第九話
「ひぃふぅみぃの……あちゃー……あっしのカンもにぶっちまいやしたね。まさか六匹も控えているとは思いやせんでしたぜ」
少ししても反応がないので、洞穴の中に入っていくと、都合六匹のオークが、胴体を中心にこんがり丸焼きになってしまっており、サモンさんはいまだ消えない熱気に、額の汗をぬぐっていた。
「まぁ、五匹分は回収できましたけど、一匹は炭化してたんで、さすがに無理ですね」
予想していたより空間が広かったので、骨しか残さないだなんて事にはならなかったんだけど……。
もし、三匹と見積もって突入していたら、全滅していた可能性が大きいのは間違いないと思う。
「それにしても、ここのオークも妙に統制が取れてるとは思いませんか? サモンさん」
ミグラの村を襲ったゴブリンの群れといい、まるで軍隊のような練度を感じていた。
「そうですなぁ……普通なら待ち伏せよりは突撃を選ぶのが、低級な魔物の常道なんですが……」
その後、一時間ほどかけて、残る四匹のオークを掃討し、すべての地区のチェックを終えたので、最初の広間に戻っていた。
「そんじゃ、帰りますかい。まさか、一日で終わるとは……」
「サモンさん!」
オレはあわててサモンさんに注意をして、黙るようなジェスチャーを示した。
「ミィギィルゥセフッ」
「オンギァー……アレッ!」
最初のオークのように、洞穴に身を潜めて、耳をそばだてていると、洞穴の外の砦があった場所でオークが会話しているのに気づいた。
「サモンさん……下がりましょう!」
「お、おう……」
オレは、背後から挟み撃ちされる心配のない場所……すなわち、退路のない行き止まりのもっとも長い通路へと、サモンさんを連れていった。
「まだ気づかれてはいないと思いますが……あの感じだと、十匹やそこらはいそうでしたね……」
「うーん……ここは、連中の単なるねぐらで、どこかに出かけていたから、手薄だったってわけですかい?」
側道からこの長い通路に出て、オレたちが隠れている場所までは、サモンさんが二度石弓を放てる程度の距離があり、オレもゆっくり対処ができる場所だとは思うんだけど……。
「ならまた、大勢ここに入って来た瞬間に、ドカンとやっちまうのはどうです?」
「そんな事をしたら、オレたちもただじゃすまないっていうか……。ここ空気穴とかないから、息ができなくなりますよ?」
ここで最も気をつけないといけないのは、それだ。ただでさえ洞穴の奥の方は息苦しいというのに、炎の魔法で酸素を消費したら、酸欠になってしまう危険性があった。
「だから、可能な限りは、火の矢で対処する事になると思いますが、接近戦をする事になったら、オレがサモンさんのファルシオンに炎の属性を与える魔法を使いますから」
「おお、そいつはあっしのあこがれですぜ! なにせ、フレイムタンはやけくそ高いですからね」
かなり危機的な状況だけど、サモンさんはムードメーカー的な役割を果たしてくれていた。
「火の矢は三分ぐらいしか持続できませんから、最初の攻撃はサモンさんの石弓でお願いします」
「がってんでい!」
オレもサモンさんも、鉱石を運ぶ鉄製の容器に半身を隠して、オークが侵入するのを待ち受けていた。
「フェィクラゥド……フォェ?」
一匹のオークが通路に迷い込み、数歩歩いた時点で、オレはサモンさんの肩をたたいて発射させた。
「ムゥォッ……ゲルプッ……」
狙いあやまたず、石弓の矢はオークののどに突き刺さり、苦悶の声を上げながら絶命した。
「フォエ? エルムィクラァ……」
悲鳴をききつけて、もう一匹のオークが通路に入り、死体を発見した瞬間、再びサモンさんの石弓から放たれた矢が、側頭部に突き刺さって横転して絶命した。
(やりますね! サモンさん)
オレはぽんぽんとサモンさんの肩をたたいて、笑みを浮かべた。
