第六話
想定以上のアクセスがあったので、第二部を執筆する事にしました。
すでに三話ほど完成したので、さっそく投下します。
「なんだかほっとするよな……」
街道をそれて、いくつかの目印を頼りに森の中を進み、アルミラさんの家の明かりを発見して、オレは心から安心していた。
「ああ……無事でなによりです……」
家に近づいて行くと、アルミラさんが空中で印を組んで、精霊に感謝をしているようだった。
「アルミラさんのおかげで、ミグラの村をゴブリンから守る手助けができました。本当に感謝しています」
精霊に承認してもらってからは、こういう感謝の言葉を心から発する事ができるようになっていた。
「いえ、すべては精霊のお導きでしょう……。ですが、あなたの助けになれた事は、とてもうれしいです」
そう言って、アルミラさんはオレを静かにハグしてくれた。
「兄はどうしたのですか? ストレイン殿……」
「村では弓を使って援護してくれていました。エセルティ商会の人たちが襲撃された野営地を確認して来るそうです」
アルミラさんのお兄さんのおかげで、背後の心配をせずに済んだ事を思い出した。
「そうですか……公的な役目ではないのですが、兄はこのあたりの地域を見回る仕事を買って出ているのです」
「森林警備員……レンジャーみたいなものですか?」
「あなたの概念が流れ込んで来ました。その通りですね。迫害の歴史を持つ少数部族の共存の手だてです」
「なるほど……。それで、こういった自然の中に住んでいるわけなんですね」
アルミラさんはドルイドかシャーマンで、お兄さんがレンジャーなら、倒木のみを使って作られた、この家とも言いにくい小屋に住んでいる理由が納得できた。
「食事の準備もできていますので、さぁ……」
本当に客人扱いされる事が少しくすぐったかったが、オレは焼き魚とそばの実のような物で作られたナン風のパンで、空腹を満たしていった。
「ごちそうさまでした……その……」
オレは、話しておくべき事があると思い、食事を終えたあと、アルミラさんの方を向いて口を開いた。
「あなたはまだ、矢傷も癒えていませんし、どうか休んでいてください」
アルミラさんは、そう言ってひとつしかない寝所を指さしてくれた。
「そういえば、あまり痛くなかったんですが、アルミラさんが呪術を使ってくれたんですか?」
いまでも、少し傷口がひきつる程度の違和感しか感じていなかった。
「傷薬と、あとはおまじないのようなものです。火の精霊と契約した事による疲労も出て来ると思いますので、さぁ!」
アルミラさんは手を引いて、オレを寝所へといざなってくれた。
「たしかに……意外とつかれていたようです……」
オレは毛皮を編んで作られた毛布をまといながら横になり、横に控えるアルミラさんと手を結んだまま意識を手放した。
「んっ……明るい……寝たのが午後二時ぐらいだったから、まだ夕方……ってわけじゃなさそうだ」
ぼうこうがパンパンになっているので、すでに翌日の朝になっている事にオレは気づいた。
「おはようございます……その、トイレはどこですか?」
アルミラさんは家の外で、たき火に向かっていたので、背後から問いかけた。
「おはようございます……では、案内しましょう」
「え? 場所だけ教えてもらっても……」
オレは少し気恥ずかしさがあったが、にっこりほほえまれて手を引かれたので、あとをついていった。
「ところで、お兄さんはまだ帰って来ていないんですか?」
朝食を食べ終えて、手についた汚れを川の水で洗いながら、疑問を口にした。
「いえ。夕方に戻って、少し奥に炭焼き小屋があるので、そちらに泊まりましたが、そろそろ帰って来るころかと……」
そういえば、お兄さんの分とおぼしき食事が用意されているのに、気づいた。
「その……成り行きとはいえ、あなたと関係してしまった以上、今後の事について相談しておきたいんですが……」
「何の相談が必要なのでしょうか? あなたは、ほかに女性がいたり、家があるのですか?」
アルミラさんは首をかしげて、笑みを浮かべた。
「そういうわけじゃないんですが……受け入れてもらっていいんでしょうか」
当てにしていたのはたしかだけど、バンジージャンプをさせられたりとか、お兄さんと格闘して勝たないといけないとか、なんらかの試練があると思っていたのは、漫画や小説の読み過ぎなんだろうか……。
「その事なら、喜んで迎え入れたく思っていますよ……。そうでなければわたしも……」
そう言って、アルミラさんは少しほおを赤らめた。
「ありがとうございます……でも、アルミラさんのお兄さんの許可とかは……」
「その心配は無用だ。ストレイン殿はひとかどの魔術師でもあるし、妹の相手探しには手を焼いていたからな……」
いつの間にか近づいていたのか、背後からお兄さんが姿を現して、祈りをささげてから朝食を食べ始めた。
「別にここに定住する必要もない。気が向いたら来て、妹をかわいがってやればいい」
「まぁ……。兄さんったら……」
お兄さんも、ぶっきらぼうな口調ではあるが、オレの事を受け入れてくれているのがうれしかった。
