俺の家に寄って行け。
「おい。どこ行くんだよ。バカ女」
「はぁ!?」
背後からする失礼な物言いに、思わず振り向いてそう返事した。
そこにいたのは…紛れもなくさっき公園で会った、あの口の悪い男だった。
「なかなか呼び鈴鳴らないから見に来たら…」
「う、うっさいわね。ほら、傘。返しに来てあげたわよ。」
「あ?おまえ、わざわざ返しに来たの?バカじゃねぇ?」
「なっなによっ 借りたものを返すのは当たり前でしょ。」
「まぁ、そうかもしれないけど…別に今日じゃなくても…」
「う、うるさいわね。あんたのものなんて、早く返したかっただけよ。」
「ふーん。」
「じゃあねっ!確かに返したからっ」
私はそう言うと、くるりと彼に背中を向けた。けれど。
「おい、バカ女。待て。うちに寄って行け。」
そう引きとめられた。
「はぁ?あんたこそバカ?見ず知らずの男の家になんて、入るわけないでしょ。」
「あ?俺は天堂真矢だよ。ほら、いいから入れ。バカ女。」
グイッーーー
「え!?」
突然自己紹介されたかと思うと、強引に腕を掴まれて、グイッと玄関の中へと引き込まれた。
ガチャリーーー
そして扉を締める音。
え、な、なに?この状況……
わ、私もしかして、ヤバイ!?
な、なんかされたり…なんてことは…ないよね?
家の人とか…いるよね?!
内心一気に焦り出して、びくびくしながらも
「あのねっ!傘も返したんだしもう用事も済んだんだから、あんたの家になんて寄る必要ないでしょ?!」
精一杯強がってそう言った。
すると
「あのな、おまえはバカか。おまえに熱出されたら困るから傘を貸したんだ。なのにその傘返しに雪の中往復して返しに来られて、そのせいでお前に熱出されたら、俺がダサいだろうが!」
目の前のそいつは、そんなことを言い出した。
その言葉に、少し拍子抜けする。
「はぁ?大丈夫よ。熱なんか出さないからご心配なく。じゃあねっ!」
そう言って、私は玄関のドアを開けて外に出ようとした。すると
「なぁ、おまえ、ここ、何階か知ってる?」
天堂真矢はそんなことを言い出した。
「は?知ってるわよ。32階でしょ。それがなに?それが一体、なんなのよ…」
自慢でもしたいのかと、そう、食ってかかる。
すると
「あのな、ここのマンション、セキュリティがハンパねぇんだよ。俺がエレベーターにキーをかざさないと、エレベーターは来ないわけ。分かる?」
天堂真矢は落ち着いた声でそう言い出した。
…そういえば…上がってくる時も、勝手に32階のランプが付いていた。
え、まさか…こいつがキーをかざしてくれない限り、帰れないってこと!?
「え…」
私は言葉に詰まる。
すると、天堂真矢はニヤッと笑って
「そーゆーわけだから、俺んちに寄って行け。そんな顔をするな。別に取って喰ったりはしねぇ。単純に、少し温まって行けばってだけだから…」
「………」
なんでかな、もう、反論する気にもなれなかった。
それは、こいつの失礼な物言いとは裏腹な、甘いルックスのせいだろうか。
それとも…その、失礼な物言いの裏に、少し優しさを感じてしまったからだろうか…
それとも……こいつの瞳の奥が、少しさみしそうだったからだろうか……
自分でも驚くけれど、この男の家に
寄って行くことにしたーーー