彼女の気配…
私がそのままタオルで髪を拭いていると
「シャワー入ってくるか?」
彼がそんなことを言い出した。けど。
「い、いやよ。見ず知らずの男の部屋でシャワーなんて。」
恥ずかしくなってそう答えた。すると彼は悪びれることもなく
「見ず知らずって…だから俺は天堂真矢だって言ってんじゃん。まぁ、誰の家でも構わずシャワー使う女なんて俺はキライだけどな。」
そう言った。
私はその言葉に少し驚いた。今まで聞いていた毒舌と違って、なんとなく…冷たい言葉の様な気がしたから…。
私がそのまま黙ってそんなことを考えていると
「あ、そーだ。ドライヤー使えば?」
思いついたように彼がそう言った。
「あ…じゃあ、借りようかな。」
私は素直に彼の提案に乗ることにした。やっぱりさすがに部屋の中とはいえ、真冬に髪が濡れたままなのは寒い。
そうして案内されたのは洗面所。
「はい、ドライヤー。使い終わったらこの中に戻しといて。」
「あ、ありがと…」
そうして貸してもらったドライヤーでブォーっと髪を乾かしながら、やっぱり洗面所の高級感にまた、圧倒された。
大きな鏡が備え付けられていて、その鏡の中が収納になっているらしく、まるでホテルの様にスッキリとした空間。
そこに出されているのは、オシャレな黒のボトルに入ったハンドソープと、プリザーブドフラワーが飾られているくらいだ。
って、あれ?男の一人暮らしなのに…プリザーブドフラワー?
ふと、感じた違和感。そして、ドライヤーを片付けようと鏡の扉を開けたら…
そこには使いかけの化粧品のボトルが入っていた。
あ…彼女のかな…そんな風に思ったけれど、私には関係ないことだ。
髪の毛も乾いたし、もう少ししたら帰ろう。それで彼とはもう会うこともないだろう、そう思っていた。
ドライヤーを言われた場所に返して彼のいるリビングルームへと戻る。
すると、
「あ、乾いた?紅茶入れ直したから、あったかいうちに飲めよ。身体冷えてるだろー」
彼がそんな優しいことを言い出したから、帰るタイミングを見失ってしまう。だから
「あ…うん、いただき…ます」
そう答えると、席に座って紅茶に添えられたアプリコットジャムをくるくるとカップの中に溶かした。
そうしてまたふんわりと香る甘酸っぱい香りは……
なぜか天堂真矢の雰囲気と、似ている気がしたーーー