第二十五話
前回の続きの上に、
消化しときたいレベルの話なので、
予定を繰り上げて公開しました。
「ふむふむ……。悪い事をしたなぁ……。王子だけど、五百円ハゲができてしまって、養毛剤を買いあさらせたって、余分な情報まで入ってたよ」
オレは三日間ワルゲンで待った後、レンカの仲間が作成したらしいレポートに目を通して苦笑してしまう。
「まぁ、良い薬じゃろうな……。そのアデナの密偵は、どこまでつかんでいると思うのじゃ?」
「そりゃぁ、王子の小姓の買い物の内容が分かって、あれが分からないはずもないし、会った密偵もうわさではオレの事を知っていたみたいだしな」
アデナの宮廷魔術師たちの前で能力を見せたのは、いま思えば失敗だったかもな。オルテナにそれを漏らすほどの愚か者はいないと信じたいけど。
「ふむぅ……。おぬしには迷惑をかけるのぉ……」
いまの姫はダラけモードが四割ってところだな。ソファの上でごろごろしているのを見ると、少しなごむ。
「なにを今さら。いざとなったら水の部族にかくまってもらえば、当面の間は見つかる心配はありませんよ」
すでに姫とルジェナさんの顔合わせも済んでおり、現在は急ピッチで建設してくれているんだよね。主にオレが燃やしかけた木とかを再利用して……。
「一度、アデナの王子……だと思うんですけど、会っておいて話をした方がいいかもしれませんね。姫が暗殺されるような心配は、百パーないですし」
もし、あの王様が実は密偵網をいまだに束ねていたのなら、すごいと思うけど、ないわー。一代貴族にやらせられるわけないし、あの場はごまかしたけど王子一択だ。
お花畑も困るけど、頭が切れすぎるのも、不安な気もしないでもない。
(しかし、代替わりしても、どうなんだろね)
そもそもの税収もあまり期待できないだろうし、あちこちで公共工事とかをする余力もないだろうし、オルテナへの備えも考えると、頭が痛いだろうな。
(こういう選択枝もあるよね)
斜め上の行動だけど、オレと姫様がオルテナの非道を訴えて、アデナにて亡命政権を作るのだ。ただし、姫を相手にしたくない補正さえクリアされてしまえば……。たとえば、イェニチェリのような、国王直属で国王の命令しか聞かない兵を……。どこから調達するんだよって話か。
(内政がほぼ都市単位でしかできてないのも問題だよね)
たとえば、在アデナ(ryを表向きの組織として、部族が多く住んでいる地に租借地でも借りてだな。税金は納めない代わりに、魔物と戦うとか、オルテナや他国への備えになるとか。だけどいま隠れて暮らしているのが、どうこうなるとも思えないか。
「しかし、エディウスの事は気が重いのぉ……」
「同感ですね……。はぁ……」
オレは、来るべき日の事を思いため息を漏らし、調べ上げられたエディウスの報告書をテーブルの上に放り投げた。
そして、二日後……。
「おお、エディウス。帰って来るのが遅かったではないか!」
アインツヴァル領に入るための東門は閉ざしたままで、エディウス殿が現れたとの事なので、中に通したんだけど……。
「申し訳ございません……姫」
あー……思い詰めた表情をしちゃって。腹芸ができる人じゃないのにね。
「ところで、別命あるまで、ストレイン殿の家族を守るように命令したはずじゃが、何か申し開きでもあるのか?」
「なにやらオルテナで不穏な動きがあったとの情報が流れたので、いてもたってもいられず……。申し訳ございません。姫……ストレイン殿」
「連絡もつかないところで待ち続けるのでは、疑心暗鬼が募っても仕方ないよね。いまはサモンさんに行ってもらっているから、安心していいよ」
まぁ、実際は水の部族の隠し里にいるんだけど。
「そうでしたか……」
「わたしも一度、ストレイン殿を導いたアルミラ殿にお会いしてみようと思っておるのじゃが、おぬしもついて来ぬか?」
「はぁ……姫のご希望なれば」
よし。これでアルミラさんの家への襲撃計画のような物はないと。さすがに一線は守ってくれたか。
「見ての通り、争いを避けて逃げ込んでおるのじゃが退屈でなぁ。なにか土産話でもないのか?」
「残念ながら、特には聞き及んでおりません……」
誘い水をあげたのになぁ……。
「そういえば、素朴な疑問だけど、エディウス殿はアインツヴァル領の騎士なの? それともオルテナから派遣されてるの?」
ほらほら。いいチャンスだよ?
「出向という事になっていますが……」
「なら、給料の支払いを止められちゃったりはしてない? 多少なら用意できるけど?」
「いえ……その……」
「あぁ、忘れるところだった。牧場に用事があるから失礼するよ」
オレは内心ため息をつきながら、帽子をかぶって姫の部屋を辞した。
「姫……。三人いたメイドと料理長はどうなされたので?」
「ああ……。迷惑をかける事になるかもしれんし、三か月分の給料を払って自宅待機してもらっておるぞ? ストレインの作る、白菜なべとか申す料理には飽き飽きじゃが、仕方あるまいて」
「ふぅ……」
オレは、自分の部屋で、かねてから用意していたスピーカーの魔法で、居間の様子を盗聴していた。ストップ犯罪!。
「あまりにも不用心ではないですか……」
「はっ……。ストレイン殿の腕前はそちも知っておろう? 十やそこらの暗殺者なら、わたし一人でも事が足りるのは知っておるではないか」
天敵だった爆裂芯の工場を壊したから強気になったのかな?
