音波
「これで全員か」
隠れ家のすぐ外の入江。
私たちは万歳の状態で並ばされた。まな板の上の鯉とはまさにこのことだ。
「悪いがここで死んでもらうぞ」
銃が向けられる。これはもう逃げようがない。
多少暴れたところで飛び道具持ちが相手ではお察しだ。
ここは少しでも時間を稼がねば。
「ちょっ、待て! 他に外に逃げたやつらがたくさんいたはずだ。そいつらはどうなった?」
いっちゃんはべそをかいているし、アイは何かを悟ってしまった。ここは私がなんとかするべきだししないといけない。
「おっ? 命乞いか。一人残らずと思ったが、何人か逃げられちまった。実は死線越えはもう終わってるんだ。お前らも収容所に戻りさえすれば生き残った連中に会えたのにな」
収容所から距離をとったのが裏目に出たか。フクイを介抱していたので仕方ないことではあるが。
「まあ恨むならミコトさまを恨むんだな」
残念ながらミコトさまに心当たりはない。私は無神論者だ。
奴らは銃に指をかける。銃口の先には失神したフクイ。いかん。
「撃つなら私からにしろ!」
私だって体に風穴は欲しくないが、フクイの前に進み出る。そもそも収容所の人間ではないのだから彼が撃たれるのはおかしい。
「そうか。いい心がけだな。じゃ、グッバイ」
その時。
「ちょっと待ってくれよ」
突然脇の茂みから不審者が現れた。アロハシャツにサングラス。怪しいことこの上ない。
珍乱入に戸惑う一同。
「何者だ? 邪魔をするな!」
「いやいや、邪魔しに来たんだって」
こいつ、死にたいのか。
「あんた、早く逃げろ!」
関係ない者をこれ以上巻き込むわけにはいかない。
「嬢ちゃん。人の心配してる場合か?」
「黙れ!」
五つの拳銃が不審者を狙う。
「まあ、撃たれたくはないわな。ほいっと」
不審者が手で何かを払いのける仕草をする。
「ぐあああああああ!」
すると突然悶え苦しむ五人。とてつもない頭痛に苛まれているようだ。
あっという間に白目を剥いて倒れてしまった。
待てよ? 頭痛……。
「あの時の……」
ニヤリと笑う不審者。
「そ。あの晩嬢ちゃんと坊っちゃんを助けたのはこの俺。エリオットだ」
エリオット。フクイが話してた相方か。
「色々話がしたい。とりあえずここを離れよう」
冷静になったいっちゃん、悟りの世界から帰還したアイ、息を吹き返し再会を喜ぶフクイを引き連れとりあえず収容所へ向かうことにした。
「エリオットさん。どこにいたの?」
「どこってずっとあそこにいたぜ。いざって時に出てこうと思って」
つまりなんだ、このオヤジは思わせ振りなことをしておいてずっと私たちにくっついていたというのか。
「さっきのは何だ? フクイからは音波がどうのと聞いてたが」
大人に対してはこんな話し方になる。赦してくれ。
「俺の能力さ。能力といっても才能じゃない。ポテンシャルと言ったほうがいいだろうな」
なるほど、わからん。
「そういえばエリオットさん」
いっちゃんが尋ねる。
「この島で人を探してるんだよね?」
「誰のことなんですか? 収容所にいる俺らなら知ってるかも」
いっちゃんもアイも助けてもらった以上、協力は惜しまないということらしい。
「実はな、俺が昔同じチームで世話になってた先輩の子どもがこの収容所にいるらしいんだ」
「えっ、ここにいるのはみんな身元がわからない子たちなんだよ!?」
いっちゃんだけではない。これには私もびっくりだ。ツッコみたいが話の腰を折るのはよろしくないので流す。
「それは俺も知ってる。でもこれは確かなことなんだ。その子を最後に見たのはまだ赤ん坊のころなんだけどな? 無事成長してるとしたら、今ごろ嬢ちゃんたちくらいかな」
御庭番衆とやらでチームを組んでいた先輩の子ども。私たちからすれば遠い世界の話だ。
「それで、その子の名前は?」
「ハカナ。朝霧刹那と朝霧永劫との間に生まれた朝霧儚だ」




