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デスティネーション・ユニバース  作者: 小田崎コウ
第五章
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第二十七話

実験台にした友人曰く、元素魔術師ストレインのψ難だと。

「最初っから、こうすれば良かったですな……」

「そうじゃな……。わたしも失念しておったのでな。許すがよい」


「うわははは! 戦女神の加護さえあれば、いかなる敵が相手でも、打ち倒してみせるぞぉっ!」

 オレは姫の戦女神としての加護を受け、かなりのハイテンションで、丘へと行進していた。



「来たな? 貴様らなど、今すぐ丸焼きにして、サンダース軍曹の店にたたき売ってやるわぁっ! そりゃぁっ!」

 オレは十数本の火の矢を無詠唱でブっ放し、一本だけ誘導する事で、完全になめてかかって来ていた目の前のハーピーの体を燃え上がらせる事に成功した。

「フッ……貴様らの動きなど見えている……そこだぁっ!」

 オレは無詠唱で、振り向きもせずに、側面から接近しつつあったハーピーの眼前にファイヤーボールを生じさせて爆散させた。


「うぉぉ……ストレイン殿は、切れっ切れにキレてますな」

「いまはあまり近づかない方がいいようじゃの……巻き添えだけはくらいたくないからのぉ……」


「見えるっ! ファイロー!」

 オレは後方からの突進を転がってよけて、三本の火の矢を命中させて、都合三匹のハーピーを始末していた。


「ふわっはっは! 貴様らなど、束でかかってきても……。って、アレ? オレなんでこんなところに」


「うぉぉ……ヤバいですぜ。効果が切れちまいやした!」

「いかん! 逃げるのじゃ、ストレイン!」

 姫はなにやら、上を指さしていたようだけど……はて。


「なにが? なにから逃げるって……。な、なんだ? オレはいつの間にか、空を飛ぶ魔法を会得していたというのか? すげえ! このタイミングなら言える。アイキャンフラーイ!」

 次の瞬間、オレは地面に向かって、重力に抱かれるように……。母なる地球よ……わたしは……って、ここ地球じゃないし。って、なんでオレ落ちてるの? イヤぁぁぁ!

 オレは、丘の日陰にある草原に、足から突っ込んでいきつつあった。

「死んだ! はい死んだ! もしくは、足首を粉砕骨折ぅぅっ」

 オレは半狂乱になりながら、なにか手はないかと一瞬考えたが、次の瞬間オレは地面に衝突したのだが……。


「なっ……なんか、やわらかいんですけど、なにコレ」

 落ち葉などが表面に浮かんでいて、草原に見えたけど、これってもしかして……底なし沼?

「ひぃっ……うわぁっ……ど、どうすれば……むぐっ!」

 次の瞬間、オレは頭部までずっぽりと底なし沼に没してしまい、右手だけが突きだしている状態に陥った。

(うぞ……。こんな形でみじめな死を迎えてしまうなんて、ごめんよ、アルミラさん……ごめんな……みんな)

 水流操作をしても、逆により深くに没するのは考えるまでもなく、姫かサモンさんが光の速さでダッシュしてくれるのではないかと、淡い期待を抱きつつも、すでに限界を大きく割り込みつつあった。



 オレはもしや、マドハ○ドに転生しようとしているのか? そういう、夢も希望もない超展開が待ち受けていたのか?



(むぉっ? な、なんだ?)

 一瞬意識を手放しかけていたんだけど、オレは強い力で手首をつかまれて、上へと引っぱられていた。

「ぶはぁっ!」

 目はまだ開けられないけど、口が脱出したのは感触で分かったので、大きく息を吸い込んだ。

「大丈夫か? ストレイン!}

「その声は……兄さんっ!」

 オレは兄さんの力強い腕で、底なし沼から脱出する事に成功した。


「ストレイン殿ぉ!」

「ストレイン! どこなのじゃぁっ!」

 その直後に二人も来てくれたけど、それじゃ到底間に合わなかったよ。

「けほっ……ふぅっ……」

 オレはみんなに離れてもらうようにジェスチャーで示して、水の流れを生成して、体に付着した泥を洗い流した。



「兄さんっ! 一度ならず、二度までも命を救ってもらえるだなんて、オレは……オレはぁっ……」

 オレはひざまずき、兄さんの手を取って語りかけた。

「ふっ……。初めて兄と呼んでくれたな、弟よ……」

 うわ……ヤバい。ルジェナさんの気持ちも無理ないわ。オールバックで後頭部でしばった髪に、幅は狭いが力強いまゆに、強い意志を秘めた瞳に、色素が薄くてすこし分厚い唇に、オレは魅入られてしまっていた。


