前夜
エリオットをもっと出したい……。
作戦の決行前日、古賀たちは例のバーにいた。明日のために英気を養っているのだ。いつ命を落とすかわからない御庭番衆はこうして精神を保つ。つまり飲まなきゃやってられないということだ。
「今日は俺の奢り! 古賀、エリオット、酔わない程度に飲みな。明日に向けて景気づけだ!」
「はいっ! ありがとうございます!」
「ありがとうございます」
古賀はともかく、明らかに永劫より年上に見えるエリオットが永劫に敬語なのは違和感がある。まぁ、エリオットは生きてきた年数が古賀とそう変わらないらしいが。
ちなみに普段は一般人から不自然に思われないように彼はタメ口をきいている。気が利くやつなのだ。エリオットはできる子。
「それにしても古賀ちゃん、仕事にはもう慣れたかい?」
気さくに古賀に話しかけるエリオット。見た目はおっさんでも中身は若い。フレンドリーなのもいいことだ。
「……あっ、はい」
それに対して上の空の古賀。メガエネルギーによって得られる能力への未練が先ほどの会長とのやりとりで余計に強くなってしまったようだ。邪な欲が強くなりつつある。それを敏感に察する刹那。
「大丈夫、古賀くんは充分強い。それにあれを飲むと普通の人間に戻るのは難しくなる……」
これでも刹那はよく喋った方だ。普通はこんなフォローなどしない人である。
「そうそう! あんなのどうだっていいんだ。ほら、飲んで飲んで」
ワインを古賀に渡す永劫。メガエネルギーの話題を変えたいようだ。
「はい……」
やはり心ここにあらず。エリオットも気が気でない。
「能力なんて無くたって生きていけるさ。古賀ちゃんは今のままでいいって。俺は評価してるよ」
そうは言っても、古賀は不満だった。永劫たちとの初任務での軟体との戦いは彼のトラウマになっている。
能力がないせいで御庭番衆の任務に支障をきたしているのではないか。先輩を含む他の御庭番衆に迷惑をかけているのではないか。そして、心のどこかで強大な力への憧れをもっているのではないか。彼のなかではせめぎ合いが止まらない。
力が欲しい。誰よりも強い力が。メガエネルギーを手に入れれば自分を変えることだってできる。
いつの間にか力を得ることだけが古賀の関心事になりつつあった。
そして、古賀の心理についての先輩三人の不安は、後に最悪の形で現実のこととなる。しかし、この時点では誰も知る由がなかった。張本人ですら。




