疑問
「大丈夫、気絶はしてるがかすり傷に毛が生えたようなもんだ。怪我は大きくない」
入り江の洞窟に運びこまれたチビを診てアイは言った。こいつは医学の講義を取っていたらしく、こういった状況に慣れているらしい。私も取っておけばよかったかもしれないな。
チビには即席の枕と布団が用意され、安静状態。アイが手先が器用なやつで本当に助かった。
「そっかぁ。腰のところを何発かかすってるけど、血はさほど出てないしすぐに元気になりそうだね」
いっちゃんも胸をなでおろす。あれほど騒いでいたのが私だけのようで少々恥ずかしい。まぁ、死体と共に倒れていたとおう状況をふまえれば最悪のケースを考えるのも当然。
「それで、ハカナ。他に生存者はいそうか?」
アイが私に問う。先ほど見た死体の群れが脳内に鮮明に蘇ってくる。
「なんとも言えないが望みは薄いな。このチビだって運良く助かったにすぎないだろうし、鷹派の連中は思ったより手がはやい」
あまりこんなことは言いたくないが現実を見なくては。私達は生き延びねばならないのだ。
「そうか……なら生存者探しはもうやめた方がいいな。森の中を動きまわるのはあまりにも危険だ」
アイの言う通りだろうな。一歩間違えば私も三途行きだ。
「それにしてもさ」
アイにはもうひとつ気になる点があるらしい。
「二人ともこいつを見たことあるか?」
「ない、と思う……」
いっちゃんは自信なさげに答えたが、私も同じことを考えていた。こいつは収容所の者ではない。アイも不思議に感じたならおそらく間違いない。毎朝全員の顔を何年も見続けていれば嫌でも覚えるというものだ。
「あれ? これなんだろ」
いっちゃんがチビのズボンのポケットに入っている紙片に気がついた。折り畳まれたレポート用紙だ。
「んと、『ヤギシフ御庭番衆養成矢形島収容所』。だって」
この島の名が矢形島というのは前から知っていたがヤギシフ、御庭番衆と知らない単語がある。
「多分これって俺らのいる収容所のことだよな」
それで間違いないだろう。いっちゃんもうんうんと頷いている。
「裏にも書いてあるよ。『死線越えによる淘汰でメガエネルギーにふさわしい人材を把握する。あの永劫と刹那の娘は恐らく生き残る。訓練終了後すぐに本社に送るように』」
さっぱり分からない。メガエネルギー、刹那、永劫。重要な何かである気もするが、頭がそのことを考えるのをなんとなく拒んでいるようだ。
あとはなぜこのチビがその紙片を持ち歩いていたかだ。ひょっとすると何か貴重な情報を持っているのかもしれない。
「死線越えって結局何なんだ……?」
頭を捻る私達。その時だ。
「う……」
タイミングよくチビが息を吹き返した。
「おい、大丈夫か?」
「お前は誰だ? どこから来た?」
「果物でも食べる?」
私達は三者三様の言葉を発しつつ彼の枕元に集まった。




