事実
「えっ。ハカナって……」
いっちゃんにアイ、フクイもこちらも見つめる。たしかにハカナハカナと言われていることは確かではあるな。
「まさか。嬢ちゃんがあの時の儚か? 言われてみれば刹那さんと永劫さんに似てるような……」
エリオットは食い入るように私を見つめるが、もちろんハカナは本名ではない。
「違う違う、待ってくれ。ハカナはあだ名。私は『H-20-Akana』だ」
最初のHとあとのAkanaを繋げた簡単なもの。いっちゃんによる。
「じゃあアカナとやら。いつ頃ここの収容所に来た?」
「はっきりと覚えてない。物心つく頃にはここにいた」
燃える家と救世主の話をしようかと思ったがやめた。そもそもこのエリオットについての情報が少なすぎる。
よく考えれば御庭番衆とかいう連中も怪しい。フクイはへたれっぽいが、ようは法を越えた組織。命を救ってもらった恩はあるが素性の知れない相手をおいそれと信用するほど私は甘かない。
「そうだ。ちょうど二人の写真持ってるぞ。それを見れば思い出すんじゃねーの?」
かつて教官に見せてもらった両親の写真。若い男女が幸せそうに写っていた。頭をよぎる。
「ちょっと待ってな。ほい、これこれ」
エリオットから手渡された角が折れた写真。あの日教官から見せてもらったものと同じだった。
カメラに向かってピースサインを決め、ニカッと笑う男性と恥ずかしそうに微笑む女性。話に聞いている私の両親だ。
「どうだい? この写真は俺が撮ったんだぜ」
叫びたいほどの狂おしく懐かしい気持ち。でも、ここで認めてはいけない。そんな気がした。
気がつけばいっちゃんが写真を手に取り眺めている。いつの間にか引ったくられた。
「あっ! この男の人超かっこいい!」
「この人こそすっげぇ美人だぞ!」
いっちゃんとアイがはしゃぐ。
高鳴る鼓動を誤魔化しつつ答える。
「うーん。ちょっとわからないな」
エリオットは訝しげに私を見つめた。おそらく彼の推測は正しいのだろう。
「そうか。しょうがない。他を探すかな」
罪悪感はあるがよく分からない相手に情報をさらけ出すわけにもいかない。この数日まで島内部のことしか分からなかった私にとっては当たり前の反応だ。
しかし、刹那と永劫という教官ですら知らなかった名前を知っているということはやはりある程度の親交はあったのだろうか。
なんだか頭がぐちゃぐちゃする。ともあれエリオットは他の三人と談笑しているし、この話はこれで終わったということだろう。
収容所の食事の話題になったので私も混ざることにする。
話しながら歩いていると時間を感じないものだ。あっという間に収容所が見えてきた。
「じゃあここでお別れだ。フクイが世話になったな」
「お礼を言うのはこっちです。ありがとうございました」
「二人ともまた会おうね!」
手を振る私達を尻目に、エリオットはフクイを伴い森の中へ消えていった。嘘をついたことが気になるがここは仕方ない。
「私達も帰るか」
完璧ではなくてもここが私達の家だ。
「そうだね」
「そうだな」
色々とまとめるのもアレなくらい色々あったが、私達はなんとか死線を越えることができた。ほとんどエリオットのおかげで。
そのエリオットがなぜ私を探していたかなんてどうでもいい。今はとにかく部屋の簡易ベッドが恋しい。
しばらくは命を懸けることのない訓練に励みたいと願うばかり。




