能力
フクイの話は気になるが、今はとにかく生き残ることを考えなければ。森に逃げ込んだなかで無事なのはおそらく私達だけだろう。
「とりあえずご飯にしようよ。みんなお腹すいてるでしょ?」
気がつけばもう夕方。いっちゃんの提案によって食事の準備と相成った。どことなく彼女からは家庭的なオーラを感じる。
「よし、俺が魚でも釣ってくるよ」
アイは即席釣竿を持って岩場に向かった。つくづく真面目なやつだ。
その間にいっちゃんは私が採ってきた山菜を洗い、フクイは枝で火を起こす。一方私は夕飯作りに参加させてもらえない。大車輪の働きを見せている私に対して、皆気を遣ってくれているのだろう。
そんなことはどうでもいい。今回は山菜、魚、フクイが持っていたクラッカーといつもより多少豪華な夕食となった。
「明日からは森に近づかないほうがいいな。鷹派の奴らがウヨウヨしてるだろうし、生存者を探す余裕ももうない」
アイの意見はもっともだ。いつまで続くか分からない死線越えにおいて、もはや他人の心配などしていられない。
「ほうはね。ほふほほうほほうよ」
フクイも魚を頬張りつつ同意する。見た目通り幼い。
「しかし、あんたの連れのエリオットさんとやらはどこだろうな?」
彼は知っている側の人間らしいし、会えれば何かしらの有益な情報を得られるはずだ。死線越えのこと、この収容所のことなど聞きたいことは山ほどある。
「わかんない。能力があるからやられちゃってるはずはないと思うけど……」
骨を吐き出したフクイはさほどエリオットとやらを心配していないようだ。
それにしても能力というのが気になる。
「ああ、能力ってのはメガエネルギーをたくさん飲むと目覚めるポテンシャルのことだよ」
こいつくらいの年のやつがポテンシャルなどという単語を使うのはどこかシュール。彼の話をまとめると、メガエネルギーを飲むと人によって異なる能力が目覚めるというのだ。
「すげぇなそれ」
アイは興味津々。男子ってやつはこれだから……
「それで? エリオットとやらはどんな能力をもってるんだ?」
フクイは自慢げに答える。
「音波を操る力だって。頭痛をおこさせたりするのも朝飯前って言ってたよ」
頭痛をおこさせる。そのフレーズが頭にひっかかる。昨日アイとスーツにさらわれかけた時。確かに奴は頭を抱えて倒れた。しかも私はそこから立ち去る影も目撃している。
「フクイ。エリオットとやらには案外すぐ会えるかもしれないぞ」
今回ばかりは私の読みを信じてもらいたい。




