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デスティネーション・ユニバース  作者: 小田崎コウ
第一章
3/30

第三話

01/18 アルケインと書くべきところをストレインと書いていたので、修正しました。

「所持金は、金貨が五枚……銀貨二百枚か……」

 この世界で金貨一枚は銀貨百枚に換算されている。銀貨一枚で一食の費用。銀貨三枚で安い宿屋に泊まれるから、このままだと、三か月ぐらいしか持たない計算だ。

 野宿という手もあるけれど、あまり町の近くだと追い出されるし、人里離れたところに戦闘力のないオレ一人では自殺志望みたいなものだろう。

「可能性としては、どこかの冒険者のグループに入れてもらう……。それと、スキル外での魔法の使用ができないか確かめる……。この二つかな」

 どこかの村で、何らかの下働きをして生きながらえる事もできるかもしれないけれど、その事実がバレたら継続不可能と見なされてしまうかもだしな。

「なんにせよ……こんな辺境じゃあどっちも無理だよなぁ……」

 『彼ら』との三か月縛りが終わったあと、この村まで連れて来てもらった分マシなのかもしれないが、一人で村から出るのは、かなりの不安があった。

「情報が集まるのは酒場か……。けど、冒険者がほかにいるかなぁ」

 オレは村にひとつしかない、酒場兼宿屋に足を向けた。



「ここに冒険者だって? おまえさん、あのパーティーを抜けたのかい? なら、ほかにはいないねぇ……」

 三度ほど顔を合わせた事がある店主に問いかけると、ほぼ予想通りの答えが返って来た。

 いわゆる現地の人間だけど、冒険者と接する事が多いので、この村では一番事情通なんだけれど……。

「その……オレが、あまり使いものにならない魔術師だって知っているだろう? ここいらで、弟子入りできそうな魔術師とかいないかな?」

「魔術師がそんなにいたら、あんたらの世界に救援を求めたりはしなかったさ。それに魔術師ってものは、そうそう街中になんかいやしないよ」

「そうですか……まぁ、たしかにこれまで魔術師を見た事もないですけど」

 二つの可能性がついえてしまい、オレは暗い気持ちでぬるいエールを口にした。

「だが、もっと大きい町に行けば、出会える可能性はあるかもしれないね」

「でしょうねぇ……けど、オレだけで外を出ても、なにせ戦闘力がないもので……」

「ふぅむ……なら、二日後ぐらいに隊商が立ち寄る予定だから、近くの町まで連れていってもらったらどうだい?」

「戦闘魔法は使えないですが、共通魔法はいくつか使えます。下働きでもするので、頼んでみてもらえますか?」

 こうなっては、その隊商と行動をともにするぐらいしかないと思い、オレは店主に頼み込んだ。

「頼むだけならいいともよ。で、ここに泊まるんだろう? 二泊で、食事は三食つけるかい?」

 仲介の労をとってもらうからには、あまりけちるわけにもいかず、一日銀貨八枚を支払う事になった。




「ん? こんな時間に騒がしいようだが……」

 翌日の午後三時ぐらい……ベッドの上で考え事をしていると、下の酒場の方で物音と話し声がしているようなので、身を起こして、上着を羽織った。


「おう、いいところに来たな、あんた」

「もしかして、言っていた隊商の人たちですか?」

 二日後とか言っていたので、そのつもりだったんだけど、意外と早く着いたみたいだ。

「話は聞かせてもらったよ。エセルティ商会のモンドって者だ」

「あっ……見習い魔術師のストレインという者です……何でもしますので、お願いします!」

 オレはあわてて、ぺこりと頭を下げた。

「ちょいと訳ありで、攻撃魔法が使えないそうなんだが、先日までアルケインのパーティーにいたんだよ」

 店主がフォローらしい言葉を口にしてくれた。

「ほう……という事は、あの世界から来ているんだな……。なら、妙な心配はいらないだろう」

「あぁ、その線は大丈夫でさぁ……」

 隊商の人や店主が何の事を心配しているかよく分からないが、保証してもらえたようなので、オレはほっとした。

「そうだな……。お客さん扱いはできないが、自分の面倒が見られるってんなら、同行しても構わないぜ」

「ありがとうございます! いくつか、共通魔法は使えますから、できるだけお役に立てるよう、頑張ります!」

「じゃあ商談が終わったら出発するから、荷作りが必要なら、いまのうちに済ませておくんだな」

「次は、エルプシィの町っていつものコースかい? なら、片道三日ってところだな。あそこなら冒険者のパーティーぐらいはいるだろうよ」

「ありがとうございます! では用意して来ます」

 オレはあわてて自分の部屋に戻って出立の準備を整えた。




「あまり気を張りすぎない方がいいな……街道沿いなら、夜盗も魔物もめったに出て来やしないからよ」

 一時間ほどして出発した隊商の最後尾を歩いていると、荷台の上に腰掛けて後方に向けて石弓を構えている軽戦士らしい人が声をかけてくれた。

「そういうものですか……あまり旅慣れてないもので……」

 アルケインのパーティーは先ほどの村を本拠地にしていて、その周辺の魔物の討伐や採取の任務がほとんどだったので、地理もまだ頭に入っていないのだ。

