならない。
置いてあるパイプ椅子を蹴り飛ばし走る。敵のほとんどはいっちゃんで精一杯なのでこちらを追ってくるのは数人程度。全く問題ない。
「待て!」
私とアイの前にも敵が立ち塞がったが、統率を失い狼狽えている者など怖くもなんともない。
「アイ、いけるか?」
「おう!」
二正面攻撃でなんとかねじ伏せた。
私達は講堂から外へ続く廊下へ。後はいっちゃんが来ればミッションコンプリートだ。
講堂ではいっちゃんによる殺戮劇が繰り広げられていた。血の池と化した一帯で彼女は絶対的強者として君臨している。
「いっちゃん! もういい! はやく来るんだ!」
いっちゃんはこっちを見たが私の言葉が届いていないようだ。
「なあ、あいつまさか……」
何か言いたいことがあるようだ。私はアイに向き直った。
「もしかして暴走モードになれても自力で元に戻れないんじゃないか?」
確かにアイの言う通りかもしれない。最初から私達を逃がすつもりだったということか。
「だとしたら……」
血の池の生存者、難を逃れた何人かが状況の打開を図った。
「ええい、このままではかなわん! D-20を撃て!」
一人の人間を倒すには十分過ぎる銃撃。
振り返った私が見たのはもんどりうって倒れるいっちゃんだった。
「いっちゃん!」
引き返そうとする私をアイが止める。
「行くな! あいつがなんのために囮を引き受けたか分からないのか!?」
「離せ!」
アイを振りほどこうとする私の後頭部に突然固いものが当てられる。
「甘いな、実に甘い」
胸から血を流した敵の一人が私に銃を突きつけている。血の量と顔色から察するに彼はすでに死んでいる。所長が憑依しているのだろう。死体だからか気配がしなかった。
「H-14。ここに残りさえすればキミもD-20もヤギシフの次世代エースになれるんだ。何故そうしない?」
「言った筈だ、私は一人の人間として生きる。いっちゃんだってこのアイだってそうだ」
所長はそんな私とアイを嘲笑う。
「兵器として育った者にそんな未来などあるものか。大体それは――――」
「黙れ!」
一瞬の隙をついてアイが所長に殴りかかった。そのまま取っ組み合う。
「今だ! ここは俺がなんとかするから早く行け!」
アイが所長の顔をタコ殴りにする。先に倒れたいっちゃんに続いて時間を稼ぐつもりのようだ。
「このガキ! どけ!」
押し倒されながらもアイの腹に発砲する所長。血を吐くアイ。
「アイ……」
「聞こえないのか! はやく、ごほっ……」
「……!」
私は地上への扉を開き外へ飛び出した。ふと目頭を触ったが涙は出ていなかった。兵器として育った者というのも強ち間違いではないのかもしれない。




