開戦
遂にヤギシフ総攻撃の当日がやってきた。普通の社員たちは慰安旅行に行っており、留守である。戦闘の邪魔になるうえに余計な犠牲を出すことは望ましくないからだ。いるのは裏のヤギシフを知る者だけ。
御庭番衆は一階のホールに集められた。会長と社長は最上階の会長社長室に避難しており、エレベーターを停めることで侵入を拒んでいる。
社内放送で会長から作戦のアナウンスがはいった。
「御庭番衆諸君。間もなく予告の時間だ。敵は大勢、しかし一人一人が役目を果たせば必ず勝てる。彼らの狙いは恐らく私と隆夫の首ではなく、貯蔵してあるメガエネルギーだと
思われる。生産が困難で我がヤギシフの血液ともいえる大切なものだ。命を賭してでも死守せよ!」
アナウンスで指示された持ち場に各自つく。永劫班はなんとメガエネルギーの貯蔵庫の入り口の警備を担当することになった。
「いいか、俺たちで貯蔵庫の外を固めるから、古賀は中で敵を迎撃してくれ。まさか中にもう一人いるとは思わないだろうよ!」
古賀はうなずいて、貯蔵庫の中へ。
突然、緊急連絡が脳内に伝わる。これも御庭番衆の一人の能力である。
「敵が現れました! 正門前です!」
なんと警戒の目をかいくぐってエントランスに出現したらしい。敵の中に移動の力を持つ能力者がいるということなのだろう。
戦闘の様子が脳内に映像で伝わってくる。
ヤギシフの先発隊は警備ロボットと身体を軽く強化された人間で構成されているのだが、とにかく多勢に無勢である。敵の攻撃に次々と倒れていく。
「このぶんだと、ここまで来るのも時間の問題かもしれませんね」
「ああ、今本社にいるAクラスはそれほど多くないしな」
貯蔵庫通用口の前でエリオットが永劫に話しかける。永劫たちも戦いを脳内観戦しているのだ。人の脳内に情報を直接送るとはつくづく便利な能力である。
「案ずることはない……私たちは敵を殲滅するだけ……」
刹那もその瞳に闘志を宿している。彼女は見た目より好戦的なようだ。
「そういえば、永劫さん。一つ聞きたいことが」
エリオットは永劫に何か質問があるらしい。
「ん? なんだ?」
「初めて古賀ちゃんが参加した任務の時、メガエネルギーを作った東都大生の話をしてましたよね」
「ああ、ドクターSのことか」
「彼は何者なんですか? 俺は難しいことは分かりませんが、メガエネルギーって要は魔法みたいなものじゃないですか? それを作るなんて……。
「俺もめちゃくちゃ詳しいわけじゃない。他人のことだしな。ただ、誰もが言ってるのは文字通りの天才だということだ。そんなメガエネルギーを量産する技術の第一人者だから、会長はヤギシフに連れてきたかったみたいだが、行方をくらましたんだ」
やれやれと語る永劫。
「なるほど、彼がいればヤギシフは磐石なんでしょうね」
「いや、ドクターはそんなことに興味はないんだ。そもそも科学の発展のためにメガエネルギーを作ったと言ってるし。まぁ、今ごろはのんびりと絵でも描いてるんじゃないか? オツムだけじゃなくてホントに何でもできる人だからな」
「永劫さん、あなたもしかして……」
会話を遮るかのごとく轟音が鳴り響く。
爆発音も聞こえるようになってきた。敵が近いのだろう。ヤギシフの御庭番衆もよく戦ってはいるが数の差は埋めようがない。
「刹那、エリオットもう来るぞ。準備しとけ!」
永劫の言葉通りに、敵が正面に雪崩れ込んできた。狙いはやはり、メガエネルギーだった。
「ドクターS、あんたもつくづく罪な人だな……」
永劫は呟いて、身構えた。




