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刹那と永劫の狭間に  作者: 吉岡 澪
二人の少女
31/72

晩餐

 お互いに肩を貸しあって歩く。早く戻らないとさっきの奴がいつ追ってくるか分からない。この死線越えが終わるまであのままでいてくれればありがたいのだが。


 無言で歩き続けるというのも結構堪える。口をきいている暇はないので仕方なかったのだが。


 そんなこんなでやっと森を抜けることができた。火を起こそうとするいっちゃんが小さく見えてきた。

 野草採りのはずが、ちょっとした危機を迎えることとなる。人生とは奥が深い。




「あっ、ハカナちゃんおかえり。アザだらけだけど大丈夫?」


 ボロ雑巾となって、入り江に戻った私達をいっちゃんが迎えてくれた。それにしても呑気なものだ。


「あぁ、なんとかな」


「あれ? その人は誰?」

 そういえばまだ彼とはろくに話をしていない。名前(識別コード)も聞いていない。


 私は彼の回復具合をみて話すように促した。

「こんな時で悪いが話を聞かせてもらってもいいか?」


 彼は頷いて語った。よく見れば私達と同年代のようだ。

「俺はI-22。あんたらとは別の組だ。森に逃げたはいいがさっきのやつに見つかってボコられちまった」


「えっと、収容所の外に逃げられた人は他にも多いの?」


 いっちゃんが身を乗り出して尋ねる。


「それはよく分からん。俺やあんたらのように外に逃げようとしたやつは多いだろうから、他にもいるとは思うが」


「そうか、明日あたり森を探してみよう。案外迷える子羊がいるかもしれない」


「ハカナちゃん、お腹空いちゃったし今はとにかくご飯にしようよ。アイくんもここにいなよ」


 彼の呼称がアイに決まった瞬間でもある。


「アイくん!? あ、ああ。そうしてもいいか?」

「こんな時は一人でも仲間が多い方がいい。大歓迎だ」


「面目ない。世話になるよ」


「よーし、ご飯にしようか!」


 そう言っていっちゃんが用意したのはシンプルな焼き魚。内臓がきちんと処理してあるのか怪しい。魚を釣ることができただけでもファインプレーと言うべきか。


「いただきます」

 早速パクついたが、味付けもへったくれもなく何より小骨が多くてしかたない。舌触りは砂。


「どう? 美味しい? デリシャス?」


「お、美味しい。なぁ、アイよ」

「そう、だな。こんな美味いもの収容所じゃ食ったことがない」

 アイが空気の読める男で安心した。連帯感とはこんなところから生まれるものだ。



 今思うと、私の料理熱はいっちゃんの残念料理がきっかけだったのかもしれないな。

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