「うぉぉ……。気のせいですかね……なんだか悪寒がしやすぜ」

「帰って来い! こっち(異性愛)に帰って来るのじゃあ、ストレイン!」



「なるほど……。それで苦戦していたというのか……」

「エルネスト殿……。弓矢で狙撃は可能だと思いやすかい?」

「いや、無理だな。上昇気流が巻いている上に、射出を気取られたら余裕で逃げられてしまうな」

 サモンさんと兄さんは、ジャンルは違えど弓を使う者として会話をしていたらしいんだけど。



「ほれ……。こっちの方が柔らかいぞ?」

「おっぱい……最高。おっぱいおっぱい」


 オレは姫の献身的な犠牲により、ついに正道に立ち返る事ができたらしい。残念な事に記憶には残っていないんだけどね。



「それにしても、どうして兄さんがここに?」

「ルジェナ殿が戻られる少し前に、妹が言葉にできない不安感を訴え続けていてな。ストレイン殿になにか危険な事が……とかな」

 周囲の薦めで自分で自分に状態異常を回復する魔法を使うと、これまでのもうろうとしていた意識がウソのように晴れ渡った。

「そうだったんですか。吉兆を占う事があると言っていましたし、それでわざわざ追いかけてくださったんですか」

「ああ。おまえが死ぬと妹が嘆き悲しむからな。あいつはあれでいて、感情が激しい」

 たしかに、あれだけ手こずっていたんだから、そりゃ小舟でも、追いつく事ができたって事か。

「ストレイン殿が三体やっつけましたけど、まだ丘の上の方にもいるようですし、対策が必要ですなぁ……」


「そういえば……姫にちょっとお伺いしたいんですが」

「な、なんじゃ……どのような事であろうかの……」

 姫はなぜか挙動不審で、オレを直視しようとはしていなかった。

「加護を受けた時に自我が拡大するというか、センサー感度が増したようなんですが、そういうものなのですか?」

 だとしたら、並み居る兵はみな熟練の兵になってしまうよね。

「あぁ、それなのじゃが……。あくまで軍勢に使う加護であって、一個人に使用した事がないのでな。過剰に反応しすぎたのであろうなぁ……」

 って、オレが腕を動かすたびにビクってしないでくださいよ。

「でもですよ……応用すれば、何らかのアレ対策になると思うんですよね」

「そういう事なら、戦闘妖精の得意とする範囲であるな……。宿主のサポートを行う事もできるからな」

 宿主? ダイエットのためにおなかにサナダ虫を飼うような?

「三年に一回、朝貢しているアレですか。けど、そんな物が手に入るはずもないですし……はぁ」

「いや……時間さえあれば……そして、より代となる物があれば、戦闘妖精を作る事は可能じゃぞ?」

「そうなんですか……オレとしては……アレをロックオン……すなわち、標的として固定して、魔法の矢を自動で追尾させたいんですよね。その上で数発放てば倒せるかと」

「うぅむ……普通は歴史のある巨木の一部であるとか、魂のやどった巨石のような物を使うゆえ、そのような手法に特化したものが、果たして作れるかのぉ……」


「ちょっといいか? なくなった伯父が、魔眼の射手といわれた、長弓の名手で、その形見の鏃を持っているが、どうだろうか」

「ほう……そのような物があるなら、可能かもしれぬが、喚起するのに魔力が必要で、微量ながらも魔力を生じる場所に放置して作らねばならんので、間に合うかの」

「魔力ですかい? でしたら、ストレイン殿に頼めば、あっという間って事は……都合良すぎますかね? へへっ」

「おお! 試した事はないが、理論上はじゅうぶんに可能ではないか」

「複数の敵に周囲を囲まれながらも、矢継ぎ早に矢を放ち、背中に目を持つとまで言われた伯父のやじりだ。ストレインのためなら使って欲しい」

 なんと持ち歩いていたのか、兄さんは首からひもでつり下げていた小袋を取り出して、姫に手渡した。

「そんな! 常に持ち歩いているだなんて、もしかして部族の宝のようなものじゃないんですか?」

「伯父はアルミラをかわいがっていたし、きっと喜んで協力してくださる」

「兄さん……」

「あー……コホン。ならばすぐにかかるぞよ!」

 なぜか姫はあわててオレと兄さんの間に割って入った。



「なるほど……宿主とは、オレの無意識領域に住むという事ですか。アルミラさんの伯父さんなら光栄ですので、お願いします」

「おお……では、わしの手を包み込むのじゃ……」

 姫は手のひらのくぼみに鏃を置き、オレは言われるがままに指を絡めていったんだけど、ものすごい欲求に駆られていた。

 言いたい! ○○○と叫びたい! と。だが、そんなおちゃらけた事が許される状況ではないので、オレは唇をかんで我慢し続けた。


「よし……精神を集中しながら、魔力を注ぎ込んでくれ。アルミラ殿の事を思いながらだと効率的やもしれぬぞ?」

「そうですか? わかりました……」

 オレは魔力転送の魔法を無詠唱で唱えて、手のひらの労宮というツボから、魔力を注ぎ込んでいった。


(アルミラさんか……。結婚の事もあるし、これが終わったら相談にいかなきゃ……。受け入れてはくれるんだろうけど、ほおを染めたりするんだろうか……アルミラさんかわいいなぁ……。オレたちのための新居も作ってもらおうかな……そして、薄闇の中、ほおを赤らめた二人が手を重ね、そっとよりそい)


「聞こえておらんのか! もうよいと言ったのじゃ!」

「ほぇっ……すみません。アルミラさんの事を考えてましたが、どうかしたんですか?」

「想定していた量の十倍以上も注ぎ込みおって、どうなっても知らぬぞ?」

「うわぁ……ごめんなさい。失敗したって事? やりなおし?」

 そう言った次の瞬間……。


『おまえなどに、アルミラはもったいない』

 オレの脳内で、物静かな男性の声が響いたんですけど、第一声がそれって、どういう事? 無意識じゃなくて表層意識じゃないですか。やだー。




BL展開はありませんから、ご心配なくw

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