「あれから入って来やせんね。ほかのオークは気づかなかったんですかね……」
結構奥の方なので、入り口近くの広間にいるオークには悲鳴が届かなかったようだ。
「いや、オークが魔法で死んでいる以上、いずれ探索を始めると思いますけど……」
一定の時間が経過しても、集合場所に現れない場合は、そこに敵がいる事ぐらいは理解すると、オレは推測していた。
「エルミーイケ! ホレッ! イレッ!」
案の定、通路の向こうがにぎやかになって来たので、高速詠唱で火の矢を三本顕現させた。
「ホイヤー! アレッカシ!」
「せいっ!}
オレは入って来たオークに、火の矢を一本放ち、命中させた。
「ファーッ……ブルッスクォッ!」
横転して苦しみながらも、仲間を呼んでいるようだったので、サモンさんに頼んで、とどめを刺してもらった。
「ホイヤー! アレッ! アレッ!」
一度に三匹のオークが突入して来たが、まだサモンさんは巻き上げが完了していないので、先頭の二匹に、一本づつ火の矢を放って命中させると、通路に崩れ落ちた。
「せやっ!}
サモンさんは、残る一匹の額を石弓の矢で貫き、どうやら最初のラッシュをしのぐ事はできたようだが……。
「おっ……六レベルに上昇したけど、元素魔術は覚えないし、関係ないか」
だが、オークの話し声はしているが、いつまでたっても突入して来る気配はなかった。
「こんなところで持久戦ですかね。けど、入り口まで戻ろうとすると、横や後ろから攻撃を受けるのは間違いないですぜ……」
サモンさんも危機感を抱いているようだったが、現状を突破するだけの方法はオレにも浮かばなかった。
「そういえば、共通魔法をひとつ覚えるんじゃなかったかな……」
だけど、それについて調べる余裕は、オレにはなかった。
「ん? なんですかい?」
無言のまま、通路に火のついた板のような物が投げ込まれたのをサモンさんが見て、声を上げた。
「そんな……まさか……」
「うぉっ……どういう意味なんで?」
あっという間に、大量のたいまつや可燃物が通路の中に放り込まれて来るのを見て、オレは頭が真っ白になってしまっていた。
「やつらはなにを考えてるんで?」
通路への入り口はバリケードのようなものでふさがれはじめているようだった。
「あれだけの煙が、こんな行き止まりの通路に充満したら、やつらは一切手を下さずオレたちを殺せるんですよ! 炎の精霊よっ……ファイヤーボール!}
オレはあわてて、高速詠唱でファイヤーボールを放ち、火だねやバリケードのあたりに着弾させた。
「ヒュゲェッ! ミルド! ミルドォ!」
圧倒的なまでの炎でたいまつや可燃物を焼き尽くし、その圧力でバリケードを押し崩す事に成功したが、すぐに息苦しさを感じ始めていた。
「危険でも、外に出るしかありません。ファルシオンを構えてください!」
「お、おう!」
サモンさんは石弓を足元に投げ捨てて、さやからファルシオンを抜き出した。
「炎の精霊よ……フレイムソード!」
「うぉぉ! 格好いいぜ! 最高だ!」
サモンさんは丸盾とファルシオンを手に、半壊しているバリケードをけ破って、通路の外へと出て行った。
「側面はオレがカバーしますから、正面をよろしく!」
ポジションをスイッチし、オレは火の矢を三本顕現させて、天井すれすれの高さにて待機させ、安全マージンを取りながら、派手に魔法をぶっ放して、洞穴のオークの群れをけ散らしていった。
「はぁ……ようやく、新鮮な空気が吸える……」
「さすがのあっしも、お迎えが来るかと思いやしたぜ」
オレたちは洞穴の入り口まで戻り、中に潜んでいるオークの息づかいを感じていた。
武器に炎を付与するのは、派手でいいですよね。
七レベルの呪文がファイヤーストームですが、
九レベルの呪文を何にしようか悩んでいます。