要塞
古賀はタクシーから降り、とあるビルの前にやって来た。深夜にも関わらず光を放ち、凄まじい繁栄を思わせる。五十階建てのこの建物こそ彼の根城、ネット関係からのしあがってきた大企業ヤギシフ本社だ。
ライトアップはされているが、昼間なら大きく書いてある『株式会社ヤギシフ』の文字がもっとよく見えたことだろう。
エントランスの右手奥、関係者以外御法度の厳重なセキュリティをパスし、彼は高速エレベーターへ。上矢印のボタンを押して数秒後にオープン・ザ・セサミ。
中には先客がいた。最近はとんと見なくなったエレベーターガール。日によってまったく違う制服を着用しているのが特徴的。
「古賀さん。お疲れ様です。上で社長と会長がお待ちです」
最上階のボタンをプッシュしつつ古賀に話しかける。その声には抑揚が感じられない。
「今回は外れだったよ。ヤクの取引だってさ」
聞かれていないにも関わらず返しつつ肩をすくめる。あてがはずれたのだろう。
「そうですか」
淡白な対応。古賀はこのエレベーターガールが客の使うエレベーターにまわされない理由がなんとなく分かった。黙りこむ二人。その沈黙の間にもエレベーターは上昇を続ける。
既にお分かりかと思うがこの男、古賀雄一郎は普通のサラリーマンではない。彼はこの会社の社長直属の御庭番衆なのだ。御庭番衆とは社会にその存在を知られていない隠密件武力行使の集団で、現在世界でそれを持つ大企業はヤギシフを入れて四つある。
突然、エレベーターが止まる。体をくいっとひねられるような感覚。
「最上階、会長社長室です」
到着したようだ。
「古賀です。ただいま戻りました」
古賀はドアをノックし、ヤギシフの深奥へと入っていった。