殺伐
某年某月某日深夜。
もしもこのタイミングで湊第3倉庫を訪れた一般人がいたとしたら、彼また彼女はとてつもない恐怖を覚えていたに違いない。そこはまさにこの世の地獄だった。
それは、映画やドラマでしか見ないような殺し合いの風景。武装して襲いかかる者。素手で相手に掴みかかる者。今まさに鬼籍へ堕ちた者。爆音が炸裂し、叫び声や悲鳴が響きわたり、辺りからは血の匂いが漂う。
敵を一人で相手取る、ジャケットを着込んだ男に何人かが発砲するが意味をなしていない。どんなに撃っても避けられてしまうのだ。人間離れした身体能力を見せつけている。
「くそっ! こいつヤ」
言い終える前に事切れる。腹に風穴を空けられてしまったのだ。とても助かる筈がない。
そして、戦いはあまりに一方的だった。たった一人の手によって十数人の敵はすべて葬り去られてしまった。そしてなんと、よく見ればこの男二十歳前後の若者である。
敵を殲滅し、懐から折りたたみの携帯を取り出す。まだ小型化は進んでいない、古い型の携帯。誰かに報告をするようだ。
「こちら古賀。倉庫内部の連中は全滅しました。組同士の取引だったようです」
「よし。敵の中に例の者たちはいたか?」
彼に作戦を指示した者らしい。この当時、まだ一般ではあまり出回っていない携帯から音がもれている。
「いえ、全員普通の人間でした。トクナガの息がかかった連中でもないようです」
「そうか。警察がそっちに向かっているとの報告だ。事件は揉み消しておくから早く戻ってこい。キミの先輩たちもおまちかねだからな」
「了解」
通話をオフに。古賀というらしいこの男は何者かとの会話ののち、倉庫を後にした。取引をめぐっての争い、のちに相討ちというかたちで事件は公表されるのだろう。
遠くからサイレンの音が聞こえてくる。古賀はタクシーを拾い夜の街へ繰り出した。