窮鼠
いっちゃんが見張りに出た。私は思案に暮れる。
森で私とアイがさらわれかけたあの時。助けてくれたのはおそらくエリオットとやらで間違いない。どうやら彼は敵ではないようだしすぐに合流したいところだ。
人探しはどうでもいいが大人の協力者は何よりも欲しい。
「それにしてもどのあたりまで一緒だったんだ? 一緒に行動してたんだろ?」
アイが尋ねる。
「多分倒れてたとこだと思う。エリオットさんはちょうど用を足してたんだ。その間にうろうろしてたら襲撃に巻き込まれて気絶しちゃったんだ……」
トイレ休憩の合間にはぐれた。これは初歩的なだけにありがちだ。
「むこうもボクを探してるはずなんだけどなぁ」
私たちを助けてくれたのは多分フクイがさらわれていると勘違いしたからだろう。人違いとはいえ命拾いした。
「そういえばお前もその、御庭番衆なんだろ? なんか能力とかないのか?」
心なしかアイが目をキラキラさせている。そういうところに興味関心を示すあたり、健全だ。
「うーん、なくはないんだけどね。ハカナちゃん、ちょっと手を出して」
私が差し出した手にフクイが掌を重ねる。
「えいっ!」
「きゃっ」
静電気……ビリっときたが、だから何? というレベルだ。これではたしかに雑用なのも仕方ないのかもしれない。
電気人間といえば聞こえはいいが、そんなことをいってしまえば私だって乾燥する時期は即席御庭番衆。無理があるがな。
とにかくエリオットを頼るしかない。ここにいてもいつまでも安全とは限らないし、死線越えがいつまで続くのかも全くわからない。
考えている暇はないようだ。
「ね、ねぇ! 大変だよ!」
先ほどから外の様子を伺っていたいっちゃんが戻ってきた。真っ青な顔。
「ここ包囲されてるよ!」
外を覗くとかなり近くにマスクがずらり。敵は五人。私とアイの二正面攻撃で一人すら相手取ることができなかった相手だ。森で仲間たちを殺った奴もなかにはいるのだろう。
一人がメガホンを手に取る。
「そこにいるのは分かっているぞ。観念して出てこい。命だけは助けてやる」
声に聞き覚えがある。私とアイを襲った奴だ。
しかし命というのは嘘だ。残りの四人は拳銃を構えている。出ていけば風穴をプレゼントされるにちがいない。ハト派の奴、気が変わったのか。
「ハカナちゃん。どうしよう……」
「ここに隠れてても無駄みたいだぞ」
いっちゃんとアイはこの世の終わりといった表情を浮かべている。
「こうなったら出ていくしかない。三人とも、行くぞ」
「そのいくぞって『逝くぞ』じゃないの~?」
フクイの泣き言など構ってられるか。
私、いっちゃん、アイに首根っこを掴まれたフクイの順番で敵の前に体を晒す。私は税金を納めてはいないが年貢を納める時期が来たみたいだな。