「それもそうですが、ご用心ください……」
「そちもおるから安心じゃろ……。ちと眠いので自室で休ませてもらう……ふわぁ……」
「さてと、廊下に切り替えて……」
少しして、エディウス殿が部屋の中をぐるぐる回ったあと、扉を開けたので、かねて用意の魔法を切り替えた。録音できないぐらいで、こんな屋敷ならほぼ網羅できる……ストップストーキング!。ノーモアー!
「そりゃ、鍵ぐらい持ってるねぇ。次は姫の部屋と……」
オレは重苦しい空気に包まれながら、対象を切り替えた。
「ふみぃ……すぅ……」
ちょっとわざとらしい寝息だな。
「姫――。初めてお会いした時から全身に電撃が流れて、わたしは命ある限り姫をお守りしようと……。ですが、それはかなわぬ恋心。ですが、あなたのお命を危険にさらすぐらいならいっそ……。姫にとって戦女神は重荷でしか……御免!」
はい、ギルティー! オレは階段を駆け下りて、その現場へと向かった。
「なぜ、弟の事を相談せん! このばか者が!」
「うわ……よりにもよって……」
どうしても危ない時のための対処法を姫にアドバイスしておいたんだけど、早くも伝家の宝刀を抜いたのか、エディウス殿は脂汗を流しながら、じゅうたんの上で苦悶の表情を浮かべて白目をむいていた。
「悪いが、兄上にたいするカードとなってもらうぞ。ストレインが何度も呼び水を向けていたのにな」
「まぁ、事の次第を明らかにしたら、実家や弟さんの心配はなくなりますよ」
ただ、エディウス殿の解任は決定だろうね。
「ストレイン……空いておったから入ったが、やはり懸念の通りか」
ルジェネさんが二度目とはいえ、遠慮せずに姫の部屋に近づいていった。
「ええ。まだ幼い弟さんを強引に王子が小姓にするなんて……人質と言ってもいいですよね」
なぜ相談してくれなかったんだろうかと思うけど、すぎた事は仕方ないなぁ。だけど……。
「殺しさえしなければいいのなら、何をしてもいい……。王子がそうお考えなら、わたしも遠慮はいらないですね」
「おいおい……。そう殺気立つなストレイン。おぬしが潜入するのでは、今度こそ死人が出るぞ」
「ロープを持って来やしたぜ……」
サモンさんも複雑そうな表情を浮かべていた。
「だけど、オレがやらないで、誰がやるんですか? ルジェネさんの密偵網?」
「いくらわたしでも、オルテナ内にまでは張り巡らせておらんよ。土の部族の密偵に任せているが、部族の中ではもっとも強力だからな」
「へぇ……けど、協力してくれますかねぇ?」
前に全部族に連絡とか言ってたし、どんだけなのよ。
「すでに内諾はとっておる。ただし、対価として、おぬし達に依頼したい事があるそうじゃ」
ルジェナさんは、オレたち三人を見渡して笑みを浮かべた。
「そういえば、土の部族も風の部族も会った事ないですけど、紹介してくれないんですか?」
「火や水とは比べものにならないほどの秘密主義ゆえな」
という事は、会わなくても依頼はできるのか。
「わかりましたよ。どうせここも引き払う時期って事でしょうし」
「そうじゃな……。腕が鈍ってもいかんし、槍働きなら任せるがよい!」
「へへっ……。ストレイン殿とまた旅に出られるんですかい? モンド殿も資金集めに苦労しているようですし、あっしも機会があったら一稼ぎしまさぁ」
二人は快諾してくれたので、気が楽になったけど、いいのかな。
「三日後に出発するような予定でいればいい。それまでに結果は出ると思う……。姫は父王への手紙を書いて欲しい」
ルジェナさんは満面の笑みを浮かべていった。
オレたちは総出で掃除をして家財の一覧表などを作って、代官が来たらいつでも引き渡せるようにしていた。
「ハンパねー……土の部族だけは敵に回さないようにしないと」
それと、ルジェナさんもね……。
「むぅ……。さすがに兄上が少しかわいそうじゃがの」
「自業自得ってヤツでさぁ!」
土の部族からの報告書では、土の部族最高の美人をエサとして、王子を釣りだした後、酒を飲ませて意識不明にした上で、頭の毛を刈り上げて五百円ハゲがありありとわかる状態にして、服を脱がせて、なぜか赤い越中ふんどしだけをはかせて、大門につり下げたとの事だ。日本人が製法を教えたのかな? 委員会で聞いてみよう。
エディウスさんを出頭させた上、姫からの国王への手紙による告発もあり、謹慎期間が二年延びたとか三年延びたとか、人々はうわさしあっているという。
妹に暗殺者を送るより、妹の純潔を奪おうとさせたとか、自らの性的なスキャンダルの方が評判に響くとか、オルテナは恐ろしい国よのぉ……くわばらくわばら。
ここまではいわば、インターミッションですね。