平凡
刹那と永劫がともに休暇をもらってから、すでに三年が経過した。
現在二人は郊外にある遊水地のそばに一軒家を建て、暮らしている。こんな一等地に家が建つとは。ヤギシフの力が絡んでいることは言うまでもない。
長い長い休暇の間特に変わったことはなかったのだが、二つほど小さな変化があった。
「なぁなぁ、この写真。焼き増ししてあるし一枚玄関に飾ろうぜ。エリオットのやつ羨ましがるだろうなぁ。くくく」
「え……それは恥ずかしい……」
永劫が刹那に手渡した写真。写っているのはウェディングドレスを着た恥ずかしそうに微笑む刹那を、軽々とお姫様抱っこする永劫。二人の結婚式の記念である。
正式に夫婦になった二人は共通の性を名乗ることになった。刹那が名字一覧から適当に選んだものだ。しかし、刹那にも永劫にも合う見事なチョイスとなった。
「えー、そうか? 俺はいいと思うんだけどなあ。な、お前もそう思うだろ?」
永劫が話しかけたのは刹那の腕のなかで眠る赤ん坊。去年生まれた二人の実子である。名前は二人で何日も何日も唸りながら考えた。
昇進のおかげでやっと買えたプレジデントで病院に駆けつけたエリオットが、両親によく似ていると評した赤ん坊は近所のベビー用品店で買った服に、刹那がイニシャルのH・Aのアップリケを縫い付けたものを着ている。縫い方が少々荒いのが不器用な刹那らしい。
「いやぁ、それにしても会長たちが結婚式の費用を出してくれるとはな」
写真を眺めながらしみじみと語る永劫。エリオットが隠し芸と称して一人ロックバンドをやったのは記憶に新しい。あれは盛り上がった。
「古賀も来れればよかったのに……」
残念そうな刹那。古賀は収用所で能力の制御を叩き込まれているらしい。あれからずっとカリキュラム漬けである。
「そうだな。あいつにも来てほしかったよ。もう三年も会ってないんだもんな」
永劫にしても、古賀はいろいろと気になる存在のようだ。最後に見た彼は、メガエネルギーの過剰摂取により暴走してしまっていた。鎮静のためにもヤギシフの収容所に行くことになったのだ。
「さっさと会長たちのところへ運んじまったが、悪いことしたかな。あいつのおかげで勝てたような部分もあるし」
「今となっては仕方ないこと……」
赤ん坊の頬をぷにぷにと触りながら答える刹那。今の彼女は戦士ではなく子煩悩な母そのもの。戦いに明け暮れる日常を離れたことで心身ともに安らいでいるのだろう。家庭を持つことで永劫にもなにか変化があったようだ。
時計の針が11と6を指し示し、ボーンと音が鳴る。一日もあと三十分を残すのみとなった。
「よし、もう遅いし寝るか。明日はおもちゃを買いに行くんだろ?」
「そう。さっき布団敷いといたから……」
「朝飯は俺が作るからな」
「おねがいやめて……永劫の料理はワイルドすぎる……」
「つれないな」
寝室に移動する二人。どう見てもよくいる夫婦だ。
その時、突然チャイムが鳴った。音に驚いた赤ん坊は目を覚まし、泣き出してしまった。あやす刹那。
「俺が出る」
穴から様子をうかがい、ドアを開ける永劫。外にいたのは……?