「もしかして……外部の血を取り入れるとか……そういう事もあるんでしょうか?」
「そうですね。兄は、ほかの部族に婚約者がいますが、血が濃くなりすぎないようにするためにも、それが望まれています」
サラブレッドの血統かよと内心思ったが、オレを受け入れてくれるのなら、その事については異存はないよな。
「そういえば……オレは異世界の人間なんですけど……生殖能力はあるんですかね?」
「まだ産まれてはいないが、アデナではすでに、ストレイン殿の世界の男と結ばれた女がいるそうだ……」
「別に義務というわけではないですし、精霊の導きと、あなたの意志にゆだねますから……」
「その……ありがとうございます」
なんだか、とても男に都合がいいような気がするんだけど、いいんだろうか。
「そういえば、炎と水の精霊の加護を持つ部族なんですよね? オレが水の精霊の加護を受ける事はできるんでしょうか?」
朝食を食べ終え、なにやら手作業をしているアルミラさんに問いかけてみた。
「それはむずかしいと思います。あなたとの契約で、いまこの地は炎の精霊が活発化していますし、わたしの水の巫女としての能力はあまり高くないので、縁が得られるかどうか……」
「そうですか……水の元素魔術が使えるようになったら、治療の魔術も使えるので、いつかは覚えておきたいんですよね」
神聖魔術以外で治療ができるのは、水の元素魔術だけなので、覚える事ができたら生存率が格段に上がるはずなんだよね。
「三か月後に、兄が婚約者を迎え入れるのですが、水の精霊を奉じる部族からなので、頼めば術者を派遣してくれるかもしれませので、手配をしておきましょう」
アルミラさんは、慈愛にみちたほほえみを浮かべて、そう言ってくれた。
「そうですか! ありがとうございます。では、それまでの間にレベルを上げたりしておきたいんですが、このあたりにそういった仕事とかありますかね?」
火の元素は奇数レベルで魔法を覚えるので、火の矢と、剣に炎をまとわせる魔法と、火の球の三つの魔法を覚えたんだよね。
だけど、体力やスタミナを向上させて生存率を上げるためにも、レベルを上げておきたかったんだよね。オレの帰りを待つアルミラさんのために……。
「隊商の護衛や、道先案内人としての仕事もなくはないですが、半年に一度あるかないかというところですね」
「そうですか……ミグラの村には、ほぼ専属の冒険者がいるし、あまりバッティングはしたくないなぁ……」
「でしたら、エルプシィの町まで行けば、冒険者の仕事などもあると思いますが……」
アルミラさんは、なぜか少し不安そうに、口を開いた。
「街道を歩いていくだけなら大丈夫ですよ。ゴブリンや夜盗ぐらいなら、なんとかなりますし、向こうでも単独の仕事をしたりはしませんから……」
「そうですか……。あなたについていきたい気持ちはあるのですが、兄の婚礼の準備がいろいろと必要で……」
アルミラさんのその気持ちが、いまのオレには、なによりうれしかった。
「エルプシィの町までなら、オレが送ろう……エセルティ商会の事も、報告しないといけないからな……」
「そういえば、隊商の人たちは、全滅していたんでしょうか? 八人いたんですけど……」
「そうか……発見できた死体は六つだな。生存者もいる可能性があるな……」
「その……埋葬が必要なら、オレも手伝いますから!」
人間の死体に触れたり土葬したりする経験はないが、オレを逃がしてくれた人のためには、最後までかかわる必要を感じていた。
「動物に掘り起こされないように埋めている。正式な埋葬は、商会の方でしてくれるだろう」
「そうですか……じゃあ、エルプシィの町までお願いします!」
オレはお兄さんの好意に甘える事にした。正直に言って、かなり不安だったんだよね。
「では、旅の支度をしないといけませんね……」
アルミラさんは、目尻の涙をぬぐいながら、準備を始めてくれた。
「ここですね……小屋も焼けてしまったんですね」
十分ほど歩くと、変わり果てた野営地にたどり着けた。
「あのようなゴブリンの群れが村を襲うのは、あまり前例のない事なのだが……」
「そういえば、ゴブリンなのに指揮系統がしっかりしていたような印象がありますね……」
とはいっても、ゲームや小説などから得た推測にすぎないんだけれど……。
「ふぅ……。まさか裏道も使わずに、二日でたどり着くとは」
二日後、エルプシィの町の門が見えるあたりで、オレは足を止めて、息を整えた。
「これを持っておけ……どこの部族でも迎え入れてくれるだろう」
お兄さんは、複雑な象眼細工が施された柄とさやを持つ、小刀をオレに手渡してくれた。
「うわ……こんな見事なもの……いいんですか?」
刀身には複雑な紋章が描かれており、見入ってしまう。
「ああ……おまえはもう、オレたちの身内みたいなものだからな」
そう言って、お兄さんはさわやかな笑みを浮かべた。
明日も一話ないし二話を公開する予定です。
お気に入り数が増えるごとにモチベアップしますので、
よろしくお願いします(笑)