「あんちゃん、あっちの世界から来たんだってな。話に聞くところによれば、ものすごく安全で、女が夜道を一人歩きしても大丈夫なんだってな?」

「そうですね……オレのいた国ではそうでしたけど、それでもほかの国からすると驚かれていましたけどね」

 気さくに話す事ができたので、オレはどうにか緊張を解きほぐす事ができた。




「ふぅ……ちぃと遅くなったが、日が暮れる前にたどり着けたな」

 太陽が西の山脈に隠れようというころになって、森を切り開いて作った野営地らしい場所に、一行はたどり着いた。

 ログハウスのような小屋まで常備されており、マントにくるまって寝るような羽目にはならないようだ。

「結構整備されているんですね。野宿するものだと思っていましたけど……」

「そりゃぁな。水くみに行くから、付き合えや」

「はい!」

 水くみは下っ端がやるものと相場が決まっているので、オレは水筒を手にして、軽戦士のあとに続いた。



「こうして、新鮮な水をくめる場所に野営地を作らないと、水くみだけでつかれちまうからな……」

 少し歩くと小川があり、オレたちは水筒に水を満たしていった。生水を飲んでも腹が痛くならないのが不思議なんだけど、この世界には自然がそのまま残されているからかもしれない。

「じゃあ、この野営地も皆さんが作られたんですか?」

「ここはそうだが、隊商ギルドの方で作る事になっているな……。この人数で宿屋に泊まるのも費用がかさむんでな」

 疑問を口にすると、軽戦士は笑顔を浮かべて答えてくれた。アルケインのパーティーにいたころと比べると、天国のようなものだけど……。



「おっ……もう、たき火の準備ができてるな」

「やけに早いですね……」

「備蓄に誰も手を付けなかったんだろうさ」

「なるほど……雨が降ったあとだと困りますしね」

 そういいつつも、オレは魔法で火をつけるように命じられるのではないかと、気が気ではなかった。


「このマッチってやつは便利だよな……以前なら、火をつけるだけで一苦労だったのによ」

 落ち葉や可燃物を集めた火だねにマッチを二本ほどすって投下すると、あっという間に火が回り、煙が立ち上っていった。

「さぁ、飯の準備を始めるぞ。やっぱり夜はあったけぇ飯が食いたいもんな!」

 軽戦士はオレの背中を陽気にたたいて声をかけてくれた。




「おい! 起きろ!」

「なっ……なんなんですか?」

 最初の三時間の見張り番を終えて、ようやく眠りについたころに、オレは軽戦士に肩を揺すられた。

「どうやら、四方から魔物に囲まれているみたいだ……」

「あの、明かりの魔法を使いましょうか?」

 回りはなぜか薄暗かったので、提案した。

「なっ……そんな事をしたら、あっという間に弓矢でハリネズミにされちまうぞ!」

「それもそうですね……オレはどうしたらいいんでしょう?」

 これまでにアルケインのパーティーで戦闘に参加した事は何度もあるが、戦闘員として数に数えられた事がないだけに、どうすればいいのか、見当もつかなかった。

「悪いが、おまえさんの面倒を見るのは無理だ……足手まといになるのが見えてるからな」

「そう……ですね……」

 満足に元素魔術が使えるのなら、火の矢や火球で魔物をなぎ払う事ができるはずなので、オレは悔しさに唇をかみしめた。

「どうやら、大量のゴブリンに囲まれているようだ。おまえさんは、この道を引き返して、あの村に警告してやるんだな……」

「そう……ですね……それぐらいしか……できないと思います」

 もう顔を合わしたくもないが、アルケインのパーティーが村の近くにいるのなら、ゴブリンに対抗できる可能性もあるし、何の情報もないよりはマシだろう。


「イィグルゥィッシ! アフゥゥリヤァ!」

 次の瞬間、大量のゴブリンとゴブリンアーチャーが姿を現して、矢を打ち込んで来た。

「うわぁぁっ!」

 オレの足と足の間の土の上に矢が突き刺さり、オレは恐怖に小便を漏らしそうになりながら叫び声を上げた。

「いいから、後ろを見ずに逃げるんだ! あの小川を通れば、見つかりにくいかもしれねえ!」

 軽戦士は石弓を発射させて、突進してくるゴブリンの胸を貫いていた。

「はいっ! ありがとうございますっ!」

 明かりはないけれど、水くみをした場所ぐらいなら星明かりでもたどり着く自信があったので、オレは駆け出した。



「はぁっ……はぁっ……」

 小川は小高い丘の向こうで、偶然その通り道にはゴブリンがいなかったので、オレはゴブリンににおいをたどられないように、水を跳ね上げながら走り続けた。

「くっ……みんなは大丈夫なんだろうか……」

 後方の野営地では弓が鳴る音と、ゴブリンの叫声が響いており、ついには火矢まで打ち込まれたのか、こなくさいにおいまで漂って来ていた。



「はぁっ……こっちに戻れば……街道だよな」

 ゴブリンの気配を感じては足を止めて隠れながら、十分ほど進んでいくと、街道へと続く獣道のような物を発見した。

「だけど……危険だよな」

 オレは街道に戻る事をあきらめて、少し道からそれる事にした。




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