試練
よく眠れぬまま当日を迎えた。
いつもの朝礼を終えたあと、教官が私たちを講堂に集めた。いよいよ死線越えが始まるらしい。いつもより物々しいムードだ。
よく見ればこの収用所の職員が勢揃いしている。それほどに重大な行事のようだ。いっちゃんの話もあながち的外れではないのかもしれない。
「これより死線越えを始める。規定は特にない。どこへ逃げてもいい、とにかく時間まで生き残れ。それだけだ」
続いて壮年の男性が教官を除け、進み出た。黒衣を纏ったなんとも禍々しい人物。マイクを使うこともなく、
「諸君の健闘を期待する」
昨夜の放送の声の主だ。この男こそこの収用所の所長。彼から漂う異様な雰囲気に私は体が震えるのを感じた。
宣告。
「それでは、はじめ」
それと同時に窓ガラスを破ってスーツの集団が内部になだれ込んできた。全員フルフェイスのマスクをしている。ざっと十数人。この訓練の正体はこいつらとの戦闘のようだ。しかし、数のうえではこちらが有利だ。
身構える訓練生たち。窓に近い者はスクラムを組んでスーツに立ち向かう。H組のリーダーもその一人。真っ先にスーツに殴りかかった。
「がっ!」
しかし、その実力はあまりにも圧倒的。リーダーは関節を外され、取って投げられてしまった。命に別状はないだろうが、かなりの大怪我をしているに違いない。
あれほど厳しい訓練を積んでいたのにも関わらず瞬殺だ。バタバタと倒れていく先発部隊。その様子を見て慌てふためく集団。
スーツは倒れた訓練生を片っ端から縛り上げる。
その勢いで前衛を一瞬で突破したスーツ達は、手当たり次第訓練生を襲い始める。蜘蛛の子を散らしたような大騒ぎとなる。
何もここで奴らとデスマッチをする必要はない。あくまでも生き残ればいい。ここは逃げるのが得策だろう。
私はなんとかいっちゃんを見つけた。
「ここは危険過ぎる! 血路は外だ、はやく出よう!」
「う、うん!」
私はいっちゃんの手を取り講堂の外へ。講堂内の同じ組のみんなが気になるが、仕方ない。
とりあえず収用所の外へ。この島の地理は頭に入っている。まずはここから離れなければ。
ひとまず森に身を隠すことにする。すぐには見つからないだろうし、時間を稼ぐのにうってつけだ。
「ハカナちゃん、さっきこんなの拾ったんだけど」
いっちゃんが私に小瓶を見せる。先ほど講堂でスーツのうちの一人が落としたらしい。
よく見るとアルファベットで何か書いてある。
「なんだろうこれ。 め、めぐあ? いんえ、るげえ?」
あいにくいっちゃんはアルファベットに弱い。受け取って私が読む。
「メガエネルギー?」
その無色の液体のどこがメガなのだろう。よくわからないが、重要なもののような気がする。私は小瓶をいっちゃんに返し、近くの川に水を確保しにいくことにした。




